神社のある風景

山里の神社を中心に、歴史や建築等からの観点ではなく、風景という視点で巡ります。

宝竜滝・野の滝

2008年12月21日 | 滝・渓谷

和歌山県新宮市熊野川町瀧本


新宮といえば海沿いの町であるが、この旧熊野川町にある瀧本集落は、京阪神から訪ねるには、近畿で最も山深く遠い場所のような気さえする。
十津川沿いに紀伊半島を南下していく道中は、山また山の深い谷間の道。その道を本宮辺りまで走ると、川幅は広くなり、漸く明るい快走路となるのだが、暫くで支流の赤木川沿いの道に入る。
やがて道は、車が擦れ違える場所も殆ど無い狭いものとなり、ひたすらカーブを繰り返しながら山奥へと分け入ってゆく。落石も多く、路面には落ちてきた石が散らばっており、うっかりするとタイヤを傷付けたり、車体の底を擦ったりする。
十津川沿いの道を走ってきて少々疲れた状態で、この狭路はかなり堪える。地図で見る以上に、ひたすら長く感じられる道だ。
辿り着いた瀧本集落は、僅かばかりの平地があるだけの小さな集落だが、それでも道中の圧迫感を開放してくれる空の広がりがあって、ほっ、とする場所だ。
標高は200メートルほど。地図上の感覚からすれば、海から比較的近いのだから「そんなものだろう」という気もするけれど、ひたすら山道を走ってきた感覚からすると、「たったの200メートル!?」と驚いてしまう低さだ。500メートルほどの高地にいるような気がするし、周りの風景も山深いものである。
その瀧本集落は、滝が多いことで知られていて、瀧本四十七滝とも呼ばれている。山を越えれば那智の滝にも近く、地質的に似通った、硬い岩盤質の山なのだろうが、周辺の地形の険しさは、那智を遥かに凌ぐ。中でも宝竜滝は裏那智とも呼ばれる瀧本の代表格だ。
この滝を訪れるのは二度目。前回は水量が少なかったこと、すぐ近くにある野の滝を見ていないということ、それから、ブログにぜひ載せたいということで再訪である。



今年最後の紅葉を見るつもりで来たが、南紀とはいえ山間部で気温は低く、葉の散ってしまった木が多い。大阪の気温は7度くらいだったが、こちらは0度に近い。
林道終点近くから、対岸の紅葉。


宝竜滝。
残念ながら今回も水量は少ない。ネット上で見かける画像では、凄まじい勢いで水を落としているものが多いのだが・・・。
運の悪さもあるが、実は上流では発電用に取水されている、という理由もある。
落差は50mほど。ここからは見えないが、更に上段があって、全体で100mほどの滝である。
左手の黄葉した木の裏手から、次々と水蒸気が立ち上っていくのが、なんだかとても不思議な気がした。


この深く抉られた岩盤から、本来の水勢の凄まじさが想像出来るのではないだろうか。


宝竜滝はちょっと拍子抜けだったので、早めに切り上げて野の滝へ向かうことにする。
宝竜滝の近く、左岸に山に入っていく小道があったので奥へ進む。
林内は、まだ鮮やかに色付いていた。


すぐに苔生した小さな谷川に出る。
ここから少し右に目を転じると───


木々の向こうに野の滝が望まれる。
紅葉している木々があるのに、苔などの深い緑があって、北近畿などとは趣の異なる秋の風景だ。
それにしても、林道から僅かな距離を歩いただけなのに、凄まじい山奥の秘瀑でも見ているような雰囲気だった。


上部には霧がかかり、天から落ちてくるかのよう。
落差は60mほど。


滝壺まで行くには、やや危険が伴うようなので遠望にとどめておく。
それにしても気になるのが、


この、滝の上部に生えている木。どうもヒノキのようで、よくこんな岩壁の不安定なところで、これだけの大木に育ったものだと感心する。


渓谷を出て瀧本集落へ。
谷間よりもずっと深い霧に包まれていたが、山の端から、霧を透かして太陽が顔を出してきた。


南紀の集落には石垣が多い。
民家にある柿の木が、霧越しの淡い朝陽に照らされて、枝先の水滴が輝いていた。
神社を撮るよりずっと前は、こういう風景を好んで撮っていた。


2万5千分1地形図 紀伊大野
撮影日時 081204 6時20分~8時20分

駐車場 林道終点、もしくは途中に僅かながらスペースあり
地図

 


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15 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (uzi)
2008-12-21 13:46:16
その場にずっと立っていたいと思わせる写真ばかりです。
でも、応接間に飾るのだったら3枚目(滝壺)でしょうか。
来客の視線が、一瞬釘付けになるのを想像してしまいます。

1024×768でも写真の全体が見られるようになりましたね。
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Unknown (Jun)
2008-12-21 19:07:19
私も滝壺の写真に息を呑みました。
いつも素晴らしい風景を有り難うございます。
霧の中の風景をこんなに綺麗に撮影出来るのが羨ましいです。
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素晴らしいですね (era)
2008-12-21 19:49:06
自分は一枚目と五枚目が好きですね・・・滝じゃ
ないんですね。滝も素晴らしいですよぉ。
滝がメインなら六枚目ですね。
さすが熊野ですね。きっと何回行っても楽しめ
るんでしょうね。

関西でマズイ店って、ほとんどないですよね。
関東では何故か生存するマズイ店ってありますよ。
意外と我が地元はあります。
若狭牛は扱う店が十店くらいらしいですよ。悪友
は若狭に行くと必ず食べるそうです。

24日から会社の旅行なんですがギリギリまでこき使
われます。倒れそうです。
そのあとに和歌山・三重・滋賀に神社巡りします。
三重が合祀しすぎ。ホント神社足りない。緑が少
ないと・・・不満タラタラにくせに今年は参拝。
正月は氏神さんに参拝のあとに遠出しますよ。
たぶん茨城ですかね?
丹波いいなぁ~。あそこは風情に塊ですよね。
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Unknown (幽黙)
2008-12-21 23:06:37
なんだ
なんだこの雰囲気は…
背筋がゾクリとするような感覚です
ものすごく神経が研ぎ澄まされそう
やはり滝壷と六枚目でしょうか
そして最後の二枚の風景も
ふと幻を観るような風情で
心惹かれるものがあります
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Unknown (hiro1jz)
2008-12-22 06:28:54
>uziさん
応接間に飾るだなんて、分不相応な・・・。
いい風景に出会えても、いい表情を捉えられていない気がします。
でも、俄然やる気が出てきます。ありがとうございます。

写真を見ていただこうとしているのに、
写真表示が不親切な前の表示は我慢できなかったので、
ちょっと手間でしたがカスタマイズして、
やっとそれなりに納得できる表示になりました。
もし、表示にご不満な点がありましたら、是非おっしゃってください。


>Junさん
自分が「いい」と感じた風景が、
見てくれる人に伝わるならとても嬉しいです。
Junさんは丹波方面に行かれることがあるようですが、
丹波も霧の多いところですし、幻想的な風景に出会えると思います。
霧や雪など白が基調の景色は、カメラが実際より明るいと判断することと、
ホワイトバランスが青寄りになり易い点に注意して撮ってます。


>eraさん
実際、熊野は私にとって夢のようなところです。
熊野の方が熊野を紹介されているブログって多いと思うんですが、
それも当然でしょうし、私も熊野に住みたいです。

東京周辺は人口が多いですし、関西ほど客の取り合いにならないんでしょうかね。
鉄道会社なんかでも、関西と関東ではサービスが違うと聞きますが。
普段からあまり肉類は食べませんし、野菜や魚介類の方が好きなので、
せっかく海沿いの若狭に行って肉を食べるのは勿体無いような気が・・・。
あ、でも伊勢で松坂牛ならいいような気がします。
ど~んと松坂牛と伊勢海老でどうですか?(笑

滋賀や和歌山まで足を伸ばされるのですか。
なかなか忙しい年末ですね。
私はサービス業なんで年末年始関係無いんですよ(涙
今年の初詣は宮川神社でした。
来年はどこにしようか・・・。


>幽黙さん
6枚目、右側の枯れた枝の寂寞とした感じ、
それから最後の柿の木についた水滴、
どちらも元の画像サイズで見ていただきたかった・・・。
たぶん、見てくださる方が、
それこそ神経を研ぎ澄まして脳内補完してくださってるようで助かります。
撮っている最中、私もそんな感覚に陥ってます。
寒さとか疲れとか、そういった感覚が抜け落ちて、
対象物だけしか見えなくなります。
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熊野にようこそ! (mikumano)
2008-12-22 18:15:00
いつも素敵な作品をありがとうございます。
5枚目の作品は先日私が訪れた際に立ち止まった場所・・・野の滝はいい感じに紅葉していますね!

結構あちらこちらと周られた様なので、作品がアップされるのを楽しみにしています。

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そうですね (era)
2008-12-22 22:32:06
熊野はファンタジーの世界というか聖地ですよね。
個人的な経験でいえば熊野と出雲は別格でしたね。
空気から違っていましたよ。
たしかに住んでみたい場所ですよね。

関西ほど食にうるさくない人が多いんですよ。
ホント関西の地元だけを開いてにするお店って
信じられないくらい美味しいんで感動しました。
魚が好きなら日本海は天国ですね。新潟もお薦め
ですよ。

イセエビもらった。そのアイデアにのりますよ。
松坂牛は高いんで躊躇していまするぅ。
hiro1jzさんは季節無視のサービス業ですかぁ。
自分も似たもんですが休みます。
しかし豪華な初詣ですね。自分は夜中に氏神さん
参拝してから目的の神社に行くのが、ここ数年の
行動ですよ。今年も豪華に攻めるんですかね?
こっちは忙しすぎて金欠確実です。トホホ。
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Unknown (hiro1jz)
2008-12-23 09:05:09
>mikumanoさん
南紀では、見所が多すぎて一日があっという間に過ぎてしまいます。
本当は、その一つ一つに何度も足を運び、
あらゆる季節、あらゆる時間帯の表情を撮りたいところですが、
そうも言ってられません。
そういった限られたチャンスの中で、部屋滝はいい条件で撮ることが出来ました。
たぶん、布引と雨滝が先になると思うので、
部屋滝はちょっと先になりそうですが、
またぜひ見てください。


>eraさん
南紀というと、海があって温暖で、
明るいイメージを持つ人が多いようなんですが、
もっと濃密で、単純に明るいわけではないですね。
熊野に多い照葉樹の葉の表裏のように、
大きな明暗差を内包しているように思います。
出雲は、急ぎ足で出雲大社に行っただけで、
語る資格はありませんです・・・。

東京は、あらゆるものが集まるところですから、
マズイ店もあるでしょうが、やはり一流も多いでしょう。
魚は食べるのもいいですが、見るのも好きです。
スーパーの魚売り場を見ているだけで楽しくなります。

伊勢海老いきますか!
って、ヘタすりゃ伊勢海老の方が高くないですか?
大阪にわりと安い松坂牛専門店とかありましたが・・・。
近所の神社はマンション横で風情が無いんですよ。
今年が宮川で去年は櫛石窓、べつに丹波でなくてもいいんですが、
人が少なくて雪の積もっていないところ、という条件で行ってます。
摩気神社にしようかなぁ・・・。
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Unknown (幽黙)
2008-12-23 22:04:23
eraさんに紹介したはずだったのに…
近所の電気屋であれこれさわって
確認していたら…

Canon PowerShot G10

買ってしまいました…(-"-;;;
びっくりするような
現金値引き価格を出してきたもので…

どこかへ練習撮影に行きたいな…
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うわ (era)
2008-12-23 22:40:06
幽黙さん
やってしまった。。。先を越された。悔しいような
楽しみのような。。。
練習場はディープな場所ですか?楽しみざんす。

hiro1jzさん
熊野は、温暖な風光明媚な場所ではないですね。
説話のせいか透明感のある陰気さとでも言うよう
なモノを感じますよね。
出雲も熊野に負けない清浄感を感じましたよ。
ぜひぜひ時間をかけて行って見てくださいませ。

イセエビ狙います。悪友が二見の方で死ぬほど
うまいイセエビを食べた話を思い出しました。
悔しいので奮発予定です。
魚好きなら千葉の最南端の安房もお薦めですよ。
このへんでは一番かもです。
もしかしてhiro1jzさんは釣り人ですか?・・・
違う予感だなぁ。

初詣に摩気神社は豪華ですな。このエリアだと雪
の心配少ないんですね。狙っていないのに丹波が
続くなんてうらやましいかぎりです。
ぜひ初詣もアッ王してくださいね。

では、明日から旅行に行ってきまする。
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