超兵器磯辺2号

幻の超兵器2号。。。
磯辺氏の文才を惜しむ声に応えてコンパクトに再登場。
ウルトラな日々がまたここに綴られる。

水素水で健康セミナー

2017-03-05 21:15:20 | 職場
世の中と同様、我が社も高齢化が進み、決まりに従って毎年一定数の人が退職していく。「ゆく人よりもくる人の方が少ない」から、総人数は毎年結構なペースで減っていくことになる。仕事量そのものはこれに合わせて減ってくれないから、どんどん効率化を進めていかないと残った者は仕事ばかり増えてえらい苦労することになる。多くの企業がそうかもしれないが、高齢化による人員減耗と効率化の追いかけっこが大変だ。困るのは所定の年齢などに達していなくても「もういいかな・・・」と割り切ってベテランの人が辞めてしまうことである。相応の年齢だから「健康上の問題」「家庭の事情」「ある程度の達成感が満たされた」などと理由は様々だが、どうも蔓延しているのは「何となく居心地が悪い」というものらしい。シビアに言えば「先に生まれた者の居心地がよい」時代の人々だから目まぐるしい変化に息切れしてきてしまったのかもしれない。今は「変化に順応する者の居心地がよい」時代だと思われる。

企業だからちょうど今くらいに4月から始まる来年度、「どんなことをするか」堅苦しく言うと事業計画なるものを策定する。ぶっちゃけ「どうやって儲けるか?」の作戦集だが、シミュレーションやらマーケティングなどカッコいいことばかりではない。人が仕事をする以上、それをケアすることもかなり織り込まれている。特に今回は「永く留まりたい職場とするにはどうすればよいか?」をテーマに色々と議論された。私も入ると悪乗りして「遊び」と「健康」の話ばかりになってしまうのだが、皆真顔でアイディアを出している。「全社で年1回催されている『Wii大会』優勝に向け予選リーグを設けてはどうか?」「社内の駅伝大会も予選会を設け、応援団を組織してお祭り騒ぎにしよう」「いろんなジャンルの意見交換会をやったらどうか?世代別、出身別、趣味別とか・・・」「記念日休暇を増やそう。結婚記念日、誕生日だけでなく、我が方の創立記念日とか、無事故連続記録達成日とか・・・」どれも大したことがなく、私の出したアイディアの斬新さには及ばないが、ここで書くと「アイツふざけてるんじゃないか?」と言われる危危険があるので機密事項にしておく。

年齢が高い層に向けては健康関連の取組みアイディアが盛んに出た。「アロマ加湿器を入れたらどうか?」「酸素カプセルという手もあるな」「花粉症は能率を下げるよな。花粉症対策グッズを配るというのは?」「産業医が毎月来てくれるから、高血圧対策意見交換会を開いては?運動不足解消なんかも集まりがいいかも」「コピー機前にイボイボのついた健康マットを広げたらどうか。思い切り痛いヤツ。そしたら紙削減につながるんじゃないか?」「スマホアプリでウォーキングラリーをやって、TOP3を表彰したらどうか?」「オレこお前、千歳に行く時のJAL機内誌に超高級なマッサージチェアがあったんだよな。確か月々5000円くらいでICUみたいなすごいヤツだったんだけど」「磯辺さんが持ってる水素水のサーバをつけてあげたらどうか?最近流行ってるみたいだし」自家庭に水素水発生器を持つドクが興味深そうに言うと、総務のヒコさん(仮称)が「それなら、ボクの知ってる事業部に話すと代理店になってるので、セミナーがてら製品の紹介に来てくれますよ。確か弁当も食わせてくれるんです」「そりゃー、面白そうだね。早速頼んでみようよ」

こうして昼休みに「健康セミナー」と称して昼食付きの説明会が開催されることになったのである。準備ができたと聞いて会議室に行くと、スクリーンの前に何やら理科の実験セットのような台と水素水製造機らしき箱が見えた。部屋に入ると説明員らしき人がすっ飛んできて名刺を渡された。「東京支社長」とかいう肩書だった。テーブルにはお弁当とペットボトルのお水が置かれている。代理店となっている我が社のとある事業部の部長が冒頭の挨拶を済ませると支社長殿はいきなり満面の笑顔で「このたびはご紹介の機会を頂いてありがとーございまーす。お昼休みですから、お弁当でも食べながらお気楽に聞いてください。ご用意したお水は普段はどこにも売っていない、当社の製造機で作った特別な水素水です。新鮮さが大事なのでどうか今日のうちに飲み終えてくださいね。そのお弁当もね、おかずもご飯もこの水素水で作ったものなんですよ。自慢じゃないけど、どれも美味しいと思いますよ」

この会社は「水だけで35年、商売を続けて、このたび行政から医療用飲用水として認可され多くの病院で使われているそうだ。ドクの自宅にもある大手電機メーカーの水素水製造機も私がオプション会員になったジムの水素水サーバーのメーカーも含めて、やってきた会社は業界最大手で一部上場企業らしい。「世に多く製品としての水素水や水素水サーバがありますが、一部では「効果がない」という記事も出たり諸説あるのはとても心外です。当社の製法で作った水素水は間違いなく効果絶大で、T大、Q大の研究成果でも発表されているんです。当局にも唯一「医療用」と認可された時は大々的に新聞紙の一面に載ったんですよ。今日は、ちょっと実演も兼ねてご理解いただこうと色々用意してきました。一応、準備も大変なんで、驚くときは大きく「おおーっ」と歓声を上げてくださいね」まるでT急ハンズの実演販売だが、いくつかボトルを取り出した。

「これに取り出したのは正真正銘の活性酸素、何だか分かりますか?オキシドールです。理科の実験で酸素を作った薬品ですね。無色透明なので、ヨウ化カリウムという試薬を加えます。ほら、みるみる青黒くなりますね。これを3つに分けることにします。実は抗酸化作用があるものを他にも持ってきてるんです。これは緑茶、何の成分が効くか分かりますか?」
この方面にかなり詳しいドクがすかさず「カテキンじゃ?」と答えると「正解!これをオキシドールに加えてみますね。」蓋を開けて真っ黒な液体に注ぐとすこーし透明っぽくなった。「ほら、市販の緑茶でも少しは効果があるわけです。じゃ、次に市販の水素水を加えてみますね。水素は一番小さい分子なので、金属容器じゃないとどんどん抜けてしまうんです。このボトルには『移動するときは水平を保ったまま、蓋を開けたらただちにお飲み下さい』って書いてありますけど、じゃどうやって運搬してきたんだよ、って突っ込みたくなりますね。」口と手をせわしなく動かしてもう一つのコップに注ぐと見る見る透明な水に戻り、場内からは最初の「おおーっ」という歓声が上がった。

「ちょ、ちょ、ここ驚くとこじゃないんですよね。市販の水素水でもちゃんと効果はあることはあるんですよ。でもねー、ちょっと違うんだな。我が社のとは・・・」「元に戻るんじゃないか?」やはりドクが指摘すると「鋭い!そーなんです。ほら、少し変わってるの分かりますか?ほらほら・・・」透明になったコップを高く持ち上げると、少しずつ濁っていきしばらくして真っ黒に戻ってしまった。「(なるへそ。売り込みの水素水はずーっと効果が続くと言いたいのね)」まさしく予想通りでその後畳みかけるようなパフォーマンスだった。買ってきたプチトマトをざるのボールにあけて上から振りかけると、真水では透明だが水素水だとみるみる黄色く濁っていくのは残留農薬や不純物が溶け出したものだといい、白米にかけるだけであっという間に糠がとれて白く濁ってゆく。そして最後に「ボクは●グループさんにこうしてお邪魔してこれまで850人の方にこの装置を買って頂きました。彼らにはホントに叱られるんですが、今日は弊社創立35周年、年度決算特別セールということでお手元のチラシの価格で販売させて頂きます!ただしいつもこの価格で買えると広まってしまうとやっていけないので、『今、この場で申し込んで頂いた方』のみとさせていただきます」

「(やっぱり、こー来るんだな。それにしても見事な煽りだ)」苦笑していたら「何かご質問のある方いらっしゃいませんか?」とさらなる煽りに、我がセクションの水素水第一人者であるドクがおもむろに挙手し、「じゃー、ちょっといいですか?水素水って含有される水素の濃度が大事と聞いているんですけど、パンフレット記載の濃度はそう高くありませんね。濃度と効果の関係はどうなんですか?」うーむ。。。かなり鋭い質問に思えたが、支社長殿は想定内だったらしく、「いやー、まだ研究中のところはあるんですがね。製法とか保存の仕方、また電極の成分など多数のファクターがあって、単に濃度が高ければいいというものでもないんですよ。例えばね・・・・」野菜の農薬の話や市販のミネラルウォーターなど多岐に渡ってまたTVショッピング節が始まった。それに若干イラついた私は「あのーぅ、初歩的な質問なんですが・・・体内の活性酸素の中和って水を生成すると理解すればいいですか?」「もちろんそれで結構です」自信に満ちた顔で多少の上から目線で答えられたところで私の胸の奥底に眠る理系魂に火が付いた。

    

「ふーん。実はボクもスポーツジムで水素水ってのをもらってるんですが、200mlの水素水の中に19兆の1000万倍の水素水分子といううたい文句があったんですね。また別のサイトで人間が1日に吸い込む酸素の量が500リットル、その約2%が有毒の活性酸素になると聞いて・・・酸素と水素の反応で無害な水ができる化学反応式と分子量、理想気体の状態方程式を使うと200mlの水素水がどれくらいの活性酸素を中和できるか計算できるはずですよね。この仮定が間違ってなければ0.37%しか還元されないことになるんですがねー。」「えっ?あっ?もしかして化学専攻の方ですか?」「別に。。高校で習ったはずですど」「えー、正確な数値は調べてませんが、昔に比べて人体で発生する活性酸素は増える傾向でして・・・その増えた分を中和するとお考えいただければ・・・」なるほど、さすが百戦錬磨の実演ショッピングだ。私はトドメの一撃のつもりで「まだKIとオキシドールありますよね。ちょっとボクの水素水持ってきますから、どのくらい還元できるか見せてもらっていいですか?」

自席から持ってきた真空用水素水パックを取り出して、真っ黒なオキシドールの注ぎ入れたら・・・何と、全く効果は見られなかったのである!「「な、な、なんと!?オレの水素水、ただのお茶にも負けるのか?!」室内は割れんばかりのどよめきと、がっかりする私を笑う声に溢れたが、心の中では「(ま、あまり追及はせぬが、このあたりちょっと怪しいな)」この手のモノにすぐに「やられて」その気になってしまい、8割がた申し込むつもりだった私はギリギリ思い留まった。昼休みが終わって後片付けが終わり、ヒコさんが「かなりの盛況でしたね。プレゼンした○○さんも二人も申込者が出て満足してましたよ。あそこで磯辺さんが契約宣言してくれたら効果絶大だったのに、とか言ってましたけどね。」私は「やらせなわけないだろ」と苦笑しながらも、「たぶん自宅に買うほどのモノではないな」と論理的に結論づけていた。だが「一番いいヤツを会社に入れろ」と指示することも忘れなかった。


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2 コメント

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Unknown (小夏)
2017-03-08 18:27:12
今は「変化に順応する者の居心地がよい」時代ですかっ
なるほどぉー、スッキリ

し、しかし、
ギャハハハハー、「一番いいヤツを会社に入れろ」って、一瞬目がテンになりましたけども、最高ですねー
師匠ご持参のは抜けてしまったのかしらん・・。

「胸の奥底に眠る理系魂に火が付いた」って、、クスクスわかりますー!たぶん発言された以外に何通りも攻め方が浮かんでおられたのではー?^^

一日二万歩の無茶したパリからかえっていまだ疲れが芯から抜けません(歳?)
状態の良い水素水飲みたい気持ち~
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Unknown (磯辺太郎)
2017-03-08 22:14:06
小夏さま

3月でお辞めになる大ベテランがやけに多かったので、ちょっと愚痴っぽくなっちゃいましたね。

一番いいヤツ=当然です。会社の費用ですから(笑)
私の水素水バッグは専用の真空バッグなので、ただの「お茶」に負けるほど抜けるわけはないのです。

プレゼンターにケチをつけるわけではありませんが、の手この手で攻めた結果。後から内緒で隠してたことをゲ□しました。(インチキではないですが)

ホントに師匠の旅行記楽しみにしています。次に「ビジネスクラス」に搭乗できる機会があったら、「高濃度水素水ありますか?」とCAに聞いてみます。(マイルがもらえるアンケートに書いておこうかな)
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