超兵器磯辺2号

幻の超兵器2号。。。
磯辺氏の文才を惜しむ声に応えてコンパクトに再登場。
ウルトラな日々がまたここに綴られる。

北の国でのクリスタル・K

2017-04-17 22:37:05 | 昭和
新年度明け初日、いきなりマッドサイエンティストを演じて、事業年度キックオフ懇親会を飾って1週間後、都内の別のオフィスビルで同様のプレゼンを行った。その日は我が社で定めた「安全の日」ということで、朝の朝礼では10分ほどの「安全講話」を依頼され、4月に新しく配属された20名近くの若手フレッシュ社員への講話、そして入社3年目くらいの若手核要員の発表会の終わりに総合講評と啓蒙のためのレクチャーを頼まれており(全く人使いの荒いスタッフだ!)、最後に例の数十ページの「重点取組説明」である。人前で喋ることをそれほど好きではないし本業でもないのに、さながらノーギャラ有名人の営業講演スケジュールのように数だけは重なり、全部内容の異なるプレゼンを終わってみると喉がからから、ヘトヘトになる。同じことを「北の国」と「杜の都」で繰り返すと思うと、少し気が重くなるが自分では4回分でも聞く人は初めてだから、中々手抜きはできないものである。

キックオフ懇親会は前回、合成画像なども使って中々趣向を凝らした決意表明をした部門があったり、マッドサイエンティストによるアルカリイオン水素水の効果に関する実証実験があったことはすでに次の拠点には伝わっており、若手を中心にさらにパワーアップしたコスプレ決意表明が噂されていた。その拠点フロアにもアルカリイオン水素水を導入するつもりだったから、一応前回同様の実証実験の準備はしていったが、「やるかやらないか?」はその場のノリによって「浮かないように」判断するつもりだった。しかしやはり後半になって酒が進んでアトラクションが盛り上がると「その気になって」しまい、実験用白衣を取り出したのだった。発足以来もっとも出席率が高いと思われる大群衆は期待をこめて(半ば呆れて)いたようだったが、「同じことは繰り返さない」主義の私は、100円ショップで買ってきたもう一つのアイテムを引っさげて現れたのだった。「皆さん、こんばんは。マッドサイエンティストのロビン磯辺改め、『カンムリワシ』磯辺です」(知ってる者だけが腹を抱えた)

さて順番でいくと次の回は「北の国」だった。東京は20度にも届く勢いで暖かい陽気なのに、何と北の国は「雪が舞うかもしれない」予報だった。仕方がないので、もうそろそろ寿命となる初夏用の薄手ジャケットの上に真冬用ダウンを羽織って飛行機に乗り込んだのだた。私は久々にこれまただいぶくたびれてきた、鎌倉小町通りのおもちゃ屋で購入したウルトラマンネクタイをしていたのだが、飲み物をサーブしにきたCAが「素敵なネクタイですね」とにっこり笑ったのだった。これまでも何度かあったのだが「(へーえ、CAって時々そういうコメントもするんだな)」と不思議な気分になっていた。たぶんそういうことに慣れたベテランCAだったのだろう。「新千歳空港周辺の天気は曇り、気温は4℃でございます・・・」そして空港から駅に向かう列車の車窓から見ると横殴りの吹雪になっていた。(もう4月半ばだぜー)
「オレ、結構色々行ってるから昼食は決めていいよ」と言っておいたら、駅から少し距離のある札幌みそラーメン専門店に向かうことになった。確か前回も大雪の中、フードを被って雪中行軍したあげく席待ち行列に阻まれて断念したお店だったが、幸い若干時間がずれていたこともあり、スムーズに店に入ることができたのだった。

  

業務改善発表の対象となる若手核要員は1名しかしなかったが、上司や多くの管理者に囲まれて手厚くレクチャーし、その後はいつもの講話会である。前半は新年度重点的に行う取り組みの説明、後半はそれを行うための具体的プランが主になるが、大体後半に聴衆参加の閑話休題コーナーみたいなものを設ける。今年度は「職場の風土改革」というのが会社的なテーマにもなっているから、関連するエピソードをいくつか紹介して「こんなことが参考になるんじゃないか?」と考えてもらうわけである。
①一人の時は全力を尽くしても集団で何かやると「誰かがやるだろう」という心理が働いてしまい、個々人は手抜きするようになる。
②あるテーマに対してアイディア出しを行うと、その人の考えるスタイルによらず、「個人」の方が量も質もよいアイディアが出るようだ。(ただしグループ討議の後、個人で持ち帰ってアイディアを考えるのが最も効果的だ)
③グループでアイディア出しをする時には、とにかく発言に対し頷いてあげるとたくさん出る。
業務改善や職場の風土に関して、基本は職場メンバ数人で形成するグループで色々考え取組みや発表資料をまとめたりするが、会社から「やって」と義務付けられたようなものは得てして愚にもつかないようなアイディアばかりになる。上記3つの事項はちょっと皮肉っぽいが誰もが経験的に頷けるところも多いだろう。

        

次に私は3本の棒が描かれたスライドを出した。
「右側の棒と同じ長さだと思うのを左の3つから選んでください。まず①だと思う人・・・んっ?②だと思う人・・・・はて?③だと思う人・・・うっそー?!」
「ちょ、ちょっと待ってください。別に変な罠じゃないですよ。もう1回やるよ。①だと思う人・・・うーむ。。。」私は思わず説明者の位置から降りてスクリーンの後ろまで歩いて眺めてみた。①に手を挙げた人はちらほらしかおらず、②ばかりだったのだ!
「ちょっとさー、ここヒネるところじゃないんだよね。どう見たって①じゃんか。ここで間違うと次の話に繋がらないんだよなー」
思わぬところで場内が笑いで盛り上がったが、続けて演出したかったのはこういうことだったのだ。
「自分の判断では答えは明らかだと思える事項で、実際そうであっても、大勢の他人が違うことをすると自己の判断に自信がなくなって同調していまう。しかし集団に一人でも見方がいるとその同調率は急激に下がる。だから大勢の中で間違いやルール違反を指摘しようとした者に対しては誰か一人でもいいから味方になること。」

      

そして順序がよくなかったかもしれないが、次のスライドはたまにヒューマンエラー研修などで見かける絵で、こちらは私の思惑とおりだった。一般的には「錯視現象」と言われ周囲の模様や配列などに惑わされ大小や方向などを錯覚してしまうものだ。「右側の●が大きいと思う人・・・ふむ。左側の●が大きいと思う人・・・ゼロ。いや、両方同じ大きさだと思う人・・・多数。いやー、今度は期待通りですねー」実は私がこっそり仕掛けたいたずらで、左側の●がほんの少しだけ大きいのである。
「まず予備知識なく見た目だけで答える人は普通なら右側が大きく見えますね。そして『これが錯覚の話』だと過去の学習で知っている人は見た目ではなく、同じ大きさと答えるでしょう。しかし錯覚もあるけど、時として予備知識や先入観というのも間違った答えを導き出すということです。ちょっといじわるですが、「磯辺ほどのヒネクレ者がこんな多くの人が知っているような錯覚の絵を持ってくるはずがない。何か罠があるはずだ」と洞察する人はすごいと思いますが、残念ながら一人もいませんでしたね」
「やられた・・・」「なるほど・・・」「ええーっ?」苦笑、感心、呆れなどの入り混じった表情の観衆を前に「誰もが思い描く風土改革を見える形にしてほしい」として、約2時間にわたる講話を閉じた。

    

さて、夜の部キックオフ懇親会は下馬評ではかなり「やってくれそうな」感じだった。「磯辺さんにも参加してもらいますので・・・目隠しとかもあります。またお得意分野の解説もお願いしますよ」会場はいつも通り食堂かと思ったら、プレゼンを行った会議室をそのまま使用していた。正面の壁いっぱいが大きなスクリーンとなっていて、ミニIMAXシアターのようだった。まずいくつかのイントロダクションが映し出され、床には2者選択クイズ用の○と×のゾーンが設けられた。それぞれ仕事絡みの真面目なクイズがあったが、私好みの(て言うか、明らかに意図されていたが)ウルトラシリーズのレアクイズも織り込まれていた。
「写真のようにモロボシ・ダンと卓袱台を挟んで座っているのはゴドラ星人である」(○か×か?)・・・「それでは○×出揃いました。磯辺さん、正解と解説をお願いできますか?」
「このシーン知らない人はモグリだと思いますぜ。右側は有名なメトロン星人です。タイトルは『狙われた街』、この場所は北川町と言います。実はこのアパート全体がメトロンの円盤になっているんです。メトロン星人の狙いは・・・」

「写真にあるウルトラセブンの光線技はエメリウム光線である」((○か×か?)・・・「はい、○×出揃いました。磯辺さん、再び正解と解説をお願いできますか?」
「ま、これも基本ですが、この光線は『ワイドショット』です。初代マンのスペシウム光線よりも威力がありますが、エネルギーを消耗している時は使えません。写真は・・・うーむ、たぶんライトンR30爆弾で倒されたキングジョーの内部から逃亡しようとしたぺダン星人の円盤に向けて打ったものだと思います」
「おおーっ」「へーえ」「ふーむ」(この写真だけでそこまで分かるのか?!)場内はに驚愕とも感心とも呆れとも言えるどよめきが沸き上がった。以前にもこのシーンが何かの問題に出たことがあるのだが、「何に向けて放ったものか?」ずばり言い当てたのは息子甘辛であったのだ。真面目問題は出し尽くして、このコーナーは終わりのようだったが「楽しいなー面白いなー(たぶんオレだけだけど)。まだあるなら全部出してよ」とうとう司会は用意してくれたウルトラ関連クイズを全て披露することとなる。

いつの間にか初代マンとセブンが両サイドを飾っており、私はすっかり興奮モードになっていた。今回はマッドサイエンティストの用意はしていない。アルカリイオン水素水や試薬など液体群を機内に持ち込めないからである。しかしここまで用意してくれたアトラクションに何か応えなければならない。私は一つだけ閃いて、マンのネクタイとYシャツを脱ぎ捨て、再び麻ジャケットを羽織り、カンムリワシヘアーとサングラスを身に着けた。「皆さん、こんばんは。クリスタル・K・磯辺です。キックオフ会有志の皆さん、楽しいアトラクションをありがとう。ボクがこよなく愛するウルトラ戦士を呼んでくれたお礼に歌います。知っている人はご一緒に・・・」左側はパンチパーマにサングラス、右側の高い声の人は裸ジャケットというスタイルだったが、さすがに女性もいる中で上半身裸になるわけにもいかず、「加圧シャツウルトラシックス」で出ない声を張り上げたのだった。