超兵器磯辺2号

幻の超兵器2号。。。
磯辺氏の文才を惜しむ声に応えてコンパクトに再登場。
ウルトラな日々がまたここに綴られる。

シンボルチームの応援

2016-07-30 06:24:33 | 出来事
少し縁遠くなった分だけ余計な思い込みを持たずに高校野球の爽やかさを楽しめたのが前回の野球応援だった。その時翌日に我が母校の試合が控えており、2年ぶりの企業対抗大会初戦の日とかち合っていたことはすでに書いた。野球応援をはしごするには暑過ぎたのでドーム応援に絞ったのだ。全国から地区代表が集まるこの大会だが、我がシンボルチームは地元ということもあって、観客動員力はおそらくいつも大会最強を誇る。試合開始は夕方で、その1時間半前に受付が開始されるのだが、ものすごい長蛇の列となっている。水道橋の駅に着いて川を渡ると「受付列はこちら」というプラカードを持った案内人が現れ最後尾の場所に誘導するのである。近頃プロ野球(特に巨人)人気も昔ほどではないから、炎天下で中々大変だと思う。私は妻とお友達夫婦と受付列に並んでいた。平日だったら仕事を抜け出すか休みを取って同僚達と駆け付けるのだが、休日だったから結構家族連れが多い。

このグループ会社は幹部から社員までシンボルチームに向ける熱意はすさまじく、「黒獅子旗争奪」を目標に掲げる本大会が始まるとぶっちゃけ幹部は誰も彼もが不在となってしまう。重役の定例会議も休会となってしまうこのシーズン、これで会社の経営機能がよく停止しないものだと思う。ドームの周囲には地方から団体でやってきた観光バスが所狭しと駐車している。地方組織は大体「動員兵力」の目安が示されており、グンマ勤務時代はたしか○50名と聞いた。私の預かるセクションも集団で貸切バスに乗り込み関越道を一路練馬に向かったのだ。都内の渋滞を想定しかなり早く出発し、試合終了予定時刻周辺は同じバスが所定の場所で待機してくれることになっている。あの時も夕方開始だったから帰宅は0時過ぎになってしまう強行軍である。

予想以上にスムーズにドーム周辺に到着してしまったバスは予定していた場所に駐車できず我々は変なところで下されてしまった。受付開始時間まですら1時間以上ある余裕である。鬼司令官のスティーブは若手に指示して列に並ばせ、一列分の席取りを命じると共に我々は夕方早い時間から入れる居酒屋風の店を探し出して「プレ戦勝祝い」と生ジョッキを片手に渇きを癒しだした。1時間ほどたって「そろそろ、入場開始じゃないの?」と聞くと、スティーブは「いやいや、試合まではまだ1時間以上ありますよ。席取りさせてるから、並ばないで入りましょ」八兵衛やデカさんも一緒になっていつもの通り盛り上がり始めた。「ねえ、スティーブぅ、もう試合始まっちゃうよ」彼は業務用携帯を取り出し何やら指示を出していた。「試合経過を1回ごとにメールするよう言っておきました。ここにいても手に取るようにわかりますぜ」全員赤い顔をしてドームに入場した時は7回表を迎えていた・・・よく見ると、周囲には同じような時間に入店したいかにも我が方の応援隊が。。。この人たち(我々もだが)何しにドームまで来たんだろう。

さて年々動員兵力も増してきたのに加え昨年出場を逃したこともあり、今回はいつも以上に気合が入っていた。応援団はバックネット裏の境界からベンチのある側のバックスクリーンまでの半分しか入れない。立ち見になってしまう観客が出ないように「席取り禁止」とされ、入場列は決まったゲートから入って柱番号の順番に誘導され下から隙間を作らず座らされていった。なるほど応援団に詳しいお友達夫婦が「途中で待ち合わせて一緒に並ぼう」という意味が分かった。別々に現地入りしても合流できないのである。席に着くと用意された入口で渡されたビブスを全員が着用する。応援団扇にはオレンジとブルーの面があり、応援隊の指示にしたがってグランドに向ける色を変えることになる。入場を開始して試合までの間に3塁側はレフトスタンドまですべてオレンジ一色に塗りつぶした。(すげえ動員兵力だ。2万人以上いるんじゃないか?)

ベンチの上は応援団とチアリーディングのスペースである。試合開始前に全員起立して社歌を斉唱し、巨大な応援団旗が掲げられ、エールの交換となる。それぞれの都市代表として出場しているので、エールは社名でなく「都市名」となるのが特徴だ。ちょっと地方都市との対戦になるとドームを埋め尽くす我が巨大応援団と比較すると相手がベンチの上にそれこそ高校の地方予選くらいしかいないコンパクト応援隊のときがある。そういう時はオレンジ色に染まったスタンドからの大エールを誇らしく思う反面、何かちょっと申し訳ない気もするのだが、そこは社会人の割り切りだろう。応援団長の声は素晴らしく、エール交換時はマイクを使わなくとも余裕で「ふれーふれー」の掛け声が相手スタンドまで届く野太さだ。一糸乱れぬ応援ポーズの団員はすべて社員、さすがにチアリーディングは提携している大学のお嬢さん方だそうだ。攻撃回の要所になると直立3階建ての「スカイツリー」を披露し場内を沸かせた。(ありゃー、いくらなんでも社員ではできないわな・・・)


つい数日前、高校球児達の爽やかな姿に心を洗われる思いだったが、こちらはプレーだけ見るとやはり格が違う。シーズンが終わるとドラフト会議で指名されプロへ行く選手もいるからやはり試合そのものの見応えが素晴らしい。守備の時は投手に向かって「がんばれ、がんばれ○○○」、ストライクや三振で「いいぞ、いいぞ○○○」、アウトを取ると「ナナナ、ナイス!ナナナ・・・ワン・アウト!」(ちょっと意味不明)、攻撃の時は「かっ飛ばせ■■■、かっせかっせ■■■そーれ、かっ飛ばせー■■■!」(ちょっとテンポが合いにくい)、ランナーが出ると「チャンスチャンスチャンス、今だー今だー×▽▽GOGO、かっ飛ばせ、かっ飛ばせー×▽▽」応援の仕方はちょっと癖があるが、まあ普通の応援団だ。(チアリーディングの振りに合わせているのかもしれない)得点が入るとなぜかベンチ上に御神輿が登場し、法被きた粋なおじさんたちとともに「わっしょい!わっしょい!わっしょい!」・・・まさしくお祭り騒ぎである。これを2万人以上の大応援団が声をそろえて行うとものすごいことになる。この当たりが清々しい高校野球とも、ぐーっと成熟したプロ野球とも異なる独特な雰囲気なのだ。



何が違うと言って、ドームを埋め尽くした大応援団はかなり入れ込んでいる人でないと、グランドでプレーをしている選手たちを誰も知らない。。。何年も出場している選手は自然に名前を憶えてしまうこともあるが、「あー、そう言えばいたな」というくらいの印象しかない。プロ野球なら個々の選手の「プロの技」「プロの個性」を目当てに行くことも多く、それが芸術的にもつながってチームを形成しているように思う。それは「燃えよドラゴンズ」によく表れている。打順と選手の個性、プロの果たす役割が見事に調和している。むろんチームそのものの熱狂的なファンもいようが、やはりプロというのは「個」の世界が強い。しかしこの社会人大会は予選で負けたチームの優秀な選手を助っ人として借り出しているので純正の自チーム選手だけでないのである。中には個人ファンがいると思うが、大部分は「シンボル」と言われるチームそのものに勝ってほしい。そのために全員同じオレンジのビブスを着用して、同じ団扇をもってドームに声援を響き渡らせる。どちらかというと一人ひとりは熱狂的な「信徒」の世界である。

初戦同様、休日に駆け付けた3戦目、球速はそれほどでもないが、どうやら投球フォームや変化球にやたら癖のある相手投手を打ちあぐね、中盤に1点を先制されて欲求不満のまま最終回に突入した。2万人の大応援団は最初から総立ちで声を枯らして団扇を振り続けた。ボールの判定だけで大歓声、デッドボールか何かでランナーが出ただけでお祭り騒ぎである。2アウトになってしまってもドームのこだまは続き、この試合で貴重な長打を炸裂させて奇跡的にもランナーを迎え入れ同点となった時は、あまりの狂乱「わっしょい」ぶりにバッターランナーが3塁を欲張りタッチアウトでチェンジになってしまった時、周辺で抱き合い、肩を叩き合い、ハイタッチするのに夢中だった我々は何が起きたのか分からなかった・・・ラッパなど個人の鳴り物や風船などもなく、ただ一つの応援団扇をボロボロにし声を枯らして「思念」を送り続けた。

全試合駆け付けられるわけではないから、ぶっちゃけ「勝った」「負けた」はあまり関係ない。高校野球のような爽やかな感動とは少し違う。プレーの奥が深いプロ野球の華麗な美を堪能するのとも違う。ただ騒ぎたいだけである。しかし試合終了の時、「ここにいて本当に良かった」と思う。オリンピックのような「国」を挙げてほど大きくない。母校という短い期間の思い出よりはつながりが強い。それでも何となくいずれOBとなった時にはこの場にはいないような気がする。「爽」、「美」、に対して「騒」(もしかして「狂」?)この大会の(一部信徒の)熱狂ぶりは日本が生み出したヤキュウとカイシャの融合がなせることなのだろう。ともかくも大応援団とともにあの場と時間を与えてくれた選手達には大いに感謝したい。