私どもの「HIS創発30年記念交歓会&研修会」に多数ご参加いただき、誠にありがとうございました。
タイトルに使わせていただきました「創発」という言葉ですが、辞書によりますと、この創発とは「上位にない機能が、下位のレベルが機能することで発現すること」とあります。HISにとってまさに上位になく全体の秩序が規定されるなら、医療にも必要な発想ではないかと想い感覚的に活用使ってみました。現代は、下位概念に生まれるべくして発せられる要素(働き、ユニークネス、 生命という人間臭い働き)が、今ひとつ元気がない“進んだ”時代のように思いますが、いかがでしょうか。
もともとのHISを創発した仲間と立ち上げた会社は、大阪で企業相手のマニュアル編集をしていました。昼ご飯の食堂でよく出合うコンサル会社の支援で、病院に医薬品を届ける流通業の営業サボートとして、得意先である医療機関の広告規制に対応して欲しいというテーマをいただき、各地に出かけはじめたのが始まりでした。札幌、秋田、仙台、東京、名古屋、福岡、熊本、長崎、鹿児島・・・と。
当時は現在よりはるかに厳しい広告規制(雰囲気)が敷かれていました。今でもそうですが、情報とか報道の無頓着な日本人相手ではやり放題、煙の中のようでした。
それが計らずも1984年(山下・斎藤の時代)、なんと朝日新聞のコラム「ことば」にHISが紹介されました。それが以外な広告効果となり、病院界でHISを知っていただくきっかけとなったのです。HISは、もともとはCI戦略を原型にしていました。1986年になると日本医療企画から「病院のためのイメージUP実践マニュアル」を出していただきました。デザインにともなう造形やシルエットが見た目でアイデンティティを統合することができるので、成功すれば生産性が上がるし、海外にも伝わるから、病院経営の世界も任せてほしい、という勢いがありました。
はじめは門前の小僧でしたが、次第に本格的な関心に深まって行きました。CIは、認識を深める機能はすぐれているのですが、経営目的においてどう生かすかが大切です。企業戦略において、大量生産・大量販売はいまでも成長の原則です。しかし医療というサービス商品では、その原理は真逆です。なんで!といわれる企業経営者やコンサルの先生がいっぱいいます。でも病院の使命は世界制覇にあるのではなく、目の前の患者さん、地域社会に奉仕すること、つまり「自らの足下を見る」、「シューズの紐を締める」という一瞬の質が信頼を引き寄せ、経営を飛躍させると訴えてきました。
つまり医療は「広告効果より利用者一人ひとりに声かけるコミュニケーション効果」や「見た目が大切」であり、立地する地域や人々とのキャッチボールが欠かせないということです。病院では優れたロゴよりも壊れたままの窓や緩んだ靴ヒモが、信頼に大きな影響与えるのです。それををHIS(あなた・わたし・みんな)という3つの言葉に託して堤案に変えていきました。「バラバラにまとまれ!」東本願寺の前に書いてあります。
そうした創発の日々はあっという間の30年でした。要望されて出かけていった医療機関は、もうすぐ400になろうとしています。多くは、この場に最も求められる在り方とはなにか、その一点を探す企画やデザインでした。経営に生産性は欠かせない視点ですが、定性的な評価を如何に「生きる人間が登場する物語り」として構成することができるかが、いま広報に問われています。「ベッドの数だけ物語はある」。松本・相澤病院にいた柴田さんは、広報の仕事の印象をこのように言い放ちました。
「広報で何をするのか、自らの理念やビジョンを尺度に、今いる社会と対話しつつ、存在感を高め、組織の信頼に磨きをかける闘い」なんて書いてみましたが、これでは、まだまだ上位概念でしかありません。生き物の声としてでてくる物語、それがHISが創発するものです。でなければ、病院の言い分は届かないと思います。メッセージもなにもない病院が生き残れるはずがありません。もったいない話です。医療現場の心の叫びが届かないのです。なんとしても、想いを社会にとどけなければなりません。皆さん、がんばりましょう。(この挨拶のほとんどは交歓会で配布したものです)
NPO法人日本HIS研究センター
代表理事 石田 章一
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