ブリューゲル『婚礼の日の農民の踊り』
20180304
ぽかぽか春庭日常茶飯事典?2018十八番日記春盛り上がる(3)コッドピース
2月21日にミサイルママとお出かけしたブリューゲル展。
ピーテル・ブリューゲル2世の『婚礼の日の農民の踊り』は、今回の展示品の目玉作品であり、ポスターにも図録表紙にも使われています。
17世紀の農民風俗をよく表し、ひとりひとり生き生きとした表情で踊っています。婚礼の日の宴ですから、農民も一張羅を着込んで着て登場しています。
私が気になったのは、踊る農夫のズボン。右手前で踊る農夫のズボンが一番よくわかります。ジーサンバーサンたち、特に気にする様子もなく絵を眺めていますけれど、私は「え~、この強調されたふくらみは何?」と、興味をひかれました。も、もり上がっている、盛大に。
みな、中世近世男性の衣服の特徴について、知識を持っての観覧だったのか、私ひとりが「ズボンの前のふくらみ」を気にしすぎるのか。
バレエダンサーのタイツのもっこりも気になるけど、あれは衣装とわかっていて、タイツの下に股間をガードするサポーターを履いているんです。
でも、股間保護の必要もない中世農民のもっこり袋は何? 調べてみたらわかりました。
14-16世紀末まで、男性衣服には男性を強く表現するデザインがあり、英語ではコッドピース(codpiece)、フランスではブラゲット(braguette)と呼ばれていました。もともとは、中世騎士が鎧を着たときに、大事な部分を保護するための、金属製のペニスケースでした。
鎧ではない、普段着の男性ズボンの場合。中世には股間部分は用足しのために縫ってありませんでした。その前開き部分を覆うために別布をつけます。この布を袋状にして、小物入れ代わりにつかったり、小物を入れない場合、詰め物をして、男性の魅力を強調しました。紐やボタンでズボンに止められていて、コッドピースを直訳すると「陰嚢袋」。
中世末期まで、肖像画には、コッドピースが描かれています。エリザベス1世の父のヘンリー八世肖像など。立派なコッドピースが見てとれます。一方、17世紀後半1643年から72年間フランス王として肖像画をたくさん残したルイ14世の肖像画にはコッドピースが見当たらないのは、すでにコッドピース流行が終わってしまったからなのでしょう。
下の3人の王侯貴族肖像。真ん中の人がヘンリー八世。灰色の上着の中に灰色のズボンのコッドピースなのでそれほどめだってはいませんが、右側の貴族、白いズボンのコッドピースがとても立派な盛り上がり具合。
現代でも男性衣服にこのコッドピースをデザインするデザイナーもいるみたいですが、現実に電車にコッドピース衣装で乗り込む男性がいたら、セクハラ騒動にになるかも。
流行しているときは「おしゃれ」なのに、時代がことなれば受け入れられないってのも、何が社会規範かは世につれ、ってことですね。
ファッション史において、女性が男性と同じようにズボンを履くことが許されなかった、という時代もありました。
女性がくるぶしを見せる長さのスカート丈になっただけで不道徳ふしだらな女性と後ろ指さされたこともあるし、戦争に出かける夫が妻の腰に金属の貞操帯をはめ込んで、はずれないよう鍵をかけ、他の男性とふれあえないようにしたということも。「衣服の悪徳」は社会通念上、どんどん変化してきました。
これまで西洋衣服の歴史などにあまり注意をはらってきませんでしたが、『農民の踊り』鑑賞で、コッドピースについて知識が深まりました。
コッドピースの盛り上がり、14世紀から16世紀末までは、男性衣服の大事な「おしゃれアイテム」でした。女性達も、男性股間の盛り上がりを見て、心ときめかせていたんじゃないでしょうか。
現代は?
男性の魅力は、股間の盛り上がりより、いかに女性の心を盛り上がらせるか」の勝負です。
ミサイルママは、「この年になって、『あなたは、私が知っている女性のなかで、一番すてきです』とか、『きれいです』とか言ってもらえると思っていなかった。そんなふうに言われるとねぇ。最初は友達同士のつきあいだけにしたい、それ以上の関係を望むなら別れるって彼に言ってたんだけれど。彼は、友達関係だけでもいいから、あなたといっしょにいたいって言うの。そんなふうに言われると、だんだんこちらの気持ちも盛り上がってきた」と、ときめきはじめたのです。春めく心も盛り上がる。
ミサイルママがブリューゲル展で心ひかれた花の絵。春庭が興味ひかれたコッドピース。絵画鑑賞にもそれぞれの個性がでます。ま、みんな違ってみんないい。
<つづく>