2014/05/15
ぽかぽか春庭にっぽにあにっぽん語教師日誌>日本語ふしぎ発見2014前期(2)ひふみよいむな
日本語教師養成コースの日本人学生に紹介する「日本語学習者にとっての関門」。最初に留学生がつまずく関門のひとつ。「日本語はむずかしい」と思ってしまうことのひとつに、数の数え方と序数詞があります。
まず、スワヒリ語での数え方を覚えさせます。「モジャ、ンビリ、タトゥ、イネ、タノ、シタ、サバ、ナネ、ティサ、クミ」何度か復唱させて、トランプをひかせて、出た数をスワヒリ語で言わせます。次に朝鮮・韓国語「ハナ、トゥール、セッ、ネッ、タソッ、ヨソッ、イルゴプ、ヨドル、アホプ、ヨル
学生は、「一度に両方は無理。あたまのなかで混乱する」とネを上げます。
留学生は、日本語の数の数え方、ひ、ふ、み、よ、と、いちにさんしを両方覚えなければならないんですよ、と日本人学生にいうと「そんなら、どちらかひとつにすればいいじゃない。ひふみよは、いらないんじゃネ?」と、いいます。そこで、数えさせます。
数えてください。「いち、に、さん、し」はい、どうそ。学生たち、「いち、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち、きゅう、じゅう」。はい、よくできました。では逆に十から小さくして数えましょう。「じゅう、きゅう、はち、なな、ろく、ご、よん、さん、にー、いち」
ひらがなで書いてみましょう。どこが違いますか。大きくなる時と、小さくなる時と、「数え方が違っていますよ。なぜでしょう。数を小さくいうときは、7は「なな」で4は「よん」です。でも大きくしていくときは、「一二三しごろく」という人のほうが多いです。日本語には、和語オリジナルの「ひふみよ」の数え方と中国語由来の「いちにさんし」の両方があり、未だに両方を使っています。
ここで、日本語オリジナルの数え方「ひ、ふ、み、よ、いつ、むう、なな」の数を確認して、ふたつ、みっつ、よっつの数え方と、ふつか、みっか、よっかの日付のいいかたを復習。留学生にとって、日付を覚えるのはたいへんだということを話します。初級後半になっても、9月3日4時を「きゅうがつさんにちよんじ」といってしまうのです。ひ、ふ、み、よを覚えれば、ふつか、みっか、よっかも覚えられる。
そして、留学生からの質問。ひとつ、ふたつ、みっつ。は、わかります。でも、だったら、ひつか、ふつか、みっかになるはずなのに、どうして、月の最初の日は、ひつかではなくて、「ついたち」なんですか。
この答えも、このコラムでは何度も書いてきましたが、学生は初めてそんなことを考えるという顔で頭をひねっています。無意識につかってきた日本語なので、そういう疑問が出ることを予想していなかったからです。
日本人学生には、まず、「日本語について、自分が疑問に感じたこと。英語や中国語とと比べて、日本語と違うと思ったことを書き出してみよう」という課題を与えます。ここから日本語探求の第一歩を始めます。
数の古風な数え方について紹介します。今では誰もこのようには数えない、という意味で。
5732。いつちあまり、ななももあまり、みそあまり、ふたつ。長いですね。
今年も、日本人学生に「ふしぎな日本語」を考えてくるように宿題を課しました。すぐに私が答えてしまうこともありますが、いくつかは学生自身に調べさせて発表させます。いまどき、たいていの質問は、インターネットで調べれば即座に答えが出てきます。しかし、そういう疑問質問を日本語にかんして調べようとしてこなかったために、これまで調べてみたことがなかっただけです。
「赤いはOK.みどりいはダメ」に関しても、「なぜ、毎月の最初のひをツイタチというか」にしても、googleあたりにキーワードを書き込めば、回答がゴマンと出てきます。
しかし、中には、適切な回答が出てこない疑問も出てきます。それは、自分の頭で考えること。もし、日本語学を専攻するなら、その思考結果をまとめれば、よい卒業論文になるであろう、と学生に伝えます。
問題を自分で発見し、自分の頭で解答を見つけることができるなんて、すごいことだよ、と。
私の修士論文は、「わたしは美容院で髪を切った」に関する疑問から始まりました。
日本語では「切った」という他動詞文で表現できるのに、英語に直訳して「I cut my hair in a beauty parlor. 」とすると「髪を短くしたい人が自分自身でハサミを持ち、自分の髪を切っている」と受け取られる可能性もあります。ハサミをもっているのが美容師であることをはっきりさせるには、受身表現や使役表現にして、「わたしは、美容院で美容師に私の髪を切らせたI had a beautician cut my hair in a beauty parlor」と表現しなければなりません。「わたしは髪を切った」を直訳すると不正確になるのです。
これは日本語のどういう性質によるものなのだろうか、ということを考察し、日本語の他動詞文についてまとめました。
学生たち、日本語について考える最初のツアー。この日本語の単語、この言葉の意味、この表現はおもしろいなあ、と感じることから日本語探索ツアーがはじまります。日本人学生からも「どうして、ピンクい服といってはいけないのか。わたしは言っている」という質問がでました。
「それって、ちがくない?」も、「きれいくない」も「ぴんくい服」も、若い日本人の間にフツーに使われるようになっています。
<つづく>
ぽかぽか春庭にっぽにあにっぽん語教師日誌>日本語ふしぎ発見2014前期(2)ひふみよいむな
日本語教師養成コースの日本人学生に紹介する「日本語学習者にとっての関門」。最初に留学生がつまずく関門のひとつ。「日本語はむずかしい」と思ってしまうことのひとつに、数の数え方と序数詞があります。
まず、スワヒリ語での数え方を覚えさせます。「モジャ、ンビリ、タトゥ、イネ、タノ、シタ、サバ、ナネ、ティサ、クミ」何度か復唱させて、トランプをひかせて、出た数をスワヒリ語で言わせます。次に朝鮮・韓国語「ハナ、トゥール、セッ、ネッ、タソッ、ヨソッ、イルゴプ、ヨドル、アホプ、ヨル
学生は、「一度に両方は無理。あたまのなかで混乱する」とネを上げます。
留学生は、日本語の数の数え方、ひ、ふ、み、よ、と、いちにさんしを両方覚えなければならないんですよ、と日本人学生にいうと「そんなら、どちらかひとつにすればいいじゃない。ひふみよは、いらないんじゃネ?」と、いいます。そこで、数えさせます。
数えてください。「いち、に、さん、し」はい、どうそ。学生たち、「いち、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち、きゅう、じゅう」。はい、よくできました。では逆に十から小さくして数えましょう。「じゅう、きゅう、はち、なな、ろく、ご、よん、さん、にー、いち」
ひらがなで書いてみましょう。どこが違いますか。大きくなる時と、小さくなる時と、「数え方が違っていますよ。なぜでしょう。数を小さくいうときは、7は「なな」で4は「よん」です。でも大きくしていくときは、「一二三しごろく」という人のほうが多いです。日本語には、和語オリジナルの「ひふみよ」の数え方と中国語由来の「いちにさんし」の両方があり、未だに両方を使っています。
ここで、日本語オリジナルの数え方「ひ、ふ、み、よ、いつ、むう、なな」の数を確認して、ふたつ、みっつ、よっつの数え方と、ふつか、みっか、よっかの日付のいいかたを復習。留学生にとって、日付を覚えるのはたいへんだということを話します。初級後半になっても、9月3日4時を「きゅうがつさんにちよんじ」といってしまうのです。ひ、ふ、み、よを覚えれば、ふつか、みっか、よっかも覚えられる。
そして、留学生からの質問。ひとつ、ふたつ、みっつ。は、わかります。でも、だったら、ひつか、ふつか、みっかになるはずなのに、どうして、月の最初の日は、ひつかではなくて、「ついたち」なんですか。
この答えも、このコラムでは何度も書いてきましたが、学生は初めてそんなことを考えるという顔で頭をひねっています。無意識につかってきた日本語なので、そういう疑問が出ることを予想していなかったからです。
日本人学生には、まず、「日本語について、自分が疑問に感じたこと。英語や中国語とと比べて、日本語と違うと思ったことを書き出してみよう」という課題を与えます。ここから日本語探求の第一歩を始めます。
数の古風な数え方について紹介します。今では誰もこのようには数えない、という意味で。
5732。いつちあまり、ななももあまり、みそあまり、ふたつ。長いですね。
今年も、日本人学生に「ふしぎな日本語」を考えてくるように宿題を課しました。すぐに私が答えてしまうこともありますが、いくつかは学生自身に調べさせて発表させます。いまどき、たいていの質問は、インターネットで調べれば即座に答えが出てきます。しかし、そういう疑問質問を日本語にかんして調べようとしてこなかったために、これまで調べてみたことがなかっただけです。
「赤いはOK.みどりいはダメ」に関しても、「なぜ、毎月の最初のひをツイタチというか」にしても、googleあたりにキーワードを書き込めば、回答がゴマンと出てきます。
しかし、中には、適切な回答が出てこない疑問も出てきます。それは、自分の頭で考えること。もし、日本語学を専攻するなら、その思考結果をまとめれば、よい卒業論文になるであろう、と学生に伝えます。
問題を自分で発見し、自分の頭で解答を見つけることができるなんて、すごいことだよ、と。
私の修士論文は、「わたしは美容院で髪を切った」に関する疑問から始まりました。
日本語では「切った」という他動詞文で表現できるのに、英語に直訳して「I cut my hair in a beauty parlor. 」とすると「髪を短くしたい人が自分自身でハサミを持ち、自分の髪を切っている」と受け取られる可能性もあります。ハサミをもっているのが美容師であることをはっきりさせるには、受身表現や使役表現にして、「わたしは、美容院で美容師に私の髪を切らせたI had a beautician cut my hair in a beauty parlor」と表現しなければなりません。「わたしは髪を切った」を直訳すると不正確になるのです。
これは日本語のどういう性質によるものなのだろうか、ということを考察し、日本語の他動詞文についてまとめました。
学生たち、日本語について考える最初のツアー。この日本語の単語、この言葉の意味、この表現はおもしろいなあ、と感じることから日本語探索ツアーがはじまります。日本人学生からも「どうして、ピンクい服といってはいけないのか。わたしは言っている」という質問がでました。
「それって、ちがくない?」も、「きれいくない」も「ぴんくい服」も、若い日本人の間にフツーに使われるようになっています。
<つづく>