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ぽかぽか春庭「生ましめんかな」

2013-08-11 00:00:01 | エッセイ、コラム
2013/08/11
ぽかぽか春庭ことばのYa!ちまた>夏の記憶(2)生ましめんかな

 栗原貞子(くりはらさだこ1913-2005)。92年の生涯を、平和運動にささげた方です。
 「生ましめんかな」は、まだ著作権の消滅していない著者の作品ですが、平和を願う日記への引用としてコピーさせていただきます。(初出『中国文化』1946)
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栗原貞子「生ましめんかな」

こわれたビルディングの地下室の夜だった。
原子爆弾の負傷者たちは
ローソク1本ない暗い地下室を
うずめて、いっぱいだった。

生ぐさい血の匂い、死臭。
汗くさい人いきれ、うめきごえ
その中から不思議な声が聞こえて来た。
「赤ん坊が生まれる」と言うのだ。
この地獄の底のような地下室で
今、若い女が産気づいているのだ。 

マッチ1本ないくらがりで
どうしたらいいのだろう
人々は自分の痛みを忘れて気づかった。
と、「私が産婆です。私が生ませましょう」
と言ったのは
さっきまでうめいていた重傷者だ。

かくてくらがりの地獄の底で
新しい生命は生まれた。
かくてあかつきを待たず産婆は血まみれのまま死んだ。

生ましめんかな
生ましめんかな
己が命捨つとも
 

<つづく>
コメント (4)
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