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ぽかぽか春庭「パラオ語になった日本語」

2012-07-25 00:00:01 | 日本語教育
パラオ諸島
南端に位置するのがアンガウル島

2012/07/28
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>2012年前期(2)パラオ語になった日本語

 学生に「ツカミ」として出すクイズのひとつ。
 クイズ。世界の中で、日本語を公用語として決めている地域、国はあるでしょうか。あるとしたら、どこでしょうか。日本の公用語については、あとで述べますが、日本以外の地域を答えてください。
 学生は、ブラジルの日本移民が多い地域じゃないか、などと推理します。

 正解は。パラオ共和国アンガウル州。
 アンガウル島という小さな島で人口200人足らず。そのうち、日本語を話せるお年寄りは、現在ではほとんどいなくなりました。戦前、日本が委任統治をした太平洋諸島で日本語教育を受けた人々がいます。日本軍人や統治者から過酷な扱いを受け、日本を深く恨みに思う人が残された島も多い。その中で、日本語教育を受けたお年寄りを尊重し、州の公用語として法的に決めた島があるということは、おそらく、アンガウル州で日本語は、よいイメージを保って教えられたのだろうと、ほっとします。

 ここで、戦前戦後の日本語教育史をざっと解説するのですが、「日本が15年戦争をしていた間、アジアで侵略や過酷な占領政策を行った」、という話に深入りはできません。近代史は、明治維新から大正デモクラシーまでしか扱わなかった、という高校が多く(大学入試に現代史の出題が少ないから)、この話をし出したら、1学期かかっても終わらない 加害の歴史も含めて歴史の真実を追究し続けなければ、次の世代は育たない、というのが私の考え方ですが、被害の歴史は語りたがるのに、加害の歴史は子ども達に教えられてこなかったのは事実です。(私にとっては、太平洋戦争は「歴史」ではなく、「父と母の経験したこと」として身近でしたが、歴史として学んだのは、二度目の大学での「近代史」の授業でした。15年戦争という用語もこのとき初めて知りました。。15年戦争、という用語は、現在も学校教育の現場では用いられていません。)

 日本語を母語として愛していくためには、この国の歴史の真実を加害も被害も知ってこそだと思っています。国への偏った愛は愛ではない。一方的な賛美だけをよしとすることは、結局この国を貶めることになりかねない。真実を知ったうえでの日本語愛だと思っています。

 パラオ共和国アンガウル州の「日本語公用語」についても、小さな島ながら、世界の中で、日本語を公用語と定めた島があることの意義について話して終わります。しかし、それ以上、深入りしてはきませんでした。
 しかし今期、パラオの日本語について興味を持った学生が、さらに発展した発表をしてくれました。題して「パラオ語になった日本語」

 「パラオ語になった日本語」というタイトルのサイトがあり、パラオ語の中に外来語として残存した日本語があることを調べた学生の発表。他の学生にも印象に残る発表だったようです。

 アジア各地に残された日本語のうち、たとえば、インドネシア語には「ロームシャ」という日本語由来の外来語があり、労務者の意味だ、ということなどを学生に紹介してきたのですが、パラオ語になった日本語がどれほどあるのか、具体的に授業で取り扱ったことはありませんでした。

 パラオ諸島は、スペイン、ドイツの植民地となり、次いで日本が委任統治してきたので、パラオ語語彙の中にスペイン語由来の外来語、ドイツ語由来の外来語が混じっており、パラオ語外来語の中の25%が、日本語由来のことばです。

<日本語がそのまま通じる挨拶語>
・ヨロシク ・ アリガトウ ・コメン(ゴメンナサイ) ・マタアシタ(また明日)

<名詞>
・アナタ ・アメ(雨) ・アブラ(ガソリン) ・エモンカケ( ハンガー) 
・カツドー(活動=映画) ・ゴミ 
・サシミ ・シゴト(仕事) ・シューカン(習慣) ・ジャマ(邪魔) ・シンパイ(心配) ・スコウジョウ、ショーキ(飛行場) ・センセー(先生) ・センキョ(選挙)
・タンジョウビ(誕生日) ・チチバンド(ブラジャー) ・ツナミ(津波) ・デンキ(電気) ・デンワ(電話) ・トクベツ(特別) ・トーボー(逃亡)
・ニツケ(煮付け)
・バショ(場所) ・ベントー(弁当)
・ヤスミ(休み) ・ヤッコチャン(オウム) 

<動詞>
・アバレテ(怒っている) ・ツカレナオス(ビールを飲む) ・ツカレテ(疲れた)
・ハラウ(払う) ・バラス(バラバラにする) ・ワスレテ(忘れている)
(例文)「あなた、つかれて」=意味「あなた、つかれたでしょう。お疲れさん」

<形容詞>
・アジダイジョウブ(美味しい) ・アチュイネ(暑いね) ・オイスィー(美味しい) ・サビスィー(寂しい) ・サムイネ(寒いね) ・ヤサスィー(優しい) ・

<その他の表現>
・アッテル(お似合い) ・アリマス ・アタマサビテ、アタマホコリ(だめな状態) ・アタマグルグル(混乱している状態) ・イッショニ?(一緒に) 
・クダサイ ・ゼンゼンワカラナイ ・タメス(試着時など) ・ドーセ  ・チョットマッテクダサイ ・ショウガナイ ・モシモシ ・モンダイ(問題ない)
(例文)「あなた、ためす」=意味「どうぞ、ご試着ください」

 いかがでしょうか。現代日本語には、英語由来の外来語が多くなっているので、「ブラジャー」をブラジャー以外の用語で呼ぶ人はいないでしょう。パラオ語の中に「チチバンド」というブラジャーを表す日本語が残存していることなど、面白いなあと感じます。また、現代日本語では「映画」と言うものを、戦前の言い方で「活動」というのも、なにやらなつかしい感じ。

 学生発表によって、パラオ語の中のニホン語を確認することができました。

パラオ諸島の南端にあるアンガウル島

(パラオ観光局の写真から)
http://www.palau.or.jp/

<つづく>
コメント (7)
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