最近はとんとご無沙汰しているが,ウインドサーフィンを大学卒業した時からやっている。ジャイブという方向転換があり,これができるかどうかは,初心者から中級へのステップアップの永遠のテーマである。まだ全然できなかった頃,雑誌のHow Toのコーナーを,それこそ必死になって読んだものである。その中で,あるプロ選手の言葉がとても簡潔で印象的だった。ボードの重心に体重をのせるということを「板の芯に乗る」と表現していた。ジャイブというのは風を後ろから受けた状態で,ボードの向きを変えるのだが(サーフィンと同じような感じ)なかなかできなくて,「板の芯に乗る,板の芯に乗る」と呪文のように唱えながらやっても落水してばかりであった。それが練習を続けるうちに,何とかできるようになったのだが,できるようになって初めて「板の芯に乗る」というのはこういうことか!と理解できたのである。つまり「できるようになって初めて,アドバイスの意味が分かる」ということである。何とも逆説的なのだが,同じようなことは多いと思う。
先達の言葉(Quotation)が好きで,心に残ったものは書きためてあるのだが,例えばSir William Oslerの有名な
Listen to the patient, he will tell you the diagnosis.
というのがある。これも「いろいろな検査の末に診断にたどり着いたが,実は鍵となる情報は当初から患者さんの言葉にあった」というような経験をして,初めて言葉の本当の意味が実感として理解できる。
スポーツでも医学でも,コツとか奥義のようなものを,言葉として理解することと,それを自分のものとして身に付けることには大きな差がある。そのためには経験を積みかさねるしか方法はないということだろうか。