H's monologue

動き始めた未来の地図は君の中にある

使命の道に怖れなく どれほどの闇が覆い尽くそうと
信じた道を歩こう

鈴木慎吾先生の『身体診察の型』

2020-07-01 | 臨床研修


献本御礼。鈴木慎吾先生は,千葉大総診で生坂先生のもとで長く研鑽された方で,生坂先生によれば「同門随一の理論派」とのことです。私は今回お手紙をいただくまで面識はありませんでしたが,一読して素晴らしい内容に感銘を受けました。

サブタイトルの「同じ主訴には同じ診断アプローチ」という表現には,なるほどそうだな・・と感心させられました。

冒頭に「守破離」という言葉が紹介されています。守:教わった型を守る,破:より良い型を創造し既存の型を破る,離:型から離れて自由自在に扱える,という意味だそうです。ほぼ同じことを歌舞伎役者の18代目中村勘三郎さんの有名な言葉で聞いたことがあります。「型があるから型破りが出来る」「型が無ければ単なる形無し」

外来診療にも「型」が必要というのは,言われてみれば納得です。自分自身のことを考えると,経験を積むうちに何となく自分で会得してきたある種の型はあるように思います。commonな訴えに対して,それぞれ情報収集の型として,病歴,身体所見,検査のセットが提示されています。おそらく経験を積んだ内科であれば無意識のうちにやっている内容です。網羅的であるがゆえに,煩雑に見えてしまう部分があるのは否めないです。でも外来を始めるにあたってまず「型」を意識して学ぶのは,若い人たちにとっては良いかもしれません。

冒頭の生坂先生の推薦文と序文から読み始めたところ,面白くて総論は一気に読んでしまいました。千葉大総診で生坂先生から学ばれた「生坂一門」の教育エッセンスを教えてもらえて,とても贅沢な気がしました。随所で思わず膝を打ち,自分では思い至らなかったフレーズが沢山ありました。ぱっと見では簡潔に書かれているけれど,実は相当に深い内容が隠されていると感じました。正直言って研修医には,なかなか手ごわいところがあるんじゃないかな。でも取り組む価値は十分あります。後半の症例ベースの各論を読みながら,適宜総論にもどるのがいいと思います。このあたり名著「 Learning Clincal Reasoning」に近い構成になっています。

各論を7割ほど読破しましたが,研修医にもとっつきやすく読める工夫がされています。具体例を読みすすめるうちに,煩雑にみえる情報収集のセットはよく考えられたものだなと納得です。中には当初ある診断で治療を開始しても,その後の経過で別の疾患と判明して治療修正した症例も取り上げられています。これはリアルワールドでは良くあることで,実際に患者を苦労して診療していなければ分からないことです。そういった症例を提示してあるところは,素晴らしいセンスだと思います。個人的には,脚注の小さい文字に書かれたところに,鈴木先生のコダワリというか,うんちくが隠されているのが面白いです。(どうもそっちの方に目が行きます・・笑)。

 

以下,総論の身体診察に関する記述で,思わずうなずいてラインマーカーを引いた文章を一部紹介します。

<身体診察>

・もし「自分は偏見なく正しく所見をとっている」と思うならば,それ自体が偏見である(バイアスの盲点  bias blind spot)

・バイアスは知っていても回避が難しい。

・仮に偏見がなくとも身体所見の正常・異常の判断に迷うことは多い。

・しかし,検査で診断が確定すると,診療録にはあたかも紛うことなき所見として記載されるのが身体所見である。それゆえに他人の診療録を参照するだけでは診断能力が向上しにくい。(病歴も本人が述べたのか,推論によってclosed questionで導き出したのかわからない)。

須藤コメント)自分の診療録ですら後から読んでも,診察した瞬間の頭の中の推論が再現できないことがあります。だからこそ,自分がその思考過程を細かく残している理由です(当ブログの「内科医のカレンダー」シリーズがまさにそれ)。

・虫垂炎を疑う患者全例に閉鎖筋徴候を確認しても,・・・役に立たない身体診察に思える。

・しかし,虫垂炎を疑うがMcBurney点に圧痛を認めない場合,つまり典型的な虫垂炎でない症例を分母にとれば,感度が上がり有用ま所見になりうる。

須藤コメント)まったく同感です。いつも研修医に教えている直腸診も同じことです。直腸診全体としては「エビデンスは乏しい」と言われますが,骨盤腔内に落ち込んだ位置にある虫垂炎を疑ったときには必須であるのと同じこと。十把一絡げに役に立つかどうかは言うべきではありません。どんな状況で使うのかが大切です。

・ピットフォールから「這い上がる」必要がある。

須藤コメント)「這い上がる」という表現が心に刺さりました。言い得て妙です!

・筆者は診察の終わりに「他に何かありませんか?」ではなく「本日の診察内容で質問はありませんか?」と聞くようにしている。

 

最近は,私なんかよりずっと若手の先生方にこのような素晴らしい書き手が,続々と出現することに驚くことばかりです。今後も楽しみですね。

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