面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「戦争と一人の女」

2013年08月14日 | 映画
太平洋戦争末期。
悪化する一方の世相に、店をたたむことにした飲み屋の女将(江口のりこ)は、常連客の一人である飲んだくれの作家(永瀬正敏)と同棲することにする。
元娼婦の女将は他の常連客とも関係を持っていたため、女将が作家と一緒になることに不満をもらす他の常連たちをよそに、憮然と酒を飲む一人の復員兵(村上淳)がいた。
その男は、中国戦線で右腕を失って帰還してきたのだが、戦場での体験がトラウマとなったのか、妻との間に“夫婦生活”を営めなくなっていた。

同棲をはじめた女将と作家は、連日昼夜を問わず互いの身体をむさぼるように求めあう。
作家は、戦況が悪化する一方の戦争に絶望し、ただ生きているだけのようになって酒をあおるばかり。
女将は、幼い頃に身売りされ、長年に渡って何人何十人何百人と男の相手をしてきたことが原因で不感症になっていたのだった。
お互いの心の傷をなめ、隙間を埋め合うように、二人は毎日身体を重ね続けた。

復員兵は、娘が男たちに乱暴されている場面に遭遇したとき、その様子を見て自分が激しく興奮していることに気づく。
そして、かつて戦場で現地の女たちに凄まじい乱暴をはたらいていた記憶が蘇った。
それ以来、街中で米の買い出しに向かう女性に、
「米を分けてあげる」
と声をかけては人里離れた山中へと誘い込み、強姦して殺害するという行為を繰り返していた。

やがて日本は終戦を迎える。
戦争によって深く傷ついた三人が、思わぬ形で再び交錯する…


「生きる」ことの証しとも言える「性」を、死や暴力との“抱き合わせ”で描きながら、戦争が引き起こす狂気を淡々と語る。
声高に「戦争反対」を叫ぶ「反戦映画」ならぬ、虚無的に戦争を厭う「厭戦映画」。
感情の起伏がほとんど現れない女将を演じる江口のりこの表情が、映画の全編に漂う虚無感を物語っていて印象的。

坂口安吾の小説を原作に、故・若松孝二監督の下で映画作りを学んだ井上淳一が監督した官能文芸ロマン。
暴力と性の描き方に、師匠譲りの作風を感じた。


よくある「反戦映画」とはまた違った角度から、戦争の虚しさを静かに訴えかけてくる。
憲法第9条の改訂が取り沙汰され、なんとなくキナ臭い空気が蔓延している昨今だからこそ観るべき小作品。

「ジジイが始め、オッサンが命令し、若者が実行する」のが戦争とは、誰の言葉だったか。
かつて日本がアメリカ相手に戦ったことを知らないという、イマドキの若者には特に、観て感じて戦争に嫌気がさしてもらえればと願う…


戦争と一人の女
2012年/日本  監督:井上淳一
江口のりこ、永瀬正敏、村上淳、柄本明、高尾祥子、大島葉子、酒向芳、川瀬陽太、佐野和宏、千葉美紅、牧野風子、大池容子、瀬田直、真田幹也、飯島洋一、牛丸亮、小野孝弘、草野速仁、福士唯斗、奥村月遥、奥村彩暖、Guillaume Tauveron、marron