面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

ベンチがアホやから。

2013年03月18日 | 野球
内川涙「申し訳ない」重盗失敗/WBC(日刊スポーツ) - goo ニュース


第3回WBCは、あっけなく終わった。
午前中の試合とて仕事中に見るわけにもいかず、出先で仕事の合間にスマホで結果を確認していたが、反撃があまりに遅かったというのが最大の敗因に見える。
しかし本当の敗因は、無能無策な首脳陣による腐ったベンチワークに他ならない。

「ドミニカに比べて与し易し」との楽観的予測が大勢を占めていたように思う準決勝のプエルトリコ戦。
帰宅してからテレビのニュースで試合を見ていたが、先発の前田が先制点を奪われてしまったことで、打撃陣に硬さが出てしまったか。
7回に能見がツーランを浴びて点差が開き、更に8回裏へと追い込まれたことでようやく開き直れてきたところへ、相手の投手もレベルが合ったのだろうか、ようやく連打で1点返してなおも1、2塁とチャンスを広げて押せ押せムードに。
ところがここで、あろうことか2塁ランナーの井端が3塁へ進んでいないにも関わらず1塁ランナーの内川が2塁へ向かって突進。
2塁に井端が残っていることに気づいたときにはどうすることもできずにタッチアウト。
一瞬にして反撃ムードは消え去ってしまった。

見てすぐわかるダブルスチールの失敗。
テレビで解説の工藤公康が説明していたように、確かに2塁ランナーの動きを確認せずに“猪突猛進”した内川に、走塁上のミスはある。
しかし同じく工藤が話していたように、2点差での1塁ランナーである内川は、自分が「同点のランナー」であるという意識が、物凄く強かったはず。
自分が2塁に行けばワンヒットで同点になる。
何が何でも2塁でセーフにならなければ!
ダブルスチールを狙った時点で頭の中は「2塁で絶対セーフにならねばならない」という意識で占められていたことだろう。
8回裏まで進んだ試合で、このチャンスは絶対にモノにしなければならない。
凄まじいプレッシャーの中、いつもならしでかさないような単純ミスを犯してしまう可能性は極めて高い。
そんな状況下でベンチが出したサインは、「ダブルスチールできそうなら、してもいい」。

内川は決して凡庸な選手ではない。
史上二人目のセ・パ両リーグで首位打者を獲得するほどのセンスを持った男であり、走塁面でも決して“箸にも棒にもかからない”ようなレベルの選手ではない(昨季も6盗塁している)。
それでも前述のようなミスをしてしまうのが、“負ければ終わり”のWBC決勝トーナメントが生み出す極限の緊張状態というものだろう。
そんな状況に置かれた選手に対して、「ダブルスチールできそうだったらやれ」という極めて曖昧かつ判断の難しいサインを出すとは、首脳陣の無能と無責任さはプラナリアにも劣る。
(プラナリアにも「生命を維持・継続する」という責任感があるというものだ…「責任感」と呼ぶかどうかは別にして)
どのようなサインの出し方があったのかは知らない。
3塁コーチャーがサインを出したとき、井端は冷静に「イケそうならGOか」と解釈したが、気が焦っていた内川は「ダブルスチールせよ」と理解したのではないだろうか。
VTRで見る内川の走塁は、「2塁ランナーが3塁へ走っている」という前提に立っているとしか思えない。
首脳陣は言うのだろう。
「選手を信頼していた。」
ふざけるな!
本当に選手を信頼するならば、極限状態においては、自己の強い意志と責任感に基づいて作戦を立て、明確なサインを出して選手を動かせるはず。
それが、選手自身でダブルスチールができると思ったらやったらいいなどと、プレーの責任を選手に負わせる曖昧なサインを出すのだから言語道断。
作戦の失敗を非難されることを恐れた責任逃れのサイン(指示)でしかない。
「敗戦の責任は全て自分にある」と山本浩二は言うのだろうが、この「責任」ほど空虚な響きを持つ言葉はないだろう。

台湾戦の鳥谷、井端に始まり、最後の最後まで選手達がそれぞれ自分自身でなんとかしなければ勝てなかったこのチーム。
同じく台湾戦で田中を引っ張って失点させたことに始まり、8点取ったあとじわじわ追い上げられても為すすべもなく選手達の奮起に助けられ、そしてこの最後の試合では曖昧な“クソサイン”で敗戦を呼び込むような首脳陣にも関わらず準決勝まで勝ち残れたのは、選手たちの力の賜物以外の何ものでもない。
いみじくも選手たちがインタビューで「一丸となってまとまった」と口をそろえて答えているが、当然だろう。
首脳陣の無能ぶりに、選手たちは自然と「自分達で何とかしなければ」と、まとまっていったに違いないのだから。

最後の最後まで、ベンチが選手たちの足を引っぱって幕を閉じた今回のWBC。
内川の精神的なダメージが一番の心配となる、後味最悪の大会に終わった…。

「フライト」

2013年03月18日 | 映画
ベテランパイロットのウィップ・ウィトカー(デンゼル・ワシントン)はその日、オークランド発アトランタ行きの旅客機に機長として搭乗した。
天候は悪く、激しい風雨の中を飛び立つことになったが、ウィップは経験とテクニックを駆使して激しい乱気流を鮮やかに切り抜け、機体は穏やかに晴れ渡った雲の上躍り出ることに成功した。
航行が安定するとウィップは、副操縦士に任せて眠ってしまう。

…突然、機体が激しく揺れ、ウィップは目が覚めた。
あろうことか機体が制御不能となり、急降下を始めたのだった!
車輪を出し、燃料を捨て、あらゆる手を尽くして速度を落とそうするも急激な降下は止まらない。
このままでは、住宅街に墜落して大惨事に!
緊迫するコックピットの中、ウィップは咄嗟の判断で背面飛行を断行、高度を水平に保つという神業を見せた。
そして前方に草原が現れたところで機体を元の態勢に戻すと、そのまま胴体着陸を敢行、激しく機体を損傷しながらも不時着に成功したのだった。

九死に一生を得てアトランタの病院で目覚めたウィップは、パイロット組合の幹部であるチャーリー(ブルース・グリーンウッド)から、クルーを含めた乗員102人のうち96人が助かったと告げられた。
しかし亡くなった6人の中には、前夜もベッドを共にした、客室乗務員のトリーナ(ナディーン・ヴェラスケス)がいることを聞かされ、激しく動揺する。
一方、高度3万フィートからの奇跡の着陸としてマスコミはウィップを激賞し、彼は一夜にしてヒーローに祭り上げられていた。
見舞いに来た友人のハーリン(ジョン・グッドマン)は、いかにウィップがヒーローとして称賛されているか、興奮しながらまくしたてる。

退院したウィップは、世間から隠れるようにして亡き父の家へと向かった。
翌日、チャーリーに呼び出されたウィップは、弁護士のラング(ドン・チードル)を紹介される。
今回の事故は機体の故障に原因があり、それはフライト・レコーダーからも実証されるはずなのに、なぜ自分に弁護士が必要なのか?
いぶかしがるウィップだったが、実は事故の調査委員会による調査の結果、重大な疑惑が生じていたのである。
事故後に行われた乗務員全員の血液検査の結果、ウィップの血液中からアルコールが検出されたのだ。
このことが事故の原因と特定されてしまえば、ウィップは過失致死として終身刑に処せられることは必至。
チャーリーとラングは、事故原因を究明する公聴会に備え、ウィップには一切の過失は無いという状況に持ち込むべく画策する。

ウィップは、類まれなる操縦技術を持っていた。
それは、事故を再現したシミュレーションに挑んだ10人のパイロット全員が、機体を地面に激突させ、乗員は全員死亡するという結果に終わったことが彼の技術の高さを証明する。
フライト・レコーダーに残されたコクピットの模様から、旅客機が墜落した原因は機体の故障にあることが想定され、その原因は不時着して残された機体の調査により裏付けられる。
事故の原因はあくまでも機体にあり、パイロットには何の過失もない。
それどころか今回の事故は、ウィップによる操縦だったからこそ、乗員全員死亡という大惨事を免れることができたのである。
奇跡を起こした彼は、正に神の腕を持つ非常に優秀なパイロットだ。

チャーリーは、辣腕弁護士ラングとタッグを組み、ウィップが“ヒーロー”であるという客観的証拠を積み上げていく。
しかしウィップは、確かにアルコール依存を抱えていた。
しかもコカインを常習している。
そのことを事故調査委員会に追求されては元も子もない。
チャーリーとラングはウィップを懇々と諭して生活を改めさせ、ウィップも調査委員会での無実を勝ち取るために動く。
こうして万全の態勢で迎えることができるはずの公聴会だったが…


ウィップを通して、酒や麻薬の常習は現実からの逃避であり己自身からの逃避であると、改めて考えさせられた。
またこれらに対する依存症とは、自分で自分をコントロールできなくなってしまう、精神面での病でもあることも痛感した。
公聴会に向けて絶ったはずの酒を見つけたときのウィップの行動には戦慄する。
これが依存症の恐怖であることを思い知るシーンである。

そしてこの依存症を克服できるか否かは、己の意思の力にかかっている。
依存症のウィップが本当に立ち直るキッカケとなったのは、人間としての正義感というよりは、男としてのプライドではないだろうか。
誰にも負けない操縦技術を持っているという自負は、己の強さを唯一認めることができ、己の存在感を示すと同時に存在意義を認識できる、よすがとなるものである。
それがあれば人は、そのプライドを保つために意思を強く持つことができ、依存症に立ち向かう勇気を奮い起せるのかもしれない。
従って己の自信となるものを感じられず、常に劣等感に苛まれ続けている人間は、ひとたび依存症に陥ると抜け出せないのではないだろうか。
依存症患者を立ち直らせるには、まず己に対する自信を持たせることが何よりも必要なのかもしれない。
自分は医師でも医療技師でもないが、ウィップを通じてそんなことを考えた。


「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のロバート・ゼメキス監督による12年ぶりの実写映画は、「生きてこそ」や「ユナイテッド93」を観たとき同様、飛行機に乗るのが怖くなる圧巻の映像が強烈に脳裏に焼きつく。
入念な取材によってあらゆる飛行機事故のケースやパイロット達の話から練り上げられた興味深い脚本に基づいた、深い思索に導いてくれる骨太のヒューマンドラマ。


フライト
2012年/アメリカ  監督:ロバート・ゼメキス
出演:デンゼル・ワシントン、ドン・チードル、ケリー・ライリー、ジョン・グッドマン、ブルース・グリーンウッド、メリッサ・レオ、ブライアン・ジェラティ、タマラ・チュニー、ナディーン・ヴェラスケス、ジェームズ・バッジ・デール、ガーセル・ボヴェイ