面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「チェルノブイリ・ハート」

2011年11月16日 | 映画
1986年4月26日、旧ソビエト連邦(現ウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所4号炉の爆発事故により、放射性物質がウクライナ、ベラルーシ、ロシアを汚染した。
現在もなお、原発から半径30キロ以内の居住が禁止され、北東350キロ以内に“ホット・ゾーン”と呼ばれる局所的な高濃度汚染地域が約100ヶ所も点在し、そこでの農業や畜産業は全面的に禁止されている。
事故から20年、原発事故後はじめて故郷に帰った青年は、廃墟となったアパートへ向かう。

爆心から3キロの強制退去地域は、1986年のあの日に時間が止まったまま。
色あせた1986年のカレンダーを見ながら、
「近親者の10人がガンで死んだ。放射能とは無関係と言われることを、俺が信じると思う?俺もそうやって死ぬんだ。とんだ犬死だろ」
とつぶやいた彼も、1年後に亡くなってしまった。


「チェルノブイリ・ハート」と聞いて、てっきりチェルノブイリ原発事故で被災した地域の人々の“心のうち”といった意味だろうと漠然と解釈した。
しかし本作の内容を知って、それが生まれつき心臓に重度の疾患を持って生まれてきた子供を意味するということに愕然となった。
「穴の開いた心臓」という意味に、自分の心にも穴が開くような衝撃を受けた。
ベラルーシでは現在でも、新生児の85%が何らかの障害を持っているという。
にわかには信じられない数字だ。

ベラルーシ共和国には、局所的な高濃度汚染地域“ホット・ゾーン”が約100ヶ所も点在している。
その“ホット・ゾーン”に住み続ける住民、放射線治療の現場、小児病棟、乳児院の実態を映し出すスクリーン。
中でも、重度の障害を持った子供達の映像は痛々しさを通り越して、背筋が凍る思いがする。
体が反り返って不自然な姿勢のままだったり、巨大な腫瘍を“背負”っていたり、頭蓋骨に治まらずに飛び出した脳が大きなコブになっていたり…。
幼い子供達のあまりに悲しすぎる姿は正視に耐えない。
カメラがとらえた戦慄の映像を見て、それでも原発を推進したいと思うのは、よほどの博打好きか、精神的に極限まで振り切っているマゾヒストだ。


ドキュメンタリー作家のマリアン・デレオ監督がメガホンを取った本作は、2003年のアカデミー賞ドキュメンタリー部門でオスカーを獲得しているのも納得。
今なお続く原発事故による被爆被害の真実に迫る渾身のドキュメンタリー。


チェルノブイリ・ハート
2003年/アメリカ  監督:マリアン・デレオ