面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「1911」

2011年11月07日 | 映画
清朝末期の中国。
日清戦争を機に国内で西欧列強や日本の勢力が強まると、衰退の一途を辿る国を憂いて民衆が立ち上がり、各地に革命組織が結成された。
孫文(ウィンストン・チャオ)は「中国同盟会」を指揮し、幾度となく清王朝に対して反旗を翻すが成功を収めることができず、逆に王朝から国を危うくする犯罪者としての扱いを受けて指名手配されてしまう。
彼は最も信頼する同志・黄興(ジャッキー・チェン)に、祖国での革命活動の指揮を託して国外へ逃亡し、列強各国からの支援を取り付けようと奔走した。

孫文の意思を引き継いだ黄興は、海外から帰国した「中国同盟会」メンバーたちと共に、広州の総督府(官庁)に攻め込み、トップである総督を捕らえようとするが、事前に情報をキャッチした清朝軍に警戒され、激しい市街戦となってしまう。
この戦闘で多くの同志を失い、総督の身柄を拘束することもできなかった黄興は、自らを責め、失意に打ちひしがれて苦しんだ。
そんな彼を、負傷者の看護や雑役を担っていた女性革命家・徐宗漢(リー・ビンビン)は献身的に支える。
その後、全国に次々と巻き起こった若者を中心とする民衆蜂起にも勇気づけられ、黄興は再び立ち上がることを決意。
そして1911年10月10日、湖北省部昌区での武装蜂起により、時代は大きく動き始めた。
革命を目指す仲間たちの元へと駆けつけた黄興は、戦闘の最前線に立って陣頭指揮をとる。
ついに、「辛亥革命」の火蓋が切って落とされた…


ホノルル留学中に近代思想を学んだ孫文は、衰退する祖国の現状を憂い、革命を志すが、武装蜂起に失敗して日本に亡命。
そこで義に厚く実直な黄興や張振武(ジェイシー・チェン)と出会い、同志の絆を結ぶ。
1908年に溥儀が宣統帝として即位すると、1911年に張振武らの指導によって武昌で武装蜂起が発生。
やがて各地に革命の炎が飛び火し、中国全土を揺るがして「辛亥革命」へと発展してゆく。
一方、滅び行く清朝内部でも、軍閥を率いて権力の座を狙う軍人の袁世凱(スン・チュン)や、隆裕皇太后(ジョアン・チェン)は、それぞれの思惑を胸に動き出していた。

本作で知ることとなった「辛亥革命」の全体像はこんなところだが、学生時代に歴史の授業で“サラッ”と習うだけだった自分にとって、その全貌を初めて知ることができた。
中学や高校における“勉強”から見た「辛亥革命」は、「孫文が中心となった革命」という認識くらいでしかない。
自分は大学入試において日本史を選択したこともあって尚更「辛亥革命」の知識が無いとは思うが、中国史についてある程度掘り下げて学習した経験が無ければ、本作における登場人物のほとんどを知らないというのが一般的だろう。
何千年もの間、王朝政府による支配が続いてきた中国において、人民によって国が作られるという歴史的大転換を成し遂げた孫文の偉大さはワールド・ワイドに知られるところではある。
とはいえ、そんな一大事業をたった一人の人間が遂行できるわけもなく、数え切れないほど多くの人々の力が結集した結果であり、多大な犠牲の上に成り立つもの。
しかしながら、革命の中枢にいた人物でさえも、大きな歴史のうねりの中では名前を知られることもない。
孫文の盟友として有名ではあるが、一般的には知られているとは言い難い(自分も知らなかった…)人物である黄興を演じたジャッキー・チェンは、そんな歴史に埋もれた多くの名も無き人々の偉業を讃え、今日の自分たちがあることを感謝し、本作を自身の出演作100本目に選んだのではないだろうか。


ところで、清朝末期から中華民国の初期にかけて政局を動かした軍人政治家・袁世凱についても、本作でその“人となり”がよく分かった。
王朝の軍幹部でありながら革命派に通じ、皇太后に皇帝の退位を説いて清朝を滅亡へと導き、共和制の樹立を成功させたことと引き換えに、孫文からの禅譲を受けて新国家の大総統を獲得した袁世凱。
権力を手に入れる手段として革命を利用しようと考えた彼が、孫文の部下を宴席に迎えて孫文の魅力を尋ねる。
「孫文には私心が無い」と答えたことに対して大笑いしながら、
「私欲の無い人間など居るか!」
と言い放つが、この言葉は至言。
共産主義が次々と崩壊した理由も、中国国内で発生した数々の“拝金主義”的な事件の原因も、正にここにある。
袁世凱の私心に満ちた姿を描くことで、ジャッキーは清廉潔白で真っ直ぐな孫文に思いを馳せつつ、昨今の中国人に対して憂いを抱いているように感じたのは自分だけだろうか。


「今、私が皆さんに見てもらいたいもの、話したいことを映画の中で全て表現しています。歴史巨編スペクタクル『1911』を、皆さん応援してください。」
サインと共にプレスシートに記された言葉の通り、ジャッキーが万感の思いを込めて製作した熱い大作!


1911
2011年/中国  総監督:ジャッキー・チェン 監督:チャン・リー
出演:ジャッキー・チェン、ジャン・ウー、ウィンストン・チャオ、スン・チュン、ジェイシー・チェン