面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「花のあと」

2010年04月21日 | 映画
東北の小藩・海坂藩。
女でありながら男顔負けの剣術の腕を持つ以登(北川景子)は、一度だけ竹刀を交えた藩随一の剣士・江口孫四郎(宮尾俊太郎)に、熱い恋心を抱く。
しかし、以登にも孫四郎にも、ともに家の定めた許嫁がいた。
以登は密かな思いを断ち切って、江戸に留学中の許嫁・片桐才助(甲本雅裕)の帰りを待ち続ける。
数か月後、以登は、藩命で江戸に向かった孫四郎が自ら命を絶ったことを知る。
なぜ孫四郎は死なねばならなかったのか?
得心がいかない以登は、才助に頼んで調べを進めてみると、そこには御用人・藤井勘解由(市川亀治郎)を中心とする不正が隠されていた…

『たそがれ清兵衛』『蝉しぐれ』『武士の一分』など、数々の秀作時代劇の原作者として知られる藤沢周平の同名短編小説の映画化。
原作がいいのだから、面白くないはずがない。
そう思いながら観に行ったのだが、案に違わず面白かった♪

庄内地方にある架空の小藩・海坂藩を舞台に、ひそかに思いを寄せていた武士が自ら命を絶ったことを知り、その原因となった相手に敵討ちを果たそうとする女性の姿を描く。
剣の達人であるヒロイン・以登を北川景子が好演。
半年に渡って殺陣の訓練をしたとのことだが、なかなか堂に入った太刀裁き。
時代劇自体が初めてのうえに、剣の達人としての殺陣まで身につけなければならなかった本作への挑戦は、今後の女優活動に向けて新境地を開くことができたのではないだろうか。

また、以登が恋心を抱く剣士に、バレエダンサーの宮尾俊太郎が映画初出演で熱演。
こちらもまた、映画出演自体が初めてのうえに、難しい時代劇に挑戦したのだから、その苦労は大変だったことだろう。
北川・宮尾の、時代劇初挑戦同士の初々しさが、共に真っ直ぐに生きる以登と孫四郎の、淡い恋物語にピタリとハマっていて何やら微笑ましい。

そんな二人を脇から支える、甲本雅裕、市川亀治郎、國村隼ら実力派俳優陣の競演も見応え十分。
作品全体にしっかりと安定感をもたらしているのはさすが。

仇討ちという花を咲かせた後、豊かな人生を実らせることができた以登。
“大輪の花”が咲いたのも、人生に“豊かな実り”をもたらせたのも、才助の支えがあったればこそ。
後に「昼行灯」と呼ばれたという、決して派手さは無い才助だが、以登を優しく包み込むような愛情が伝わるラストシーンに、観る者の心も温まる。

「慎ましくも正しく生きる」という藤沢文学の真髄を堪能できる佳作。


花のあと
2009年/日本  監督:中西健二
原作:藤沢周平
出演:北川景子、甲本雅裕、宮尾俊太郎、相築あきこ、谷川清美、佐藤めぐみ、市川亀治郎、伊藤歩、柄本明、國村隼
語り:藤村志保