鉄道と共に発展してきたアルゼンチンの小さな田舎町。
かつては国営だった鉄道には、民営化後、経営合理化の波が押し寄せ、この町にもある日突然、路線の廃止が通達された。
交渉に臨んでいた労働組合長・アンヘルは、「運命は変えられない」と将来を悲観し、自ら命を絶ってしまう。
組合員である鉄道員達に促されたのは、自主退職。
アンヘルの兄であるカルロスと、ブラウリオ、ダニエル、アティリオ、ゴメスの5人はこれに反対していた。
しかし、喘息の息子を抱え、妻が両親に金を借りなければ薬代も無い状況にあったダニエルは自主退職届けにサインし、息子の名付け親の紹介で仕事を得るために銃の訓練を始める。
また、同じく自主退職を選んだゴメスが得た仕事はサンドイッチマン。
「唯一あった仕事がこれだ」と、カルロスにつぶやく。
カルロスには働く妻と娘がいるが、悩みながらも決心がつかずにいたが、家の立ち退きを迫られることとなり、新たな職を探そうとマルチ商法の説明会に行っても納得できない。
自主退職を拒み続けるブラウリオは、元の職場である列車の修理工場に住み着き、猫を相手に理不尽な世の中への怒りをぶちまけている。
独り者のアティリオはタクシーの運転手として仕事に就くが、強盗に襲撃されたり偽札を掴まされたり災難続き。
彼らだけでなく、突然職を失った鉄道員達は、かつて持っていた誇りも失いそうになりながら、「出口」を見つけられずにもがいている。
そんな閉塞感が鉄道員達を覆う中、ゴメスが犯罪に手を染めてしまう…
アルゼンチンは、1857年の鉄道開通以来、鉄道の敷設によって経済を発展させてきた国だということを初めて知った。
そして本作の背景として、1991年からの分割民営化政策により、8万人にも及ぶ鉄道員が失業したという事実があるということも。
自由主義経済を押し進めるために行われた一連の政策により、失業率が急上昇、貧富の格差が広まっていったと言われるアルゼンチン。
本作で描かれている鉄道員たちは、この時代を象徴する失業者の姿であり、庶民の姿を現しているのである。
追い詰められて犯罪に走ったゴメス。
そのニュースを報道しながら、「元鉄道員が犯罪をする理由が分からない」と言い放つニュースキャスターを見て、居ても立ってもいられずにテレビ局へ駆けつけ、失業後の鉄道員達の実情をキャスターに訴えるカルロス。
そんな「出口」を見つけられずに喘ぐ大人達を尻目に、アンヘルの息子、カルロスの娘とその彼氏の3人が立ち上がるラストシーンが心に染みる。
それで何かが解決されるわけではないが、大人達を奮い立たせるかのような行動に走った子供達が、この町にとっての出口を見つける…いや、作り出していくに違いない。
急激な自由主義経済の進展で著しい格差社会が生まれたというアルゼンチンは、日本の将来を映し出しているようで、いたたまれない。
この映画は、決して地球の裏側だけの話ではない。
しかし日本の未来には、本作のような「出口」が見えているのだろうか…
後からじわじわとこみ上げてくる佳作。
「今夜、列車は走る」
2004年/アルゼンチン 監督:ニコラス・トゥオッツォ
出演:ダリオ・グランディネティ、メルセデス・モラン、オスカル・アレグレ、ウリセス・ドゥモント、パブロ・ラゴ、バンド・ビリャミル
かつては国営だった鉄道には、民営化後、経営合理化の波が押し寄せ、この町にもある日突然、路線の廃止が通達された。
交渉に臨んでいた労働組合長・アンヘルは、「運命は変えられない」と将来を悲観し、自ら命を絶ってしまう。
組合員である鉄道員達に促されたのは、自主退職。
アンヘルの兄であるカルロスと、ブラウリオ、ダニエル、アティリオ、ゴメスの5人はこれに反対していた。
しかし、喘息の息子を抱え、妻が両親に金を借りなければ薬代も無い状況にあったダニエルは自主退職届けにサインし、息子の名付け親の紹介で仕事を得るために銃の訓練を始める。
また、同じく自主退職を選んだゴメスが得た仕事はサンドイッチマン。
「唯一あった仕事がこれだ」と、カルロスにつぶやく。
カルロスには働く妻と娘がいるが、悩みながらも決心がつかずにいたが、家の立ち退きを迫られることとなり、新たな職を探そうとマルチ商法の説明会に行っても納得できない。
自主退職を拒み続けるブラウリオは、元の職場である列車の修理工場に住み着き、猫を相手に理不尽な世の中への怒りをぶちまけている。
独り者のアティリオはタクシーの運転手として仕事に就くが、強盗に襲撃されたり偽札を掴まされたり災難続き。
彼らだけでなく、突然職を失った鉄道員達は、かつて持っていた誇りも失いそうになりながら、「出口」を見つけられずにもがいている。
そんな閉塞感が鉄道員達を覆う中、ゴメスが犯罪に手を染めてしまう…
アルゼンチンは、1857年の鉄道開通以来、鉄道の敷設によって経済を発展させてきた国だということを初めて知った。
そして本作の背景として、1991年からの分割民営化政策により、8万人にも及ぶ鉄道員が失業したという事実があるということも。
自由主義経済を押し進めるために行われた一連の政策により、失業率が急上昇、貧富の格差が広まっていったと言われるアルゼンチン。
本作で描かれている鉄道員たちは、この時代を象徴する失業者の姿であり、庶民の姿を現しているのである。
追い詰められて犯罪に走ったゴメス。
そのニュースを報道しながら、「元鉄道員が犯罪をする理由が分からない」と言い放つニュースキャスターを見て、居ても立ってもいられずにテレビ局へ駆けつけ、失業後の鉄道員達の実情をキャスターに訴えるカルロス。
そんな「出口」を見つけられずに喘ぐ大人達を尻目に、アンヘルの息子、カルロスの娘とその彼氏の3人が立ち上がるラストシーンが心に染みる。
それで何かが解決されるわけではないが、大人達を奮い立たせるかのような行動に走った子供達が、この町にとっての出口を見つける…いや、作り出していくに違いない。
急激な自由主義経済の進展で著しい格差社会が生まれたというアルゼンチンは、日本の将来を映し出しているようで、いたたまれない。
この映画は、決して地球の裏側だけの話ではない。
しかし日本の未来には、本作のような「出口」が見えているのだろうか…
後からじわじわとこみ上げてくる佳作。
「今夜、列車は走る」
2004年/アルゼンチン 監督:ニコラス・トゥオッツォ
出演:ダリオ・グランディネティ、メルセデス・モラン、オスカル・アレグレ、ウリセス・ドゥモント、パブロ・ラゴ、バンド・ビリャミル