面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「茶々 天涯の貴妃」

2008年01月15日 | 映画
元宝塚トップスター・和央ようかの、初主演作品にして、初“女優”作品。
宝塚引退後の初めての役どころが、歴史に名高い淀君。
日本史に詳しい人なら誰もが知っている、豊臣秀吉の寵愛を受けた側室にして、豊臣家最後の当主・秀頼の生母。
歴史的にあまりにも有名な女性ながら、数奇な運命を辿った信長の姪・茶々を、宝塚で6年間もトップを張りつづけた名男役がどう演じるのか。

織田信長の妹・お市の方は、京への道筋を確保するために北近江の戦国大名・浅井長政のもとへと嫁した。
長政との仲は睦まじかったと言われ、男子2名の他に、茶々、おはつ、おごうの三姉妹を産む。
やがて姻戚関係による同盟を裏切った長政は信長に攻め滅ぼされるが、信長の妹であるお市は、三姉妹と共に秀吉の導きによって尾張へと連れ戻される。
母娘が尾張で初めて迎える元旦。
茶々の父親である浅井長政の髑髏で作った盃に入れた酒を飲むよう、信長から強要されて狼狽する母に代わって酒を飲み干して信長を睨みつけ、気性の激しさを見せる茶々。
信長をして「天下を取る女になる」と言わしめたのは、まだ10歳のときであった。

その後、家臣の明智光秀に討たれ、志半ばで倒れた主君・信長の仇を討った羽柴秀吉は、織田家重臣筆頭であった柴田勝家と一旦は折り合いをつけるが、その際にお市の方は勝家に嫁ぎ、三姉妹と共に越前へと移り住む。
やがて勝家は秀吉の攻撃を受けることとなり、いよいよ進退窮まった落城寸前の北ノ庄城で、お市の方は三姉妹に対して必ず生き残るよう言い残して自決する。

母親の遺言を守って落ち延びた三姉妹は、またしても秀吉に助けられることになり、近江の寺に身柄を拘束される。
三姉妹を政略に道具とする秀吉は、三女おごうを尾張の佐治家へと嫁がせ、次に次女おはつを京極家へと嫁がせるが、茶々だけは一人残していた。
そして着実に勢力を伸ばし、朝廷より関白の位と豊臣の姓を授かった秀吉は、天下人として満を持すように茶々を側室に迎えるのであった。
秀吉の命を受けて茶々を迎えに来た大蔵卿の局に対して、「天下様を殺すこともできる」という思いをぶつけながらも、運命を受け入れる。
茶々に課された役割はただ一つ。
豊臣家の跡取を産むことであった…

二度までも自分の父親を殺した相手でありながら、その都度自分を助けてきた秀吉に対する思いは、相当複雑なものであったに違いない。
しかし、その思いを胸に秘めつつ、秀吉の側室となることを受け入れた茶々は、確かに相当強い“意志”を持っていたに違いない。
その“意志”とは、亡き父・浅井長政と、母・茶々の血を残すこと。
この一点こそが、茶々の生きるよすがであり、また、三姉妹が結束した源であったに違いない。
激動の時代を生き抜いた武将達の強さが強調されがちな戦国時代にあって、この時代を生き抜いた女性たちの強さは、実は男以上に強靭な“生命力”の発露ではないだろうか。
生物学的に男よりも強い女性の強さは、戦に明け暮れ、戦場を駆け続けた男どもの“見てくれの強さ”など、足元にも及ばない。
颯爽とビジネス界を闊歩する現代女性の強さとも相通ずるものだ。

映画のクライマックス。
大阪の陣において、最後通牒を突きつけてきた家康に対して敢然と立ち向かい、宣戦布告を告げるため、馬上豊かに騎馬武者姿で戦場を疾駆する茶々は実にカッコいい。
その甲冑姿で大阪城内へ取って返し、立て篭もる将士達を鼓舞する姿は誠に凛々しい。
そして最後には、天守閣とともに華々しく散る潔さと、大坂城は誰にも渡さないという強烈な意志。
「女性の強さ」を圧倒的な迫力で体現することのできる存在として、和央ようかは確かにハマリ役である。


茶々 天涯の貴妃
2007年/日本  監督:橋本一
出演:和央ようか、寺島しのぶ、富田靖子、高島礼子、余貴美子、原田美枝子、中村獅童、渡部篤郎、松方弘樹