猫じじいのブログ

子どもたちや若者や弱者のために役立てばと、人権、思想、宗教、政治、教育、科学、精神医学について、自分の考えを述べます。

宮坂昌之の『新型コロナ7つの謎』、集団免疫とワクチンの神話

2021-06-22 23:39:57 | 新型コロナウイルス

宮坂昌之は、『新型コロナ7つの謎』(ブルーバックス)で、国民の60%が免疫もったとき集団免疫を獲得する、というのは安易な理解だ、と書いている。

私は、集団免疫という言葉を、昨年3月12日のドイツ首相メルケルのメーセージで はじめて知った。メルケルのスピーチは、私を感動にいざなった。

新型コロナの治療薬もワクチンもない現状では、社会が集団免疫をもつまで、人々の60%から70%まで感染するまで、広がりつづける。だから、治療薬やワクチンの開発が成功するまで、行動規制をおこなって、感染速度を抑え、医療の崩壊、社会の崩壊を防がないといけないというものであった。

メルケルの言葉で、新型コロナの恐ろしさを私は理解した。と同時に「集団免疫」が呪文のような言葉になった。

その時点での、ドイツの感染者数(累積)は、たったの8千人である。現在、ドイツの感染者数は373万人、日本の感染者は78.8万人である。メルケルは、先見の目があった。

ところが、宮坂によれば、この「集団免疫」と「60%が感染」が独り歩きをしているという。

メルケルのメッセージと、同じころ、イギリスの疫学者のニール・ファーガソンが、「人口の60%が感染すれば流行が収束するはずなので、国民の多数がこのウィルスにかかることで社会に『集団免疫』をつけることが望ましい」と主張し、首相のポリス・ジョンソン首相にそうアドバイスした。ところが、ジョンソンは新型コロナに感染し、死ぬ思いをして、感染を促すのではなく、感染速度を抑えるために行動規制をするように、政策方針を変えた。

同じころ、スウェーデンの疫学者アンデッシュ・チグネルが、「都市封鎖をするよりは、多くの人が感染して集団免疫をめざすのが早い」と主張し、スウェーデンは、国として、強い行動規制をせずに、集団免疫をめざした。

本当に、宮坂がいうように、ファーガソンやチグネルが感染拡大の速度を故意に上げようとしたかは、私は疑う。単に、彼らの政策を見て、宮坂がそう理解したのではないか。疫学者が感染の速度をわざわざ速めるとは思えない。問題は、単に、どこまでの行動規制が必要かの認識の差であろう。

ところで、この「60%」というのが、大した根拠をもたないというのは、本書を読んで はじめて知った。

宮坂によると、疫学のモデルパラメータに「基本再生産数」というのがあって、ここから「集団免疫閾値」が計算されたのだという。基本再生産数Rは、免疫も行動規制もない状態で、一人の感染者が周りの人のうち、何人に感染させるかという数字だという。

このRが1より小さいとすれば、たまたま感染者がいても、周りにあまり感染させなくて、しだいに、ひとりでに感染が収まるという。

ここで、周りの半分が免疫をもっていれば、うつるのは、Rの半分になる。したがって、実効的には、Rの半分の値になる。どうように、もし、基本再生産数がR=2.5とすると、国民の60%が免疫をもっていれば、40%の人しか、感染しないから、実効再生産数は0.4R=0.4×2.5=1 となる。

すなわち、基本再生産数Rを2.5と仮定したから、「60%が感染」とでただけでのことである。目標となる数値ではない。

インフルエンザの基本再生産数Rは、1.4から4 だという。あいまいな数である。新型コロナの R=2.5 もあてずっぽな数である。たぶん、インフルエンザ程度という意味であろう。

宮坂の論点は、実効再生産数は、人々の恐怖心や行動規制で、基本再生産数より小さくなる。したがって、本当のところは、ずっと少数の人しか感染せずに、歴史上、パンデミックはおさまるという。日本でも、大した政策もとらずに、緊急事態を宣言するだけで、感染拡大が収まる。問題は日本の解除が早いということで、すぐ、リバウンドしてしまう。

持続的行動変容が起きてないのである。

宮坂は、新型コロナを怖がりすぎている、という観点から本書を書いたと言うが、私は、本書を読んで、新型コロナを国民がキチンと怖がることが必要だと思った。

政府が危機を論理的に訴えることがだいじではないのか。国民が感染が怖いという意識によって、行動の変容がおき、人流が抑えられるのではないのか。論理的にうらづけられた「怖がる」ことで、一人ひとりの行動を適切な方向にもっていくのである。

したがって、菅義偉が「GoTo キャンペーン」を昨年行ったこと、そして、いま、東京オリンピックを強行しようとすることは、国としてやってはいけないこと、と思う。ワクチン接種率は、オリンピック開催時には国民の10%程度だと思われる。それに、ワクチンを接種したから新型コロナに感染しないとはかぎらない。

ウガンダ選手9人がワクチンを接種したのに1人が感染したと言うが、ファイザー社もモデルナ社も95%程度の感染予防効果として、緊急認可されたものである。治療薬と異なり、ワクチンを接種しても、感染の危機にさらされたかどうかはわからず、予防効果はあくまで推定値にすぎない。95%なのか90%なのか、あるいは、80%なのか、本当のところはわからない。

したがって、ワクチンを接種したからといって、浮かれてはいけない。あくまで、「GoTo キャンペーン」や「東京オリンピック」というリスクを、国が犯すべきではない。