今回は表面的な事象に翻弄されてみましょう。
昨夜(4月8日)、日付も変わろうかという時間に耳寄りなニュースが飛び込んで来ました。AFP電です。
●北京五輪、海外聖火リレー中止の可能性も(AFP BB News 2008/04/08/23:30)
http://www.afpbb.com/article/sports/sports-others/sports-others-others/2375521/2808023
【4月8日 AFP北京】チベット暴動への中国政府の対応に抗議し、ロンドン、パリなど北京五輪の聖火リレー通過ルートで妨害行動が相次いでいる問題で、国際五輪委員会(International Olympic Committee、IOC)の理事らは初めて、今大会の海外リレーを中止する可能性について言及した。
グニラ・リンドバーグ(Gunilla Lindberg)IOC副会長によると、北京(Beijing)で10日から開かれるIOC理事会で、北京五輪の聖火リレーに関して見直される方針だという。また今後の大会におけるリレーについても取り上げるとみられる。海外リレーの中止はありうるかと質問された同副会長は、報道陣に「全面的な見直しが必要だと思う」と答えた。
ロンドン、パリの聖火リレーでは、中国政府のチベット(Tibet)自治区の統治手法やそのほかの人権弾圧に反対するグループなどが抗議行動を起こし、リレーに対する大規模な妨害が発生した。今後通過が予定されている都市でも、同様の抗議行動の計画が明らかにされている。
ケバン・ゴスパー(Kevan Gosper)IOC委員は、聖火リレーが世界中の人権活動家らが中国への反感を表す機会になってしまった点を指摘し「非常に失望している」と述べ、「彼らはその時々の問題が何であれ反感をぶつける。反感は今、中国が主催国となる五輪の聖火に向けられている」と批判した。
おおお。要するに日本を含む海外での聖火リレーは一切中止して、やるなら中国国内限定、ということですね。
ロンドンもさることながら、パリ部隊が余りにGJ!でしたから。火種はバスの中に置いてあるとしても、トーチに移した聖火を再三にわたり消さなければならないという異常事態はインパクト十分でした。
トーチの火が強風などで消えた前例はあるものの、抗議活動の激しさに屈したというのは前代未聞。本来慶祝されるべき聖火リレーが行く先々でブーイングと妨害活動の嵐に見舞われています。次の舞台となる米国のサンフランシスコ市などは、「警戒と抗議を以て聖火を迎える」みたいな市議会決議が可決されていて早くもバトルモード(笑)。
しかも聖火の露払いとばかりに、チベット人支援組織のメンバーが金門橋に横断幕を掲げたばかりです。パリを超えるかとか大荒れになるかとかいったことはともかく、和やかな歓迎ムードにならないことは必定。静観を決め込んでいたIOCも、これでは五輪の権威にかかわる上に悪しき前例を残してしまうということで、いよいよ重い腰を上げるといったところでしょうか。
乱暴に言ってしまえば、IOCなぞ所詮は「五輪」という神聖なる御神輿を担ぐことで威張ったり利権にありついたりしている連中。その御神輿の有難味が薄れてしまってはたまったものではないでしょう。
この記事はケバン・ゴスパー委員のコメントを紹介している最後の段落が味わい深いです。ガッカリしているのと同時に相当ムカついているようですが、その怒りの鉾先は人権活動家というより中国に向けられている、と読むべきではないかと思います。過去の聖火リレーにおいては今回のような驚天動地の大騒ぎなどは起きていませんからね。
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この記事、契約者向けの配信はずっと早かったようで、8日午後に開かれた中国外交部報道官定例会見でこの件に関する質疑応答がなされています。
質問:報道によると、IOC高官は、オリンピックの聖火リレーの路線を短縮すると語ったそうだが、この点につき確認したい。
回答:IOC高官がそのようなコメントを発表したということを、私は聞いていない。(以下建前&原則論)
●「外交部HP」(新華網 2008/04/08/20:23)
http://news.xinhuanet.com/world/2008-04/08/content_7941610.htm
知らないフリをしているのか本当に虚を衝かれたのかはわかりません。そもそもIOCもこの件につき公式発表を行った訳ではなく、外電が拾ったコメントを記事にしたものですから。……でも「その話題、待ってました」というときには、
「その報道にはわれわれも注目している」
なんていう前のめりなリアクションもしたりするんですけど。とりあえず中国当局としては肯定も否定もしてはいないことになります。
本当に中止になっちゃったら開催国としての面子丸潰れですから、うかつな対応はできないところでしょう。国際社会に対しては居直ることもできるでしょうが、国民を丸め込むための仕込みがまず必要になりますから。
「チベット独立を企てるダライ集団とそれを支援する国際勢力の陰謀によって……」
という作文を例によってこしらえて体裁を繕わなければなりません。中止となれば大事態ですから、作文の内容も激烈ならトーンもかなり高めになるでしょうし、それを端緒とする新たな思想統制キャンペーンの段取りを考える必要もあります。
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ところが、当局がまだ意思表示を行う前から中国国内メディアがこのAFP電を流してしまいました。党中央の機関紙『人民日報』の系列下にある国際紙『環球時報』のウェブサイト(環球網)です。
●IOC、海外聖火リレーの繰り上げ終了を会議で検討へ(環球網 2008/04/08/15:32)
http://2008.huanqiu.com/news/2008-04/86498.html
AFPの報道によると、IOCのある高官は火曜日(8日)、北京五輪の聖火リレーが行く先々で妨害に遭っていることから、海外での聖火リレーを予定より早めに打ち切って終了させることを今週中に検討することになると語った。
……と、たったこれだけのごく短い記事なんですけど、中国当局と中国国民にとっては驚愕すべき内容。ひょんなことで報道管制の網をくぐって電子版に掲載されてしまったのか、と思ったら、「捜狐」など大手ポータルのニュースサイトにも転載され始めており、現時点においては削除された気配はなし。
まあ上で紹介したように外交部報道官の会見でも記事にしていますから隠すつもりはないのかも知れませんけど、だとすれば聖火リレーに対する抗議の激しさが予想以上であることに中国当局が辟易している、ということなのでしょうか。
今後行く先々で聖火リレーが「中国晒しage」状態にされてそれが中国国内に悪影響を及ぼすよりも、「繰り上げ終了」で恥をかく方がまだマシという判断?確かに今回の聖火リレーは進めば進むほど国際社会でチベット問題がクローズアップされていくという展開にはなっています。
ただこれまでもパワープレーに徹してきた中国です。北京五輪への国際世論による非難が高じたとしても、それが実際に行動に移されるとなればせいぜい主要国首脳の開会式ボイコット、といった程度でしょう。中国にとってはさほど痛くはないレベルではないかと思います。とすれば、とうとうIOCから圧力がかかった、ということなのでしょうか。このあたりは邪推する材料がまだ十分にありません。
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海外ルートを早々に打ち切るとなると、聖火リレーは国内限定(中国本土&香港&マカオ)。海外と違って抗議活動は封殺されるでしょうし取材・報道も制限されるでしょうから、今回事態を盛り上げているチベット問題への国際的関心は抑制されてしまうことになるでしょう。
ただ、国内ルートでも聖火はチベット自治区を通りますしエベレスト登頂も予定されています。中共政権としてはこの線は絶対に譲れないところでしょうが、強行することで不測の事態が発生する可能性はあります。これはチベット人がまとまって居住しており抗議活動も行われている青海省や甘粛省でもそうですし、ウイグル人の東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)でも何かが起きても不思議ではありません。
民族の誇りや迫害され続けてきた歴史への怒り、そして何よりも信仰というものが原動力となりますから、過去半月にわたるチベット人の抗議行動がそうであったように、いかに人民解放軍が戦車と機関銃を揃えて厳戒態勢を敷いても、起きるときには起きてしまうことがあります。
その映像が海外に流出したり、あるいは少数民族に対する反感だか生活苦だか地元党幹部の汚職に対する怒りの爆発だか、動機は何であれ漢族が暴動を起こしてそれを当局が武力弾圧してしまったりすると、国際社会の反応や北京五輪へのスタンスにも劇的な変化が生じる可能性があります。
また総人口の9割を占める漢族が暴動~弾圧される側の当事者となれば、「敵は異民族」だったこれまでと違い、中国社会の空気も微妙になることでしょう。なにせ「官vs民」という根深い対立軸が存在する上に超格差社会。この「官」への反目というフラグが派手に立つようになると、先の読みにくい展開となります。
むろん、中共政権の行動原理という根っこに則して考えれば答はひとつ。「中共人による独裁統治」という一線を守るために当局側はいざとなれば容赦なく軍事力の行使に踏み切り、「人民解放軍は国軍ではなく中国共産党中央の私兵」「銃口から政権が生まれる」という言葉が伊達でないことを実証してくれるでしょう。
1989年の天安門事件のときと同様に、中国はそのために国際的に孤立することも厭わない筈です(孤立化を避けるべく極力努めるでしょうけど)。それによって「中共人による独裁統治」というカタチは維持されることになるでしょうが、それと引き換えに、これまで30年ばかり積み上げてきたものの多くが失われることになるかも知れません。そうなったとき、「中共人」がなおも一枚岩でいられるかどうかがひとつのカギとなるように思います。
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……邪推する材料に乏しいものですからつい妄想へと走ってしまいました。orz
せっかくですから最新ニュースの中で面白げなものを並べておきます。
●聖火通過控え大規模集会 米サンフランシスコ(共同通信 2008/04/09/07:08)
【サンフランシスコ(米カリフォルニア州)8日共同】「自由なくして五輪はありえない」。北京五輪の聖火リレーで北米大陸唯一のルートで、聖火通過を9日に控えた米サンフランシスコで8日、1000人以上が参加して中国当局によるチベット暴動鎮圧を批判する大規模な抗議行動が行われた。サンフランシスコ中心部にある市庁舎近くの広場で開かれた集会は赤と青、黄色のチベット旗で埋め尽くされ、各地から集まったチベット人らが参加。「中国はチベットから出て行け」「チベットに自由を」などとシュプレヒコールを上げた。
サンフランシスコも燃え上がる予感。聖火リレーの打ち切り論がIOC内で浮上しているのなら、ここでの荒れ具合が流れを決めそうです。
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●9日に訪米の途に=日本にも立ち寄り-ダライ・ラマ(時事ドットコム 2008/04/08/15:34)
【ニューデリー8日時事】インド亡命中のチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世は9日、日本経由で訪米の途に就く。チベット自治区で3月に暴動が起きて以来、外国訪問は初めて。日本と米国で予定される記者会見や講演の機会をとらえ、中国当局との対話再開などを改めて訴えるとみられる。
日本も盛り上がってほしいところですね。ダライ・ラマ十四世の記者会見に中国が反発すればするほど吉。あとファンタジスタとの「ニアミス」を激しく希望(笑)。
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●欧州議会:五輪開会式「欠席決議案」採択も(毎日jp 2008/04/08/12:43)
【ブリュッセル福島良典】欧州連合(EU、加盟27カ国)の欧州議会は、中国政府がチベット自治区情勢をめぐりチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世との対話に応じない場合には、加盟国首脳に対して、北京五輪開会式のボイコットを呼びかける決議案を9日にも採択する見通しとなった。ロイター通信が伝えた。
ロイター通信によると、決議案は超党派で作成され、今年前半のEU議長国スロベニアに対して「北京五輪開会式について、中国当局とダライ・ラマとの対話が再開されない場合には、欠席の選択肢を含め、EUとして共通の立場を見いだすよう求める」としているという。(後略)
聖火リレーの騒ぎがEUにも影響しているのでしょうか。楽しみな空気になってきました。
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●サルコジ仏大統領 ダライ・ラマ14世との対話を条件に(MSN産経ニュース 2008/04/09/01:11)
【パリ=山口昌子】フランスのサルコジ大統領は8日、北京五輪開会式への出席問題に関し、「中国政府とダライ・ラマ14世が対話すればフランスが出席する条件について決定する」と述べた。7日の聖火リレーが抗議デモで「大失敗」(仏紙フィガロ)に終わったとの見方を考慮しての発言とみられる。クシュネル外相も同日、デモは「大統領の仕事を複雑にした」と述べ、デモの影響を認めた。(後略)
こちらは間違いなく聖火リレーの余熱。とうとう「対話」が「出席の条件」と仏大統領自身が明言しました。ちなみにパリの副市長は「中国の人権状況が改善されないなら、今年の五輪は北京ではなくアテネでやるべきだ」「中国に対しては明確かつ直截的な圧力が必要」と神発言連発。
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●チベット弾圧で日本の文化人有志が声明(MSN産経ニュース 2008/04/08/19:56)
中国チベット自治区での騒乱を中国政府が強権的に鎮圧したことを受けて、映画監督の龍村仁さん、ジャーナリストの下村満子さん、音楽評論家の湯川れい子さんらが8日、東京・内幸町の日本記者クラブで会見し、文化人有志65人の連名による「14世ダライ・ラマ法王と中国政府首脳との直接対話を求める声明文」を発表した。
声明文は「ダライ・ラマ法王に扇動された一部チベット人による暴力的反政府活動」という中国政府のキャンペーンを「真実とかけ離れたもの」と批判したうえで、国際的な仲介者のもとでの中国政府首脳と法王との対話を提言。「それこそ中国政府が世界の信頼を取り戻すことのできる唯一の道」と訴えている。
ダライ・ラマ法王の「愛と非暴力」を貫く姿勢に共感する龍村さん、下村さん、湯川さんが呼びかけ人となり、作家の池澤夏樹さん、女優の岸恵子さん、俳優の堺正章さん、詩人の谷川俊太郎さん、音楽家の細野晴臣さんら計65人が賛同者として名を連ねた。(後略)
日本でもいよいよこういう動きが。細野さん応援しています!
最後にこれ。私もずっとムカついていたんです。
この連中、親中紙『香港文匯報』(2008/04/08)によると武装警察(内乱鎮圧用の準軍事組織)や警察の特種部隊から選抜され、公安大学で錬成を重ねてきた野郎どもとのことですが、こいつらが権限を持たない外国で抗議する市民を払いのけたり地面にねじ伏せたりするシーンを目にするたびに腹が立って仕方がありません。
お前ら何様?もし聖火リレーが長野でも行われるのであれば、宿泊先関係者の皆さん、リレー前日の晩餐は是非中華で、お約束のメタミドホス漬け中国毒餃子で念入りにもてなしてあげて下さい。
ああいう人治な独裁国家丸出しの言語道断な行為を日本で許してはなりません。もし長野県警が抗議した人を拘束するのであれば、それを振り払ったり押さえつけたりした畜生どもをも決して見逃すことのないようお願いします。くれぐれも。