西南学院大の演劇部(29人)が18、19の両日、冬の定期公演で知的障害者を取りまく現実を笑いあり、涙ありのストーリーで描き出した作品を上演する。知的障害について演じるのは初めてだが、部員たちは「演劇だからこそ伝えられることがある」と意気込む。
演じるのは、俳優で脚本・演出家の宅間孝行さん作の「くちづけ」。80代の男性が長年ずっと面倒をみてきた知的障害のある家族を殺したという新聞記事が題材で、2013年に映画化もされた。
知的障害者が暮らすグループホーム「ひまわり荘」が舞台。そこに、2人だけで支え合って生きてきた元人気漫画家の父と、知的障害がある娘の「マコ」がやってくる。入居者それぞれが事情を抱えながら、周囲に支えられ、にぎやかな日々を過ごす。しかし、経営の問題からひまわり荘を閉めることが決まる。父は病にかかり、マコを守るための決断をする――。
マコ役を演じるのは経済学部3年の宮地桃子さん(20)。宮地さんが小学生の頃、同じ学年に知的障害のある子どもがいた。普段は別々のクラスで勉強していたこともあり、「なんとなく違う存在なんだな」と感じていたという。
キャナルシティ劇場(福岡市博多区)で11月、「TAKUMA FESTIVAL JAPAN」によるこの舞台の再演を見て、意識が変わった。公演後のあいさつで、知的障害者役で登場した一人の町田萌香さん(27)が実際に知的障害者であることを知った。
それまで知的障害者の作業所へ見学に行った部員の話を聞いたことはあった。舞台で同じように役者として演じているのを見て、「表現の差があるだけで、うれしい、悲しいと感じる心は一緒なんだな」という実感を新たにした。
国際文化学部2年で、演出担当の瀬川聖(しょう)さん(19)は知的障害について知識がなかったという。3月に初めて脚本を読んだとき、描かれている知的障害者の気持ちに衝撃を受けて、「こういう世界もあることを伝えなければという使命感が生まれた」と話す。
同市早良区のキャンパスにある西南会館3階で18日午後6時半、19日は午後0時半と同6時開演。当日券300円(前売り券200円)。問い合わせは演劇部(seinan_act_club@yahoo.co.jp)へ。
公演に向けて練習する宮地さん(右)と演出担当の瀬川さん(左から2人目)
2015年12月16日 朝日新聞デジタル