風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

方言

2010-08-14 12:53:50 | ほのぼの
 あらっ、おっちゃけた!
バスの中でうとうとしかけていた私は、その声ではっと目が覚めた。 

 前の座席の女性が、座席の下に何かを落としたらしい
周囲の何人かがクスクスと笑った。

 くだんの彼女は、屈みこんで拾い上げたあと、何事もなかったように前を向いている。
周囲の忍び笑いは聞こえただろうから、しまった、と自分のひとり言を悔いているかもしれない。

 それにしても、方言とはなんと和やかな笑いを誘うものだろう。「あら、落ちた」 なら、誰も笑いはしなかったかもしれない。

 私は関東の出身である。縁があって九州に住みついた。
長男の小学校入学式の日、教室で担任の挨拶があった。

 親になってはじめてのことで、子供よりもこちらが、緊張もしていたし、張り切ってもいた。

 どんな教育方針が述べられたのか肝心のことは記憶にない。
ただ、「オシッコをしかぶったら」と言われたそのシカブル、という方言は覚えている。
当時はこちらが、まだ若くて気負っていた。
 先生ともあろう人が、こんな日に、方言丸出しでと、がっかりした。

 年寄りになった今は、方言を親しく微笑ましいものに思う。
「なんで方言が悪かとね、よかろうが」
すっかり九州弁がうまくなったと自分では思っているが、さて、他人にはどう聞こえているのだろうか。
 さぞ、いい加減な出自不明の九州弁を喋っているのだろうが、 ま、よかじゃなかですか。