風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

  「優雅なのかどうか、わからない」 松家仁之 まついえまさし

2014-11-30 12:04:47 | 読書

 

主人公 岡田匡、出版社の編集人

 

「離婚をした」が

小説の書きだしである。

 

妻と住んでいたマンションを出た匡は、

公園の傍らの古家を借りた。

大家は園田さん。

園田さんは、息子のいるアメリカへ移るので、猫のふみを大切にすること

ときどき家の様子を知らせることなどを条件にする。

匡は、この家の近くに住む元恋人の佳奈と偶然再会する。

佳奈とのいきさつは、

妻との離婚に少なからずの影響があったと思われる。

再会した佳奈には、介護が必要になった老いた父親がいる。

三人で暮らすことを提案した匡に、佳奈は隣どうしですむことを提案して

火事で更地になった土地に、家を建てる計画のところで物語は終わる。

 

みんな、みんな、優しい。

猫のふみへも、火事を出した佳奈の家の隣人の老女にも。

認知症になった佳奈の父親へも。

むろん、匡と佳奈の双方も。

 

 駅を通過するプラットホームに偶然見かけた

元妻には、寄り添う体格のいい男性がいて。

作者は、元妻をも不幸にしない配慮を示して

あくまでも優しい作者の心を感じる小説である。

 

「火山のふもとで」「沈むフランシス」に続く三作目の小説である。

前二冊についてはただいま閉鎖中ブログ「ばあばの読書記録」にメモあり。


お尻

2014-11-29 11:32:14 | 健康

86歳になる知人を見舞った。

一人暮らしの彼女は脚が悪い。

ヘルパーさんに来てもらったり

デイサービスへ行ったりして暮らしている。

 

今日、その彼女が、皺がふえたことを嘆き、

ほら、こんなよ、と腕を差し出した。

なるほど、フムフムと頷くしかない。

 

「私ね、お尻も、皺だらけなの」

と彼女は言う。

「ふうん、でも、その齢になれば、お尻なんか人に見せることないからいいんじゃないの」

と風子。

「そうでもないの、デイサービスでみんなと一緒にお風呂に入るから。

顔に皺があってもお尻のつるんつるんに綺麗な年寄りもいて、わたし、羨ましいの」

 

風子、76歳。

いくつになっても、

なってみないと分からないことってあるものなんだ。

 


しっかりと

2014-11-28 07:39:33 | 時事

安倍総理の発言を聞いていると、

「しっかりと」という言葉が多いなあ。

昨日の演説でも、しっかりと、しっかりと、

何度も「しっかりと」が出てきた。

しっかりと、という言葉は、言葉だけでは意味をなさない。

「しっかり、しっかり」言えば、言うほど空疎に感じるだけである。

 


紅葉

2014-11-27 11:01:50 | 園芸

燃えるように紅いもみじに心うばわれる

春、小さな芽が萌えだし、

やがて青葉、若葉を茂らせ、

今、まさに一葉としての生涯を閉じようとしている。

地に落ちる前、一瞬の華やぎに身を装う色だからこそ、

葉の色は切なくも美しい。


歯科衛生士

2014-11-26 20:04:19 | 健康

月に一度、歯科でお口の中をクリーニングしてもらう。

おかげで、76歳にして、入れ歯はない。

なんでも美味しくものが食べられる幸せを噛みしめている。

 

歯石をとり、ブラッシング指導をしてくれるいつもの歯科衛生士さんに、

ありがとう、あなたのおかげよ、と言った。

すると、にっこり笑った彼女は、

いえいえ、風子さんがおうちで丁寧に歯磨きをなさっているからですよ、

と言ってくれた

 

えらいなあ、見上げたもんだなあ、素晴らしいひとだなあ。

なかなかこうは言えないもんだ。


ネット

2014-11-24 15:20:59 | 家族

  76歳の風子が、

ネット、ネットと、ネの方を強く発音すると、

息子から、

ネットはね、

トの音の方を強く言うんだよと、注意された。

 

そうかなあ、

インターネット、とつなげて言うとき、

ネの方に強音が来ると思うんだけど、

ここで息子とやりあっても必ず負けるので、

へえへえ、ネットですね、と後ろを強く発音することにした。

 

老いては、ネットの発音ひとつままならぬことである。

 


訃報

2014-11-23 11:43:42 | 友情

 

喪中挨拶が届く昨今である。

中学から高校まで一緒に進んだ友人の死を昨日知った。

中学生になったときから、伯母の家の養女になったひとである。

三人姉妹で、真ん中の自分だけがなぜ養女に出されたか、

彼女は悩んだ。

養家の伯母を看とったあとの晩年は、一人で寂しかったはずである。

 

宅配の弁当業者が、異変に気付き、通報して中に入ると

玄関近くで倒れていたという。

服用した薬などの状況から、死亡は前日。

解剖の結果は、心筋梗塞。

治療は受けていなかったが、

心臓への血管がかなり狭くなっていたそうである。

 

喪中挨拶は、養家の兄でなく、実家の妹の名前で届けられた。

妹さんに電話をすると、

一人で死なせて可哀想なことをしたとしきりに悔やまれていたが、

数奇で、孤独な人生を生きた彼女に、

悔やんでくれる肉親がいてよかったと私は嬉しかった。

仲良くしてました、と実妹は言った。

お墓も、実母のいる墓に入り、

いずれ私たちも一緒に入りますと妹さんが言った。


闇のなかの祝祭

2014-11-20 09:53:34 | 読書

 

 吉行淳之介の作品は、

こちらが思うよりも恋愛ものが少ない。

「闇のなかの祝祭」は実生活を材にした恋愛もので

「私の文学放浪」中に、

「この作品を書くために、……中略……わたしの実生活から持ってきたことは

失策だったかもしれない。

しかし、自分の掌で掴んでたしかめた体温の残っている材料に対する未練が、

作家として捨てきれなかった」

と書いている。

女優と家庭のはざまで「死んだらラクになるとしばしば思う」

切羽つまった状況が描かれている。

 

体温の残っている材料だからこそ、胸に響く作品なのだと納得。


わがまま

2014-11-19 17:14:18 | 日記

 

       風子ばあさんのフーフーエッセイのはじまりは、

          ごくシンプルに文字だけだった。

          しかし、風子は俗物である。

     よそのブログを見て、写真が入るとカッコいいなあと憧れた。

    で、風子休載中、もうひとつブログを作ってせっせと写真を入れた。

           これはこれで面白かった。

           コメントを下さる方ともけっこう親しくなった。

           楽しいブログライフであった、が、

         なにせ、ばあさんは、すぐに、くたびれる。

     写真を撮って、それをパソコンに移して、ブログに掲載して、

     コメントのおつきあいをして……、

     何事もほどほどに出来ないたちだから、正直、これに疲れた。

         で、原点の風子ばあさんに舞い戻ってきた。

 

           ぼちぼち、ワガママに綴ろう。

       そうして、失礼だけど、コメントはもうやめよう

 

       年寄りのワガママ、気ママとお赦しいただけると有難い。

 


丸元淑生 「羽ばたき」

2014-11-18 14:27:18 | 読書

 

  丸元淑生といえば、著名な料理研究家として記憶されている方が多いだろう。

    2008年に74歳で亡くなっている。

 

    「丸元淑生のシステム料理学」など著書も多数あり、

      たびたびテレビ出演もしている。

 

    しかし、彼の小説を読んだ人はそう多くはないだろう。

  1978年「秋月へ」と1980年「羽ばたき」で、二度芥川賞候補になっている。

  「羽ばたき」のときは、最終候補として村上春樹の名もあるが、

 結果は該当作なしの佳作として「羽ばたき」が文芸春秋に掲載された。

 選評を見ると、受賞に一番近かったのがこの作品であることを窺わせ、

 もし、このとき受賞していたら、彼のその後の人生も違うものになっていたかもしれない。

 

     昨日、その昭和55年の文芸春秋を押し入れに見つけた。

  彼が作家として残した数少ない作品を惜しんで、古雑誌を大事にしまっていたのだろう。

 

    二人の息子のいる家庭がありながら、別の女性にも娘を産ませ、

    行ったり来たりの果てまでを書いている。

     

  相撲取りになった息子のことはさわやかだが、情人のことは余計という選評が多かったが、

   私はこの男のおかしさも哀しみもよく描けていると読んだ。

   最近の芥川賞作品なんかより、ずっと面白く、引き込まれたのは

     私が古い人間だからかもしれない。

   どうも、このごろの小説には切実さがないような気がしてならない。

 

      耄碌ばあさんは、読むハシから忘れるので、

           備考録のつもりで

     「ばあばの読書録」というブログをべつに設けていたのだが、

       ものぐさばあさんは、それも続かなかった。