わたしには自慢できることは何ひとつないが
ただ、粉薬を呑むのだけは上手だ。
まず、舌のまんなかより少し奥にちらばらないように粉薬をのせる。
それから、舌の両脇をまるめるように、筒状にすぼめてから
水をふくむ。さて、あとは一気に放り込むように喉に流しこんだら
口の中に粉はほぼ残らない。 うまいもんだな~~と自己礼賛するが
人様にお見せできない芸当なのが残念である。
むろん、カプセルも錠剤も上手に呑みこむ。
わたしには自慢できることは何ひとつないが
ただ、粉薬を呑むのだけは上手だ。
まず、舌のまんなかより少し奥にちらばらないように粉薬をのせる。
それから、舌の両脇をまるめるように、筒状にすぼめてから
水をふくむ。さて、あとは一気に放り込むように喉に流しこんだら
口の中に粉はほぼ残らない。 うまいもんだな~~と自己礼賛するが
人様にお見せできない芸当なのが残念である。
むろん、カプセルも錠剤も上手に呑みこむ。
夏の終わりに罹った蕁麻疹の原因が特定できないまま、あまりはかばかしくないので、
セカンドオピニオンで別の医師に診てもらった。
最近健康診断や検査は受けていますかと訊かれたので、
病院がきらいですから、いっさいの検査は受けていませんと答えた。
健診は受けたほうがいいですよ、と言われるので、
もうこの齢ですから何かあってもこのままでいきます、と言うと、
医師はアハハハと声を上げて笑った。
そういうことを言う人に限って、いざとなったら大慌てで大騒ぎするもんです、
といかにもおかしそうに笑った。
言いあてられて面目ないわたしもそうだろうそうだろうと思いながら
アハハハと笑うしかなかった。
蕁麻疹と言えば、青魚でも食べてあたったのだろう、
一日二日で治るものと思ったら大間違い。
思い当たる悪いものを食べたことはない、
医者に訊いても原因は不明という。
あたまからつま先まで発疹が出て、痒いなんてものじゃない。
これが慢性に移行することがあるというので怯える。
肌への刺激、アレルゲンになる食べ物、ほこり、一切気をつけても
薬が切れると発狂しそうになるくらい痒い。第一顔中まっかかで首まで腫れあがっていては
外出もかなわぬ。パーマも掛けられないし染色もできない。一気にオバアサン度がアップする
これで落ち込まぬわけがない。
一寸先は闇、一昨日までは楽しい予定が入っていても、すべてキャンセル。
人生はこうして自分の意志にかかわらず、終わりはいやでも向こうからやってくるんだとしょんぼりである。
緑のレースのようなアジアンタム。
寝苦しい夜が続く。
わたしの暑さ対策は、
100円ショップで買った大きめの保冷材(文庫本より少し大きい)を凍らせ
タオルで巻き、直接では冷たすぎるので、首の近くに置いて寝る。
たまにナデナデしながらいつの間にか眠る。朝まで冷たい。
写真下の保冷材も100均で。
ケーキなどのときについてくるのは小さいから、長いのを100円奮発した。
出かけるとき、これを大判のハンカチで包み、首に巻く。
むろん、バッグには凍らせたペットボトルは欠かさない。
86歳になる知人を見舞った。
一人暮らしの彼女は脚が悪い。
ヘルパーさんに来てもらったり
デイサービスへ行ったりして暮らしている。
今日、その彼女が、皺がふえたことを嘆き、
ほら、こんなよ、と腕を差し出した。
なるほど、フムフムと頷くしかない。
「私ね、お尻も、皺だらけなの」
と彼女は言う。
「ふうん、でも、その齢になれば、お尻なんか人に見せることないからいいんじゃないの」
と風子。
「そうでもないの、デイサービスでみんなと一緒にお風呂に入るから。
顔に皺があってもお尻のつるんつるんに綺麗な年寄りもいて、わたし、羨ましいの」
風子、76歳。
いくつになっても、
なってみないと分からないことってあるものなんだ。
月に一度、歯科でお口の中をクリーニングしてもらう。
おかげで、76歳にして、入れ歯はない。
なんでも美味しくものが食べられる幸せを噛みしめている。
歯石をとり、ブラッシング指導をしてくれるいつもの歯科衛生士さんに、
ありがとう、あなたのおかげよ、と言った。
すると、にっこり笑った彼女は、
いえいえ、風子さんがおうちで丁寧に歯磨きをなさっているからですよ、
と言ってくれた
えらいなあ、見上げたもんだなあ、素晴らしいひとだなあ。
なかなかこうは言えないもんだ。
過日、皮膚科受診のおり塗り薬をもらった。
先生が「背中にこれを塗ってくれる人はいますか」
と言うので、はい、いますと答えたが、
いないと言ったら、
どんな解決法があったのだろうかと
ずっと気になっていた。
昨日、あれ以来の皮膚科へ行った。
あのう~~と切り出した。
「背中の塗り薬がなかなかうまく塗れなくてえ~」と言ってみた。
「ああそうですか」
と先生はにっこりした。
?? どんな答えが用意されているかなあ、とちょっとわくわくした。
「では、塗り薬でなく痒みどめの飲み薬をあげましょう」
な~んだ、そういうことか、と納得した。
しかし、これをお断りするのにちょっと困った。
ええと、ええと~~と
「ああ、そうですか、飲み薬はいやなのね」
「はい」
どこまでも物分かりのいい先生で助かった。
背中がかゆいのでクリニックで塗り薬を処方してもらった。
医師が、おうちでこれを塗ってくれる人がいますかと訊ねるので、
とっさにジイサンの顔を思い泛べて、
ええ、まあと言った。
返事があいまいだったものか、
誰か塗ってくれますね、と念を押された。
ジイサンの背中にサロンパスを貼ってやることだってあるから
まあ塗らんこともあるまいと、ハイと答えた。
帰りのバスの中で考えた。
いいえ、と言ったら、先生は何と答えたのだろうか。
そう言えば通販で「背中ぬりぬりぺったんこ」という道具を売っていたっけ。
一人暮らしの老人が多い昨今、
何か先生に名案があったのだろうか。
いませんと言ってみればよかった。
ああ、おしかったなあと思うが、
いまさら塗ってもらえません……とも言えないし、
残念だったなあ。
友だちのお母さんは、もうすぐ100歳になる。
有料老人ホームに入居したころから、
友だちがお母さんのお金の管理をしている。
「年金だけでは足りないけど、多少の貯えを崩していけば、
十年くらいはもつと思うのよ」
あれから十数年、いや、そろそろ二十年近くが経とうとしている。
「そろそろ預金が底をつくけど、まだまだ元気なのよ」
親の長生きを喜ばぬ娘はいないが、複雑である。
こちらも返事に困る。
信じがたいことに、お母さんの歯は至極丈夫そうだが、
奥歯が一本、ぐらぐらしてきたそうである。
ホームの主任は、家族が歯科へ連れていけというらしい。
「ほっとけば抜けるのと違う?」
「風子さんは呑気でいいねえ」
人質同然だから、ホーム側に言われれば、
家族はハイハイと連れていかねばならないのだという。
近くの歯科へ連れていったら、高齢だから何があるかわからない、
うちでは抜歯できないので、大学病院へ連れていけと言われたそうである。
「もう入れ歯はいらないでしょう、紹介状を書きます」
卒倒でもして訴えられたりするのを恐れ、年寄りを診たくないのだろう。
入れ歯の儲けもないもんねえ。
子供のお口の方が可愛いしねえ。
大学病院となると一時間も二時間も待たされる。
100歳の老人が、抜歯一本でばかばかしい話だがこれが現実のようである。
超高齢化社会で、「死ぬまで生きる」のはなかなか難しい。