くしゃみを二回した。
ぎっくりしたので、レントゲンを撮ってもらったら肋骨を骨折していた。
トホホ……である。
骨粗鬆症恐るべしである。
風子ばあさんは骨粗鬆症である。
七十歳のとき 一度目の圧迫骨折をした。
三ヵ月ほど安静にしていたが、半年後には体操教室もギターも同人会も、旅行も復帰できた。
背中も曲がらなかったねえ、と親友が背中をなでなでしてくれた。
十年経って八十一歳のときに二度めの骨折をした。
腰椎を一度に二カ所圧迫骨折していた。
三ヵ月入院して一か月後に再び二カ所骨折して再入院した。
このときは時間がかかったが、でも半年後には近くのショッピングモールまでひとりで買い物に行けるようになり、
バスに乗って天神も行けたし、句会入会も果たした。
骨折では寝たきりにはならないもんだと楽観していたら、
86歳になった今年一月、今度は破裂骨折というちょっと厄介な骨折をしてしまった。
その入院中に、圧迫骨折も併発してさすがに落ち込んだ。
三ヵ月して退院してまもなく、なんとまたまた自宅でなにもしていないのに骨折、救急車のお世話になった。
入院して調べたら別の箇所にも骨折があった。
痛くて身動きできず、鎮痛剤を飲んで蹲って嘆いた。
なんとこの半年で三回、六ケ所の骨折である。半年ほぼ寝たきりでいたら
退院しても足腰の筋肉が衰えて愕然とするほど弱った。
体重も半年で10キロ痩せてすっかり老婆となってしまった。
目下、トイレと食事のときに起きるだけで、外出などとてもかなわぬ。
………というわけで、パソコンの前にも久しぶりにすわった。
愚痴を書いてすみません。でもなんとかここからもう一度頑張るつもりです。
わたしには自慢できることは何ひとつないが
ただ、粉薬を呑むのだけは上手だ。
まず、舌のまんなかより少し奥にちらばらないように粉薬をのせる。
それから、舌の両脇をまるめるように、筒状にすぼめてから
水をふくむ。さて、あとは一気に放り込むように喉に流しこんだら
口の中に粉はほぼ残らない。 うまいもんだな~~と自己礼賛するが
人様にお見せできない芸当なのが残念である。
むろん、カプセルも錠剤も上手に呑みこむ。
夏の終わりに罹った蕁麻疹の原因が特定できないまま、あまりはかばかしくないので、
セカンドオピニオンで別の医師に診てもらった。
最近健康診断や検査は受けていますかと訊かれたので、
病院がきらいですから、いっさいの検査は受けていませんと答えた。
健診は受けたほうがいいですよ、と言われるので、
もうこの齢ですから何かあってもこのままでいきます、と言うと、
医師はアハハハと声を上げて笑った。
そういうことを言う人に限って、いざとなったら大慌てで大騒ぎするもんです、
といかにもおかしそうに笑った。
言いあてられて面目ないわたしもそうだろうそうだろうと思いながら
アハハハと笑うしかなかった。
蕁麻疹と言えば、青魚でも食べてあたったのだろう、
一日二日で治るものと思ったら大間違い。
思い当たる悪いものを食べたことはない、
医者に訊いても原因は不明という。
あたまからつま先まで発疹が出て、痒いなんてものじゃない。
これが慢性に移行することがあるというので怯える。
肌への刺激、アレルゲンになる食べ物、ほこり、一切気をつけても
薬が切れると発狂しそうになるくらい痒い。第一顔中まっかかで首まで腫れあがっていては
外出もかなわぬ。パーマも掛けられないし染色もできない。一気にオバアサン度がアップする
これで落ち込まぬわけがない。
一寸先は闇、一昨日までは楽しい予定が入っていても、すべてキャンセル。
人生はこうして自分の意志にかかわらず、終わりはいやでも向こうからやってくるんだとしょんぼりである。
緑のレースのようなアジアンタム。
寝苦しい夜が続く。
わたしの暑さ対策は、
100円ショップで買った大きめの保冷材(文庫本より少し大きい)を凍らせ
タオルで巻き、直接では冷たすぎるので、首の近くに置いて寝る。
たまにナデナデしながらいつの間にか眠る。朝まで冷たい。
写真下の保冷材も100均で。
ケーキなどのときについてくるのは小さいから、長いのを100円奮発した。
出かけるとき、これを大判のハンカチで包み、首に巻く。
むろん、バッグには凍らせたペットボトルは欠かさない。
86歳になる知人を見舞った。
一人暮らしの彼女は脚が悪い。
ヘルパーさんに来てもらったり
デイサービスへ行ったりして暮らしている。
今日、その彼女が、皺がふえたことを嘆き、
ほら、こんなよ、と腕を差し出した。
なるほど、フムフムと頷くしかない。
「私ね、お尻も、皺だらけなの」
と彼女は言う。
「ふうん、でも、その齢になれば、お尻なんか人に見せることないからいいんじゃないの」
と風子。
「そうでもないの、デイサービスでみんなと一緒にお風呂に入るから。
顔に皺があってもお尻のつるんつるんに綺麗な年寄りもいて、わたし、羨ましいの」
風子、76歳。
いくつになっても、
なってみないと分からないことってあるものなんだ。
月に一度、歯科でお口の中をクリーニングしてもらう。
おかげで、76歳にして、入れ歯はない。
なんでも美味しくものが食べられる幸せを噛みしめている。
歯石をとり、ブラッシング指導をしてくれるいつもの歯科衛生士さんに、
ありがとう、あなたのおかげよ、と言った。
すると、にっこり笑った彼女は、
いえいえ、風子さんがおうちで丁寧に歯磨きをなさっているからですよ、
と言ってくれた
えらいなあ、見上げたもんだなあ、素晴らしいひとだなあ。
なかなかこうは言えないもんだ。
過日、皮膚科受診のおり塗り薬をもらった。
先生が「背中にこれを塗ってくれる人はいますか」
と言うので、はい、いますと答えたが、
いないと言ったら、
どんな解決法があったのだろうかと
ずっと気になっていた。
昨日、あれ以来の皮膚科へ行った。
あのう~~と切り出した。
「背中の塗り薬がなかなかうまく塗れなくてえ~」と言ってみた。
「ああそうですか」
と先生はにっこりした。
?? どんな答えが用意されているかなあ、とちょっとわくわくした。
「では、塗り薬でなく痒みどめの飲み薬をあげましょう」
な~んだ、そういうことか、と納得した。
しかし、これをお断りするのにちょっと困った。
ええと、ええと~~と
「ああ、そうですか、飲み薬はいやなのね」
「はい」
どこまでも物分かりのいい先生で助かった。
背中がかゆいのでクリニックで塗り薬を処方してもらった。
医師が、おうちでこれを塗ってくれる人がいますかと訊ねるので、
とっさにジイサンの顔を思い泛べて、
ええ、まあと言った。
返事があいまいだったものか、
誰か塗ってくれますね、と念を押された。
ジイサンの背中にサロンパスを貼ってやることだってあるから
まあ塗らんこともあるまいと、ハイと答えた。
帰りのバスの中で考えた。
いいえ、と言ったら、先生は何と答えたのだろうか。
そう言えば通販で「背中ぬりぬりぺったんこ」という道具を売っていたっけ。
一人暮らしの老人が多い昨今、
何か先生に名案があったのだろうか。
いませんと言ってみればよかった。
ああ、おしかったなあと思うが、
いまさら塗ってもらえません……とも言えないし、
残念だったなあ。