風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

畳屋さん

2019-09-22 11:04:34 | 仕事

 畳を入れ替えることにした。

ごくふつうの畳だから、えいやっと取り替えたらそれでいいのかと思っていたら、

畳屋さんは、なんと隅から隅まで計測をはじめた。

 写真が、その計測器。赤い線は糸からと思ったらレーザー光線。

 20年前、彼が親父譲りの手作業で糸で計測していたら、

同業者はすでに、みなこのレザーを使っていて、びっくり。

 すぐにこちらを導入したそうである。

 へえ、それはそれは……、好奇心丸出しで、写真を撮らせてもらった。

          


働き者

2012-03-07 11:22:10 | 仕事
       三つ違いの妹のビンちゃんは働き者である。
         子供が小さかった頃の、春休み、夏休みなどは、
          昼ごはんの支度までしてから働きに出ていた。

     五十になる前に夫を亡くしているから、働かざるを得ない事情もあったが、
    ビンちゃんの働き好きはそれ以前からで、じっとしているのが嫌いなのである。

        経理、簿記が堪能で、字もうまいから、どこへ行っても重宝されて、
           去年七十歳になるまで働いた。

    さすがに今は、職を求めても事務職がなくて、リネンの仕事ならあると言われた。
         リネンって、洗濯よねえ、私は事務が好きなのよ、
        と言ってこの半年ばかりはプール通いなどをしていた。

           昨日、電話があった。
       テレビでアフリカの飢餓の子供たちの映像を見たのよ、
       あの子たちは、百円二百円のお金で餓えがしのげるのに、
        わたし、こうして一日テレビばかり見て暮らしてて、
         なんてもったいないんだろうかって思うの。
 
      リネンでもなんでも働いて、五万でも六万でも送って上げられたらって、
              今考えてたのよ。

              ビンちゃんは偉いなあ。

     だけど、ビンちゃんは糖尿病とバセドー氏病と高血圧と腰痛持ちである。
          
        もう充分働いてきたじゃないの……と言ってやったが、
   ひょっとしたら今日あたり、またハローワークまでバイクを走らせているかもしれない。

へそくり

2011-06-15 23:27:16 | 仕事
  ささやかなへそくりの件で、銀行へ行った。
  
  窓口の担当者から、
 「満期のきましたお金は、どのような使途ご予定でしょうか」
  と訊ねられた。

  大きなお世話と思ったが、正直に、
 「まあ、老後の病気に備えてでしょうか……」
   と答えた。

 「お子様へお遺しになられるとかのお考えは?」
 「ない、ない……、それはない、つかってしまいます」

 「みなさん、たいがい、そうおっしゃいます」

   へえっ と意外だった。

  みんな優しいお父さんお母さんに見えるけど、
  やっぱり我が身が一番可愛いのか。

 「でも、お客様、死ぬまでが、いつになるか、こればかりは誰にもわかりません。
   ですから、おっしゃるわりには、みなさん、かなりの金額をお遺しになってお亡くなりになります」

  で、つまり、利息がよいので、死ぬまで払い出せない保険に加入せよとのお勧めらしかった。

  生きてるうちが花なのよ……と言って失礼してきた。


アシスタント その二

2011-05-23 14:31:23 | 仕事
 
   昨日の続き、美容院のアシスタントのことである。

  「放射能って、こわいんですかァ~」
  「嘘ッオ~」
  「福井と福島、どっちに原発あるんですかァ?」

   たまりかねた風子ばあさんは寝たふりをした。

   そのせいかどうか、しばらくしたら、
  心きいたふうのアシスタントが代わりにやってきた。

   余計なことは言わず、
  ケープをかけるのも、液を塗るのもてきぱきと手ぎわよい。
   やれやれ……。

  やがて、シャンプー台に案内されることになった。
 立ち上がろうとした風子ばあさんに、彼女は、言った。

 「おトイレは大丈夫ですか?」

  むむむ! 
 それって、若い客には言わないセリフだよね。

  まだ、もらしたりしないからご心配なく、
  行きたいときは勝手に行くわ、と思ったが、
 「ありがとう、大丈夫よ」
  と、しおらしく答えたのだから、齢をとるのは哀しい。

  心きくのも、きかぬのも、過ぎたるは及ばざるごとし。

アシスタント

2011-05-22 11:08:45 | 仕事
  このごろの美容院では、
 トップスタイリスト、スタイリスト、アシスタント、などと、中々に気どった呼び方をする。
 
  これに店長がいて、
 「ご指名は?」
 などということになる。

  今日、その、アシスタントが、風子ばあさんの髪を乾かしながら、
 「私、彼氏いないんですよォ」
  などと言う。

 「ふうん、まだ若いんだから、これからでしょ」
  こうでも言うしかない。

 「でもォ~、友だちにはみんないるんですョオ~」
 「ふうん」
  風子ばあさんは、邪魔されずに週刊誌を読みたい。

  そのうち、
 「あのォ、原発とォ、活断層とォ、違うんですかァ?」
  ときた。
 「違うに決まってるでしょ、話にならん!」

 話にならん! と言われても、彼女は、それが叱られているとは思わない。
 「えっ、ほんとですかァ、嘘ッォ~」
 
 ねえ、ねえ、その「嘘ッオ~」と言う喋り方やめたら、彼氏できるかもよ、
 と言ってやろうかと思ったが、無駄なような気がしてやめた。
  
 彼女は彼女なりに、客を退屈させぬようにと会話を心がけているのかもしれない。
  どちらも、ご苦労さまです。

お役所

2011-05-19 11:01:47 | 仕事
 
 昔から、融通のきかない仕事のことをお役所仕事という。

 市役所から届いた「介護予防の基本チェックリスト」を見ながら、
 つくづくお役所仕事だなあと思う。

 このリストを発送、返送受付、集計、結果による対応にどれだけの予算が費やされるのかとあきれる。

 認知症、老人性鬱病を未然に防ごう、
 あるいは、軽微なうちに何らかの手助けをしようという主旨だろうとは察しがつく。

 しかし、この結果から、本人、あるいは家族に連絡して、
 公民館や保健所に呼んで、講習会や相談会をしたとして、どれほどの効果があるだろうか。

 老後の健康は、それまでの生活の結果の自己責任。

 まったく無駄とまでは言わぬが、予算に見合った効果など上がるはずもない。

 そんな暇があるなら、まだ問題の山積している東北へ応援に行きなさい!


プロ 医師

2011-05-11 12:50:29 | 仕事

 目下のところまずまず健康である。

 かかりつけの医師のところには、ごくたまに、消化薬を貰ったり、血圧を測ってもらいに行く。

「どうですか?」
「おかげさまで、なんともないんですが、たまには先生の顔を拝見したくて」

 風子ばあさんは正直者だから、具合が悪くないのに、悪いとは言えない。
「せっかくそこまで来たんで、ついでに消化薬でも頂いていこうかと思いまして」

 先生は、とたんに嫌な顔をなさる。

あわてて、
「いえ、ちょっと食べ過ぎて胃がもたれるんです」
などと言い訳を言う。

 先日、珍しく風邪をひいた。 鼻水が出て喉が痛んだ。
しょぼくれた顔で先生の前に座ったら、
「口をあ~んして……」

先生はひどく機嫌がよくて、
「あ、腫れてる腫れてる……」
 と、やけに嬉しそうだった。

 もっと重症なら、もっと嬉しそうな顔をするのかもしれない、
それがプロというものかもしれないと、ちょっとひがんで帰ってきた。

プロ 看護師

2011-05-10 17:01:31 | 仕事
 これはある若い男性から聞いた話である。

事故に遭い、病院に担ぎ込まれた彼は、さっそくレントゲン室に運び込まれた。


 全身のレントゲンを撮りますので、全部脱いで、そこに横になってお待ちくださいと、指示したのは女性の看護師であった。
彼は格別なんとも思わず、全部、というから全部、一糸まとわぬ裸体でそこに横たわった。

 よろしいですかぁ、とドアを開けたとたん、看護師は、キャっと叫んだそうである。

 パンツとシャツは脱がないでもよかったのにぃ~という。

 キャッという声を聞くまではどうもなかったんですがね、あれを聞いたとたんに恥ずかしくて困りました……。

 それは、看護師が悪い!
 プロなら、平然として、見下ろしてやればよかったのである。