風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

ご一緒しましょ

2019-10-31 14:41:36 | ほのぼの

  ちょっと待ち時間ができて、喫茶ルームに入った。

 店内は込み合っていて、6人がけのテーブルに先客の男性がひとりいた。

 「お邪魔します」と声をかけると、彼はにっこりと微笑み、

 「どうぞ、ご一緒しましょう」と言ってくれた。いいなあ、ご一緒しましょうって、

 いつか私も言ってみよっと。

         

                  


おばあさん

2018-10-12 14:03:44 | ほのぼの

 長いつきあいの自転車屋さんへ古い自転車の点検をしてもらいに行った。

油を差して、空気を入れてもらったのに、料金は不要と言う。

気持だからと500円玉を差し出した。

 店主とはもう50年近い付き合いである。

いらんいらん、と言うのを、おばあさんの縁起ものだから……と言ったら、

ようやくにっこりして受け取ってくれた。

この手があったんだ。おばあさんになるのも悪くない。

        

    今夜はハロウインのカボチャの顔が少しはっきり撮れました。

      

     

 


お節介

2012-05-16 17:27:03 | ほのぼの

         自転車で走っていたら、すぐ横を車が通り過ぎた。
              見るともなく見ると、
      後ろのドアの下から、なにか黄色い尻尾のようなものが長々と飛び出している。

      地面すれすれにその細長い物体をひきずりながら、車は走り去ったが、
         その先の信号停車で風子ばあさんの自転車が追いついた。


         どう見てもあるべきところにある物体とは思えないので、
            信号待ちの車のドアを叩いて知らせた。

           運転席の若い兄ちゃんは、ナンダヨ! という顔で、
                じろりとばあさんを見た。
 
        お節介だったかなあ、知らん顔すればよかったかなと、一瞬、悔いた。

      しぶしぶというふうに下りてきた兄ちゃんは、黄色の尻尾を見たとたん、
          アハハハ、大事なタクワン! とドアを開けて、救出。

     アリガト スミマセン と笑顔でタクワンを抱えて、運転席に戻っていった。

           しかし、なんだろうねえ、あの兄ちゃん。
            居酒屋かなんかの仕入れだったかなあ。
            よほど急いで買い物をしたのかしら。

             まずはタクワンが無事でよかった。
             兄ちゃんが笑ってくれてよかった。
             やっぱりお節介をしてよかった。

兄弟

2011-09-03 10:07:40 | ほのぼの
   親の代からの自転車屋の兄弟を、
  風子ばあさんは学生のころから知っている。
  卒業してすぐに、二人とも親と一緒に店で働いた。

   あれから40年、
  すでに親父さんは亡くなっているが、
  跡を継いだ二人は今も仲良く店にいる。

   穏やかな兄弟で、ほんとに仲が良い。
  しかし、ずうっと一緒にいて揉め事ってないのかしらんと
  下衆な風子ばあさんは勘ぐる。

  「ねえ、あなた達、正直に教えて。喧嘩することってないの?」
お客さんのいないときは結構やりあいますよ、とでも言うかと思ったら、
  「ないですねえ」
  ふたりとも即座に笑顔を見せる。

  「ほんとかなあ」
  風子ばあさんは疑り深い。
 
  「いや、ほんとですよ。なあ?」
  兄貴が弟を見る。

  「ええ、小さいころから、一度も喧嘩ってしたことがないんですよ。
   齢が離れているからでしょうかねえ」と弟。

  「いやあ、争うほどの財産がないからですよ」と兄貴。

   ほんとに爽やかだなあ。
  それに、二人ともすご~くハンサム、今風にいえばイケメンなのだ。
  売った自転車には、とにかく誠心誠意責任を持ってくれるし、おすすめ!

方言

2010-08-14 12:53:50 | ほのぼの
 あらっ、おっちゃけた!
バスの中でうとうとしかけていた私は、その声ではっと目が覚めた。 

 前の座席の女性が、座席の下に何かを落としたらしい
周囲の何人かがクスクスと笑った。

 くだんの彼女は、屈みこんで拾い上げたあと、何事もなかったように前を向いている。
周囲の忍び笑いは聞こえただろうから、しまった、と自分のひとり言を悔いているかもしれない。

 それにしても、方言とはなんと和やかな笑いを誘うものだろう。「あら、落ちた」 なら、誰も笑いはしなかったかもしれない。

 私は関東の出身である。縁があって九州に住みついた。
長男の小学校入学式の日、教室で担任の挨拶があった。

 親になってはじめてのことで、子供よりもこちらが、緊張もしていたし、張り切ってもいた。

 どんな教育方針が述べられたのか肝心のことは記憶にない。
ただ、「オシッコをしかぶったら」と言われたそのシカブル、という方言は覚えている。
当時はこちらが、まだ若くて気負っていた。
 先生ともあろう人が、こんな日に、方言丸出しでと、がっかりした。

 年寄りになった今は、方言を親しく微笑ましいものに思う。
「なんで方言が悪かとね、よかろうが」
すっかり九州弁がうまくなったと自分では思っているが、さて、他人にはどう聞こえているのだろうか。
 さぞ、いい加減な出自不明の九州弁を喋っているのだろうが、 ま、よかじゃなかですか。


美容師

2010-07-31 20:36:39 | ほのぼの
 風子ばあさんには、思いこんだら命がけの、いちずなところがある。
美容院でも、あちらの都合が変わらない限り、こちらから行かなくなることはない。
五年でも十年でも、同じ美容師さんにお世話になる。
 しかし、あちらが何かの都合で引っ越したりすると、新しい店を開拓しないといけなくなる。
 
 そうなると、結構うるさいばあさんになる。
だいたい、一度や二度でこちらの好みが伝わるはずがない。
だから、はじめは気にいらないのが当たり前である、というのがばあさんの持論である。
 この人、と決めたら、気にいるまで根気よく、こちらの希望を伝えればよいのである。
 はじめは、うるさいばあさんだなあ、と思われても、そうやって、だんだん、「あなた」でないと駄目になる。

 そうして、うちとけた彼が、この春、店長になりました、と嬉しそうに言った。ほう、よかったねえ、頑張りなさい、と風子ばあさんは、わが子が出世したように嬉しいのである。

 付け加えると、彼は中々のイケメンである。

挨拶

2010-07-28 17:22:09 | ほのぼの
近所の顔見知りに出会った。
それほど親しい相手ではない。
お久しぶり……、と決まり文句を口にした。

こちらと同年輩の相手は、
「賢そうでなにより」と思いがけない挨拶を返してきた。
お元気そうでなにより、というのはよく使うが、賢そうで、という挨拶は初めてである。
え! っと一瞬つまった。すぐに彼女の言葉続いた。
「このごろ、物忘れはするし、判断力は衰えるし」
と自分の頭脳の衰えを訴えはじめた。
 それで、なんとなく、さきほどの「賢そうで……」に納得がいった。別に、本気でこちらを賢いとみているわけではないのだ。
お互いに齢をとったけど、あなたはまだ正常なようね、というくらいのことらしい。

 思えば、挨拶言葉というのは変なのが沢山ある。
お暑いですね、お寒いですねと、かんかん照りや空っ風の日にわざわざ言わないでも分かり切ったことである。
 あら、お出かけですか……、などというのも、お節介きわまりない。
お元気そうでだって、見た目でどうしてわかるか! ってもんだ。
 しかし、雨のあと、よいお湿りで……などというのは、なかなかおつなものである。
お天気はおよそ農耕民族だったころのみんなの関心事だったはずである。
 そうしてみると、このごろ年寄りが増えたのだから、「お賢そうで……」などというのも、案外おかしくない挨拶ということになるのかもしれない。

よかった

2010-07-26 16:06:26 | ほのぼの
  よかった
  微笑んでいてよかった
  黙っていてよかった
  悪口を言わないでよかった
  優しくしてよかった

 今日、無名の詩人のこのうたを、ジョイントコンサートの合唱で聴いた。
しみじみと歌い上げて良い歌だった。
 ウイーンの曲集や、ジョンラターのレクイエムなど美しいコーラスのあとのアンコール曲である。
 指揮者の荒谷俊治氏は、ヨーロッパではレクイエムのあとにアンコールはありえませんがと断った上で、この「よかった」に指揮棒を振った。

 小説書きは真も書くが、嘘も書く。微笑んでばかりもいられないのである。批判精神もないと進歩もないのである。

風子ばあさんは、目下、従順な初老の妻を書いて苦戦しているのである。

いまどきの若者

2010-07-11 17:32:40 | ほのぼの
 三丁目で下りるところを、乗り過ごしてしまった。
 義姉の入院している病院へは、何度か来ているが、下りたバス停が違うので、ちょっと迷った。
 通りかかった、旅行用のカートを引いた若い女性に道を尋ねた。
 立ち止まって、ちょっと、考える顔をした彼女は、ついて来てください、と歩きはじめた。
 ご旅行でしたか? と訊くと、ええ、壱岐まで行ってきました、という。何か美味しいものがありましたか……、あ、雲丹とかサザエですね、という会話があった。
 道を曲がったところで、彼女は携帯電話を取り出した。
 それまで機嫌よく喋っていた彼女は、急に黙ってしまい、歩きながら、一心に携帯の画面を眺めた。
 メールかあ、と思った。ま、いまどきの若者だものね、それに、こちらは、連れというわけではないから、彼女が、会話を中断してメールをしたって、咎める筋じゃないものね、とひたすら彼女の後ろを歩いた。
 また、角を曲がった。
 あ、ありました、あれです、と彼女は携帯から目をあげて、目的の病院を指さした。
 彼女は、たまたま道を尋ねたばあさんに、親切に、携帯で検索しながら病院まで案内をしてくれたのである。
 ありがとう、そして、どうもすみませんでした。