風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

トリオ・ロス・ファンタンゴス

2012-04-28 21:25:25 | ギター、映画など他
       風子ばあさんは、コンサートや観劇のタダ券はあまり有難がらずに、
          丁重にお断りすることが多い。

       聴きたい、観たいものは自分のふところを痛めてでも見るが、
         そうでないものは、時間がもったいないからである。

           しかし、断りにくいこともある。

    「トリオ・ロス・ファンタンゴス」のコンサートは後者の例である。
      チケットをもらったが、なにしろ、ばあさんは忙しい身である。
       ま、近くまで行くから、ちょっと覗いてみるかと立ち寄った。

        プログラムを見て、のけぞった。 なんと合計24曲。
       まいったなあ、長いなあ、途中で帰るかなあと、しぶしぶ座った。

           ところが、違った!
     三人の演奏はカッコよくて楽しいし、ヴァイオリンの谷本さんのトークは絶品だし、
         風子ばあさんは、もう拍手、拍手、ノリにノッた。

 演奏者は自分が知っているから、聴衆も知ったものと思ってコンサートがすすむことがある。
        こちらも知ったかぶってわかったように聴いているが、
           途中で今どの曲だっけ……ということもある。
 
           トリオ・ロス・ファンタンゴスは違う。
        「夜明け」の牛が鳴きますよう……モウーウー。
     今度は鳥が鳴きますよう……キューンン、と、ヴァイオリンを奏でる。
   まるで、ここ拍手拍手、と言われているようで、それがまた楽しくもおかしいのである。

        廻らない舞台を、廻り舞台に見立てた演奏も拍手喝采だったし、
    コンチネンタルタンゴとアルゼンチンタンゴの違いを身体で表現したのも見事だった。

         全曲譜面なしで、だから、演奏者どうしが笑顔を交わしあい、
            聴衆と一体になっての演奏が可能だったのだろう。

             いやあ、お見それしました!
             トリオ・ロス・ファンタンゴス!

             むろん、帰りにはCDを買いました。
             次回は、自腹を切ってチケットを買います。
             クミちゃんとカナちゃんも誘います。

             

チラシ

2012-04-27 14:04:06 | 日記
        散歩をしていたら、ポストに×印の紙を張った家があった。
         チラシお断り、新聞だけ入れてくださいと書いてある。
 
        資源ごみを憂うるあまりか、単に邪魔なだけなのか、
            まあ、分からぬでもない。
       上質紙のマンションの広告など、ちらと見るだけで捨てるのだから、
             たしかにもったいない。

        しかし、風子ばあさんは、チラシを見るのが好きである。

        軽井沢まで飛行機デラックスホテル泊で3万円というのと、
        倉敷まで新幹線で日帰り4万5千円という旅行社のチラシ。
  ふうん……と首を傾げながら、新緑の軽井沢と白壁の美観地区の倉敷に思いをはせる。

        親の介護と対策、いくらかかるの? 失敗しない老人ホームの選び方、
         というセミナーのチラシもあり、ちょっと身につまされる。

               葬儀社のチラシには、
       生前会員になるとランチ会やら温泉旅行に連れて行ってくれるとある。
          英会話からダンスまでたくさんのサークルもあるらしい。
「お葬儀に関する実演」というご案内もあり、実演たってねえ……とさすがに心おだやかでない。

      たかがチラシ、されどチラシ。老人にはこれが結構な暇つぶしになるのである。

可愛い

2012-04-21 12:14:24 | 日記
        昔サークルで一緒だった男性が、たまに電話をしてくる。
         これが、なかなか意地悪でいやなジイサンなのである。
 
             どう意地悪かというと、
          禿げた仲間が帽子をかぶっていると、
       ××さん、室内では帽子を脱いだ方がいいよ、などというのだ。

        風子にメデタイことがあったとき、祝杯をあげようと誘ったくせに、
             勘定のときになったら消えていて、
          出たところで、ご馳走さん、と言ったりするのだ。

          何度腹をたて、ケチ、意地悪……と言ったかしれない。

          すると、カッカッカッカと笑ってごまかすのだが、
        実をいえば風子はこのジイサンがそれほど嫌いではないのだ。

           昨日、また電話があった。

        俺ねえ、グランドゴルフでねえ、1等賞になったのよぉ!
           そんなことを自慢して電話してくるのだ。

      「グランドゴルフはねえ、楽しいよう、若い女性も来てるしねえ」
      「へえ、若いって、いくつくらい?」
      「72歳、可愛いんだ」
      「! ?」
      「だって、俺、もう88歳だよ」
      「そっかあ」
      「でもね、俺、九州で一番可愛いのは風子さんって思ってるけどね」

      世界一とか日本一とか言わずに九州一というところが泣かせる。
          こういうことを言ってくれるから、
      風子はこのジイサンがマンザラ嫌いではないのである。

世帯主

2012-04-19 20:16:15 | 日記
        古くなったガス警報器の交換に瓦斯会社の人が来た。

    交換はすぐにすみ、では、ここに署名してくださいと用紙が差し出された。

       はいはい、ここですね、と世帯主のところに夫の名前を書いた。
        終わりましたという承認の欄に、同じく夫の名前を書いたら、
          ここは奥さんの名前…と注意された。

          へえ、厳密なんですね、と風子の名前を書いた。
        さらに、ここには「妻」と書いて下さい……と念をおされた。

       ふうん、昔は、なにごともこんなに厳密でなかったねえ、と言ったら、
            昔っていつのことですか? と訊かれた。

           昔はね、手紙の差出人なんかも夫の名前を書いて、
       横に「内」って書くと妻のことだったのよ……、なんて、もう時代劇みたい。

              ガス会社の若い社員は、
     このバアサン、なに言ってンだか……というような顔をして帰っていった。

お神輿

2012-04-18 20:45:14 | 日記
          お神輿を担ぐ人数がそろわないので、
       台車をつけて転がすことにしたという地域のことを新聞で見た。

       40人かかりだったお神輿が、台車だと6人で動くそうである。

        国民の総人口が減少し、老人ばかりの世の中になったのだから、
   仕方ないなあ、台車とは知恵を絞ったものだなあ、と感心しながら、でも、と思う。

       神輿をかつぐ……ということばがある。
           他人をおだてあげることである。
       神輿を上げる……は、腰を上げて立つことであり、
       神輿を据える……は、尻を据えて動かないことである。


    お神輿が台車で動くようになると、これらのたとえはどうなるのかなあ。

          今日はスーちゃんちへ遊びに行った。
         居心地がよくて、なかなかお神輿が上がらなかった。
 
     

関心

2012-04-13 11:18:03 | 日記
        人はそれぞれに関心やこだわりのありどころが違う。

         風子ばあさんに限っていえば、新聞や本を読んでいて、
            誤字や脱字がかなり気になる方である。
         別に一字くらい違っても意味は通じる、と言う人もいる。

         一度着た衣類は洗わずには箪笥にしまえないというのも、
            風子のかたよった清潔感かもしれない。
      肌着ならいざ知らず、上衣やコートはその都度洗濯するわけではないから、
      シーズン中、箪笥に収納出来ずに鴨居にぶら下がっている。
        その方がよほどだらしない……と思う人が多いだろう。

        自分が運転をしないとは言え、いっこうに無頓着なのが車である。
       我が家の車が、どこのメーカーのなんという車か、何度聞いても覚えない。

          うちのじいさんが車を買い換えたとき、車庫にあるのに、
            一週間ばかり気がつかなかったほどである。
        
             じいさんの車でショッピングに行き、
          ここで待っているからと言われて店内で買い物を済ませた。

          さすがに色だけは覚えていて、グレーの車、あった、
             と助手席のドアを開けて、座った。
     
         おっ! と声を上げたのは運転席にいた見知らぬ男性だった。
 
            間違えてドアを開ける人はいるかもしれないが、
             着席までしてしまう人間も珍しかったことだろう。
 
     これは、関心のありどころというより、ただそそっかしいだけの話ではあった。
 

失礼しました

2012-04-11 16:20:00 | 日記
         メル友じいさんのパソコン作業を手伝ったら、
      風子さんは甘いものが好きなようだからと、饅頭を送ってくれた。

            お礼を言うべく電話をしたら、
        車の運転中だから、30分後にかけてくれ、とのこと。
 
        ははん、外出中だったかと、30分後、今度は自宅に電話をかけた。
  
          「はい、××でございます」
        思いがけずに若々しく艶のある奥さんの声が出た。

          奥さんは仕事を持っていて昼間は家にいることはなく、
            これまで電話に出たことはなかった。
   
          爺さんと風子は、べつに怪しい関係なんぞではない。
               名乗ればよかったのだ。
      しかし、爺さんがいつも、鬼女房、鬼女房とメールに書いてくるので、
               つい、うろたえた。

      「あ、間違えました、またかけます、失礼します」と言ってしまった。 
      「いいえ、こちらこそ失礼します……」

         とても鬼女房には聞こえぬ声が優しく答えてくれた。

        悪かったなあ、年甲斐もなく、馬鹿なことをしたものである。
         とっさのこととはいえ「間違えました」と言いながら、
         「またかけます」……では辻褄も合わない。

       今どきのことだから、ディスプレイにこちらの名前が出たかもしれない。
           奥さん、不愉快だったろうなあ。

       すぐに爺さんの携帯に電話をして、奥さんに謝っといて下さいと言った。
               爺さん、アハアハアハと笑っていた。

             お互い年寄りだからかまわないようなものだが、
             若いときならもう少しヤバかったかもしれない。

郵便

2012-04-10 14:40:27 | 日記
        パソコンメールでは、うっかり送信をしやすい。

      郵便だと、宛名を書く段階で気がつくから、まずこういうことはない。
       何かの間違いがあっても、投函までには気がつくのが普通である。
 
          しかし、風子ばあさんはそそっかしい。
            いつだったか、やってしまった。

      ポストにぽとんと落としたあとで、あ、しまった、と思った。

       慌てて家に帰り、身分証明となるパスポートを持って立ち戻り、
        ポストに書いてある時間を確かめ集配の人が来るのを待った。

       待つことしばし、なかなか時間通りには来ないものである。

       待ちに待ってようやくやって来た集配員に事情を話したが、
     いったん投函したものは、いくら本人でも返せないと言い張られた。
 
      かくかくしかじか、ああでもない、こうでもない、お願い、助けて、
      ああでもないこうでもない……と泣き落とし、ようやく取り返した。
 
       ちなみに、郵政民営化後の集配は別会社がやっている。

         しかし、とにかく取り返せたのである。
          パソコンの送信だとこうはいかない。
    クリックをしたが最後、いくらパソコンの前で手を合わせても拝んでも、
             こうはいかない。

       恐るべき道具、非情なるものである。心してつかうべしである。

送信

2012-04-09 20:25:54 | 日記
          友だちのスーちゃんにメールをするつもりが、
           先輩女史あてにうっかり送信してしまった。

       こういう場合、双方まったく見知らぬ相手ならかえって都合がいいのだが、
        あいにく、風子ばあさんとスーちゃん、先輩女史は共通の知人である。

           誰かが傷つくほどのことは書いていないが、
     親しいスーちゃんへあてたものだけに、女史が読めば多少は失礼にあたる。

          こういう事は、いつも気をつけているつもりだが、
       夜中の12時過ぎだったから、少し寝ぼけていたのかもしれない。

         送信ボタンをクリックした瞬間、はっと思ったが遅かった。

    郵便なら、ポストの前に立っていて取り返すこともできるがパソコンは非情である。

                  恨めしいなあ。

       出来ることはただひとつ。丁重にお詫びのメールを送信することだけである。

           昨夜の出来事であるが、一昼夜たった今も女史からの返信はない。

お花見

2012-04-03 11:28:56 | 日記
         
近くの愛宕神社は桜の名所である。
          
急な坂や石段があって、バアサンにはきついのだが、満開と聞き、
      来年登れるかどうかわからないので、昨日は頑張って登った。

       拝殿からの帰途、うちの隣の奥さんにたまたま出会った。
      赤いジャンパーを着ているが、彼女は一人暮らしの85歳である。
         風子よりひとまわり年上である。

             負けたなあ。
       来年登れるかどうかわからん、などと思ったらいかんなあ。

           一緒に帰りましょうか? と訊いたら、
          いえいえ……と一人が気楽なようだった。

   元気で長生きのひとは、人をあてにせず、一人で楽しむ強さを持っているのだろう。

        帰り道、社務所からのアナウンスの声が響き渡った。

         本日は、ご参拝有難うございます。
        ただいま桜饅頭を販売致しております。
          売り切れ次第終了となります。
         残り少なくなりました、お急ぎください。

            あなかしこ、あなかしこである。