仲間うちでは知られたことだが、
ギターを弾くとき、つい歯を食いしばる。
難しい曲や、指が届きにくいときは、ぎゅっと奥歯に力がはいる。
すると、どうなるか。
歯が折れた、欠けたという者もいる。
風子ばあさんは、それほどのことではなかったが、
元来ぐらぐらしていた歯が痛みはじめたので、歯科医に行った。
どうされました? と訊かれて、
「歯をくいしばってギターを弾きました」
とは言えない。
バアサン頭がおかしいのではと思われるのがオチである。
70過ぎると、そういうものである。
で、「鬼あられを食べすぎまして」と言ったら、
「ふふふ、無理したらいけませんねえ」
先生は上機嫌であった。
生来バカ正直で、若いころはそれでだいぶ損をした。
この頃、このくらいの方便が言えるようになったのは、さすがに年の功である。
可愛げのある年寄りになるのも、けっこう難儀なことである。
と、いうような次第だが、まずは無事である。
ときどきお訪ね下さっているみなさん、ありがとうございます。