風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

タマやあ、タマやあ。

2012-09-16 22:45:55 | 猫および動物
           妹のところの猫は、21年も生きた。

              家が大好きな猫だった。
          外に出しても中に入れろとミャアミャア鳴き、
              どこへも行かなかった。

            人も色々なら、猫もいろいろである。

               うちのタマは違った。

               お隣が猫嫌いなので、
           外には出しませんからと断りを入れて飼っていた。

           ところがタマは大の外出好きで、脱走名人。
               隙あらば飛びだした。
           網戸はひっかいて破っても外へ出て行きたがった。

           居なくなると、タマやあ、タマやあと叫びながら、
              風子は町内を探しまわった。

           一時近所で、あの人バカみたいと評判になった。

              長い紐をつけて庭に出してやると、
           つまんなそうに物干し竿の下に寝そべっていた。

               思い出すと涙が出る。
       
          あんなに出たがり出べそだったのに、閉じ込められた一生で、
                 可哀想なことをした。

           可愛がったというが、あれは人間のエゴだった。
                   ごめんね、タマ。


猫好き

2012-09-16 00:19:18 | 猫および動物
                 タマの母親は野良だった。
            野良猫ではあるが、これに餌を与えて可愛がってくれる人がいた。

           彼女は、猫好きだが、たった一間きりの間借り暮らしだから猫は飼えなかった。
                餌を与えていた野良猫が五匹の仔を生むと、
                彼女は仔猫たちを抱えて獣医に連れていった。

                 五匹ぜんぶの避妊手術の費用を持つので、
             そのかわり、この仔たちを貰ってくれる人を探してほしいと。

         獣医さんは、仔猫たちの写真を撮り、ペットクリニックの入口に張りだした。

                  その中の一匹がタマである。
         「どこで引き取られたか知りたいと言ってますので、ひとこと連絡してあげてください」
           と獣医さんは言った。

                 むろん、風子はすぐに電話をかけた。

             その後、折りにふれてタマ子姫の成長ぶりを知らせた。

       「五匹の中で一番器量が悪くて心配したのに、タマちゃんが一番幸せそうね」と彼女は言った。
              器量が悪いと言われて、気を悪くしたわけでもないが、
                いつからか、彼女との連絡も途絶えた。

               決して豊かとは言いかねる暮らし向きに見えたが、
                 彼女は五匹もの猫の避妊手術代を払った。
              そんなことをしているからお金持ちになれなかったのか、
                 お金持ちでないから野良に優しかったのか。

                      お元気でいるだろうか。
             タマとの楽しい18年間は、もとは言えば彼女から貰ったものである。

タマ

2012-09-14 22:17:05 | 猫および動物
                      見るだけのつもりだから、
                      なんの支度もなかった。

                    じゃれ合っている数匹の中で、
                 白黒のリボンをつけたようなカオの仔猫と目があった。

                     これ、もらって帰る、と言うと、
            同行していた友人が、仔猫をつまみあげて自分のブラジャーの間にポトンと入れた。

                      猫は、それほど、小さかった。
                      家に帰って、記念撮影をしたが、
                 横においた急須と同じくらいの大きさしかなかった。

                その頃はまだジイサンでなかったうちの連れ合いは、
                      衛生清潔にうるさいひとである。
                 猫なんぞとてもウンとは言わないのはわかっていた。

                           一計を案じた。

                  テキが仕事から帰ったとき、風子は先手を打って、
                       玄関にひざまづき三つ指をついた。

                        はじめての妻の三つ指に
                     「なんだ、どうした」と度肝を抜かれている相手に、
                     「猫もらってきちゃった」と言った。

                     「なんだ、もう決めてんのか」
                    つれあいは不承不承、これを認めた。

            「ねえ、メスなの、名前はリエちゃんにしようかユカリちゃんにしようか迷ってるの」
            「猫ならタマにきまってる!」
 
                    で、タマは18年間、我が家のアイドルになった。

お猫さま

2012-09-12 22:45:13 | 猫および動物
             秋田県知事に、プーチン大統領からお猫さまが贈られるそうである。
               写真で見れば、さすがに見事な毛並みの猫である。

                  しかしなあ、相手は生き物。
                育てるのはさぞや気骨が折れることだろう。

                知事さんの奥さまがお育てになるのだろうか。
                  あるいは秘書官だろうか。
                 はたまたお抱えの獣医だろうか。

             風子ばあさんは、取りこし苦労のたちだから、気が気ではない。

               晩年、病気がちだったタマのことなど思いだす。
          大統領からのお猫さまとは比ぶべくもない、雑種の野良あがりだったが、賢くて、愛らしかった。
 
                 
                「見るだけのつもりの仔猫抱き帰る」
                素直に詠めていると、句会で特選にえらばれた。

                 「姫と名づけた愛する猫がサンマ獲る」
                  こちらは誰からも相手にされなかった。

               あとから注釈をつけるのは愚の骨頂だが、恥をしのんで注釈をつければ、
            あまりの愛らしさに、タマに「子」をつけ、「姫」をつけ、タマ子姫と命名したのだ。
        しかし野良猫あがりの姫はこちらの目を盗んで食卓の上のサンマをかっさらって逃げるのであった。

               氏より育ちというわけにはいかなかった。

           うちの息子が、今のヨメサンとその母親を初めて我が家に呼んだとき、
                風子は前もって念を押された。
            
           「お母さん、今日は、タマの自慢をしないでね」
           「息子の自慢が出来ないんだから、猫の自慢くらいするさ」
             と言ってやった。

              プーチンさんのお猫様のニュースから、
            久しぶりに我が愛猫、タマ子姫のことを思い出した。
              
                 あれは、いい猫だった。

千両

2012-01-29 10:04:25 | 猫および動物
        彩りの少ないこの時季、千両の朱色は美しい。
      我が家の庭先の実も、自慢じゃないが、見事な風情である。
 
        しかし、例年、今ごろになると、鳥にやられる。
       ある朝見ると きれ~いに平らげてある。
       くそっ! と思う。
       来年こそネットでも張るぞ、と毎年いまいましく思ってきた。

       ところが、今年は、
      一月もすでに終わろうと言うのに、千両はまだ無事なのである。

         そうなると、鳥さんたち、どうしたんだろうかと、
        なんだか落ち着かない。

         正月に人間は目で楽しんだ、
       今度は鳥さんの番だよ、食べてもいいんだよ……
       待っているときには来ないものである。

猫はバカ

2010-09-11 15:29:57 | 猫および動物
猫好きである。
しかし、風子ばあさんくらい齢をとると、猫の寿命と自分の寿命を天秤に掛けて、責任を持って飼えない。

 だから、近所の飼い猫ちゃんに遊びに来てもらう。
猫が喜びそうな椅子をおいてやり、水呑み場を用意する。

 春のうららかな日は、朝から来て、椅子の上でうつらうつらと居座る。
ときどき薄眼をあけて、風子ばあさんが洗濯物を干すのを眺めている。
 煮干しなどをやり、頭をなでてやる。
喉を鳴らして親愛の情を示してくれる。

機嫌のよさそうなときはダッコも許してくれる。
窓を開けたままにしておくと、室内にも入ってくるほど馴れていた。

 しかし、この夏、あまりの暑さゆえか、しばらく姿を見せない。
このごろ来ないねえ、と思っていたら、昨日、偶然、道端で出会った。

 お、元気だったか? と寄って行くと飛び退った。
 おいおい、風子ばあちゃんだよ、忘れたのかよ、おいでおいで、と言ったら、フウ~フウ~と牙を剥いて威嚇してきた。

 死んだタマもそうだった。場所がかわると、人の見分けがつかなくなるらしい。

 バカだなあ、猫は。 
そこがまた、カワイイ! と思うのだから、猫がバカなのか、こちらがバカなのかわからない。

ミー子

2010-08-02 22:36:20 | 猫および動物
 ペットブームである。犬猫用の美味缶詰は言うに及ばす、レインコートから玩具、年寄り用のオシメ、金ぴかの位牌まである。
 動物病院もふえて、なかなか過当競争らしい。

 小さな怪我をしたミーを近くの動物病院へ連れて行ったことがある。
 
 受診した半年後に電話がかかってきた。
 その後、お変りありませんかという。
食欲は? 目やには? と懇切丁寧なお尋ねがあり、定期健診をぜひ、とすすめられた。
 まあ、考えておきましょうと、答えた。 
 電話を切ろうとしたら、何かありましたらご来院くださいますようにと言い、
「では、ミー子さまによろしくお伝え下さいませ」と、少しも笑わない声が、慇懃に言った。

 風子ばあさんの脱ぎ捨てたシャツの上で丸くなって寝ていたミーに、
「おい、ミー、ミー子さまによろしくだってよ」と言ったら、ミーは眠いのに、起こされたのが気に入らなかったらしく、いきなり、フウッと牙を剥いてこちらを威嚇した。
 
 ミー子さまは野良猫上がりで気が強いのである。
 

男ぎらい

2010-06-19 09:03:33 | 猫および動物
 風子ばあさんは男が嫌いである。
 男は黙って……、という古いコマーシャルがあったが、あれは、高倉健がやっているから、さまになるのである。

 うちのじいさんが、仏頂面で黙っていれば、さてはまた頑固な便秘かな、としか思わない。
 ペラペラ喋るのはなお悪い。

 ばあさんは、やっぱり女どうしで喋るのが好きである。
新しい服に気がついてくれるのも、美味しい店を探してくれるのも女どうしなのである。
 
 ばあさんには息子はいるが、娘はいない。
姉妹も遠い。猫でもいいから女がほしい。

 だから、猫を飼うなら、メス、と決めていた。

 野良猫が生んだ数匹の中から、一匹だけ引き受けるとき、メス、メスと言ってタマを貰った。
タマなんて名前でなくて、もっと女っぽい名前、たとえば朱里ちゃんとか、すみれちゃんとかつけたかったのだが、うちの不粋なじいさんが、猫なら、タマだと言い張った。

 それで、ばあさんは、仕方ないから、タマ子姫と呼ぶことにした。
動物病院のカルテにも、そう書いた。

 何度か、診察を受けたが、十数年生きた最後の最後になって、獣医さんが、あれっと言った。
この猫、オスでしたかね?
 いえ、メスですけど。
 いやあ、去勢はしてあるけど、これってオスですよ。
獣医さんは、ほらあ、と毛をかきわけて痕跡を示した。 

 十数年、女の子のつもりで可愛がったタマ子姫は、最後にオスになって昇天した。
風子ばあさんはよくよく女の子に縁がないのである。

猫はバカか

2010-06-17 10:16:29 | 猫および動物
 猫は馬鹿か利口か分からない。
動物病院へ連れていく話をしていると、ちゃんと聞いていたように、机のかげに身を隠して出て来ない。
 
 こちらの機嫌の悪いときは、近づかず、甘い顔をしていると嬉しそうに、髭のあたりでニマニマ笑いながら寄ってくる。

 夜は抱いて寝てやり、かしづくように可愛がっているのに、家を離れたら、飼い主が分からなくなるのか、外で私を見かけてもそっぽを向く。
 タマちゃん、と声をかけながら近寄ると、すばやく逃げ出す。
ばかあ~、と言ってやる。

 ときどき、窓辺で思案顔でじっと外を見ているときがある。
何を考えているのかしらと思う。
 一度猫の頭の中をのぞいてみたいという気がする。

 言葉が喋れたら面白いだろうと思うが、喋れないから猫は可愛いのかもしれない。

 夫がいない留守に長電話をしているとき、目を細めて横で寝ていた猫が、夫が帰宅したとき、がばっと起きて、ニャアニャア今日はばあさんが電話で、あんたの悪口を言っていたよ、などと言われたら困るのである。

 何があっても、ニャアニャア、しか言わないから猫は可愛いのである。

動物の涙

2010-05-28 12:20:44 | 猫および動物
 野良あがりの犬を飼ったひとの話である。

 ひどく行儀が悪く、さんざん手こずらせたあげく、飼い主夫人を押し倒して怪我をさせたという。
家族が集まって対応を話し合い、可哀想だが、こうなったら、もう、役所で処分してもらうしかないという結論に達したそうである。

 ところが、話が終わってひょいと見ると、いつもやんちゃなこの犬が、窓の方を向いてぼうっとしている。
 どうも肩のあたりが震えているようなので、覗き込んだら涙をぽろっとこぼしたという。

 うちのお隣の奥さんは宇和島の出身だが、女学生のころ、近くに場があり、引かれて行く牛に何度も出会ったそうである。
 牛は涙をいっぱいためて歩いていて、それを見てきたので、奥さんは今も牛肉は食べないという。

 我が家の老猫を獣医さんに連れていき、受付で、年寄りだから、もう長くないと思いますけどと言ったら、受付嬢が、シッと唇に指をあて、聞いてますよ、と猫のほうを見た。
 艶を失った目のふちに、猫はいっぱい涙をためてうなだれていた。

 宮崎県で発生した口蹄疫で、おびただしい数の牛や豚が殺処分されている。
人は罪深い生き物だと思うことしきりである。