風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

祈り

2011-03-12 10:24:45 | 時事
 昨日、発生した東北関東巨大地震と津波による被害の甚大さに、
人間の非力を思うばかりである。
 言葉の遊びを慎んで、今しばらく沈思黙考、祈るしかない。

 神というものがあるならば、どうか、鎮まり給え。

欠席

2011-03-10 21:57:28 | 友情
 ちょっとした恒例のパーティに参加した。

 高齢者の多い会合だが、いつも必ず出席しているひとりの姿が見えない。
たまたま隣に座ったこれも顔なじみのじいさんに
「あの方、今日は、お見えでないですね」と訊いてみた。
欠席している彼と、隣席のじいさんは、同じグループで活動をしていて親交があるはずである。
当然消息が分かると思ったのだが、

「誰のことかなあ」という。
 名前が出てこない。

「ほら、彼ですよ、あなたとよく一緒にいるじゃないですか」
 首を傾げている。

 身体的な特徴をいうのは失礼なので、控えていたが、思いだしてもらうためには仕方がない。
「あの、身体の悪い方ですよ」
「僕のまわりは、みんな身体が悪いからなあ」
「足の不自由な方ですよ」
「みんな足が不自由だからなあ」
 じいさんは、皮肉でも冗談でもなく、首を傾げていた。

 どっちを向いても、あれ、あれ、あれ、ほらほらほら……のパーティだったが、それでも結構楽しかったから不思議だ。

お化け

2011-03-09 22:16:55 | ご挨拶
 同じ町内にいてもめったに会わない人もいる。
昨日、道を歩いていたら、久しぶりの知人が向こうから歩いてきた。

 こちらは早くに気づいたから、笑いながら近づいて行った。
 傍まで来ても、あちらはまだ怪訝な顔をしている。
通り過ぎようという距離まで近づいて、風子ばあさんが、
「お元気?」と声をかけた。

 ようやく気づいたらしい彼女は、立ち止り、あら! と言った。
「もしかして風子さん?」
「そうよ」
「へえ~ 驚いた、お化けみたい」

 いきなりお化けみたいと言われたら、こちらが驚く。
「ええっ?」
「風子さん、髪型変えたの?」
「変えたけど」

 ふうん、わからなかった……と言ったきり、通り過ぎて行った。

 お化けねえ、と考える。
齢を取り過ぎて妖怪みたいに見えたのだろうか?
あまりと言えばあまりな言い方である。

 齢のわりに、若々しくて、まるでお化けみたい……、な~んてこたあないか?

 いずれにしても意味不明な発言である。いろんな人がいるものである。

合評会

2011-03-08 22:20:54 | 読書
 小説を書く仲間どうしで、合評会なるものがある。
仲間のほとんどはパソコンで入力して、必要な部数を刷り出す。
あるいは添付して相手に届ける。

 若いひとには当たり前のことが、年寄りの風子ばあさんはこの事ひとつで感極まる。

 とにもかくにも、自分の書いたものが、印字されて目の前に出てくると、なにやら立派に見えるのである。

 昔はこうでなかった。
原稿用紙に下手な字でこそこそ書いて、間違えると棒線引いて脇に書きたした。
修正ペンというようなシロモノさえなかったような気がする。
もちろん打てば変換してくれるわけではないから、いちいち辞書をひく。

 さて、原稿が出来あがってもコピー機などもない。
どうしたか? 会合の前に郵送で回覧をすませておくという方法があった。
しかし、これは人数が多いと日数がかかりすぎた。一部しかない生原稿が行方不明になる危険性もある。

 で、どうするか? 当日、みんなの前で読みあげるのである。
さすがに当人は読みにくいので、うちらの場合は、読み達者な人間が声を張り上げて読んでくれた。
それをみんな黙ってうつむいて拝聴をしてから、合評という段取りになった。

「頬を寄せてきた彼の手が腰のあたりを滑り……」などというくだりを、一同しかつめらしい顔で、
しんと聞き入っている図は、今考えると、懐かしくもおかしい。

印刷業

2011-03-07 21:34:17 | 歳月
 仲間と出している冊子のことで印刷屋さんへ行った。
すでに馴染みの、担当者と雑談になった。

 風子ばあさんが
「私、若いときに印刷会社にいたこともあるんですよ、写植印刷の初期のころでした」
と言った。
「ほう、いつ頃ですか?」
「そうね、五十年ほど前になるかしら」
「じゃあ、僕はまだ生まれてなかったなあ」
 と笑われた。

 印刷の歴史への蘊蓄など、彼には無用のようであった。

 むろん、謄写版印刷などの話をしても、ばかにされるだけだと思い、女子社員の運んでくれたコーヒーを、上品に頂いて失礼してきた。

 謄写版印刷は、蠟紙に、鉄筆で、ガリガリと文字を刻んでいくからガリ版とも言った。
 これはこれで、達人がいて、謄写版印刷会社などと言う企業も存在した時代があったのである。

 

馬跳び

2011-03-06 10:48:39 | 思い出
 風子ばあさんが中学生のころ、馬跳びという遊びが流行った。
先頭が、廊下の壁に手をついて頭を下げ、馬をつくる。
その脚の間に後ろのものが頭をつっこむ。そのまた後も股の間に頭を突っ込み、長い馬ができる。

 そこへ相手方が跳び乗るのである。
かなり乱暴な遊びだったが、クラスの大方が参加する人気の遊びだった。

 そのころの風子は、虚弱体質で、遠足のあとなど決まって熱を出し、一ヵ月も休むような子だった。保健室で寝ていることもたびたびあった。
でも、休み時間の馬跳びになると、勇んで参加した。
そんな子でも、いじめられるようなことはなかった。
特別扱いもされなかった。
保健室から飛び出してきて、ぱっと馬にまたがったりした。

 男子と女子は別べつのときもあったが、人数の加減で、一緒になることもあった。
中学生にもなって、男の股ぐらの間に、頭を突っ込んで平気だったのだから、大らかなものである。

 それで怪我をしたという話も聞いたことはないが、よしんば多少のことがあっても、
昔の親は、馬鹿だね、この子は、と我が子を叱ってそれで終わりのことが多かったような気がするが、どうだろうか。

物忘れ

2011-03-05 10:08:02 | 口は災いのもと

 人の名前、場所の名前、あらゆる名称がすぐに出てこない。
すわっ、ボケがはじまったか! と戦々恐々の日々である。

 先日も、友だちと話していて、昔、近所に住んでいた人の名前が思い出せない。

「ほら、公園から数えて三軒目の家よ」
「ええと……」
 まだ顔も名前も思い出せない。
「ご主人が浮気をしたお宅よ」
「ああ、あの家ね」

 ここでにわかに記憶が鮮明になる。
「そうそう、奥さんが、相手の女性に慰謝料を請求して評判になったよね」
「100万円払わせて、うちの主人の値打ちはたったの100万円だったのって自分で言いふらしたって話だったよね」

 名前は忘れても、この手の話は忘れないものである。
100万円の金額まで覚えているのだからたいしたものである。

 ついに名前は出てこなかったが、物事の核心部分だけは記憶しているからまだ大丈夫だろうと安堵した。


弓 透子さん

2011-03-04 11:55:14 | 読書
 弓透子、平成9年に芥川賞候補になった作家である。
 まだ彼女が芥川賞候補になる以前、いわば無名のころ、たまたま「ハドソン河の夕日」という彼女の作品
を目にした。

 風子ばあさんはこれを読んで、いたく感動した。
小説としての面白さを十分堪能させてくれた。抑制のきいた美しい作品であった。
世間で評判になる前に読んだ興奮を伝えたくて、友人知人の誰彼にこの雑誌を回して読んでもらった。

 そのあと、芥川賞候補になったので、風子ばあさんは、多いに鼻を高くした。
受賞にはいたらず、惜しかったなあ、とあのときは、我がことのように残念でならなかった。

 しばらく忘れていたが、昨日、近くのブックオフで「ハドソン河の夕日」の単行本を見つけた。

 芥川賞候補になった直後に出版されたものである。定価は2500円だった。
ブックオフでは1500円の値がついていた。
100円、200円というような極端な安値になっていなかったので、嬉しかった。
関西の方の作家らしいが、この九州でも彼女の小説が好きで読んだ人がいるんだよね、と懐かしかった。

 ネパールの婚礼、ロックフェラーの館、ハドソン河の夕日の三作が収録されている。
ハドソン河は、あのとき何度も読んだはずなのに、また一気に読みとおした。

 作家と読者という関係は面白い。
いわば見ず知らずながら、読んでいるこちらは親しい。
弓さんは、こういう読者がいるのを知らないだろうと思うと、それもまた勝手に愉快なのである。
 


ブックオフ

2011-03-03 10:41:17 | 読書
 本が好きだから、ときどき近所のブックオフにも行く。
欲しかった本が安く手に入ると嬉しい。
嬉しいが、ブックオフの店を出入りするときは、ふつうの書店をのぞく時とちょっと気分が違う。

 これは風子ばあさんに限ったことかもしれないが、どこか後ろめたいような、弾まない気分を引きずる。

 いまの若いひとたちはそんなことはないのかもしれない。
読み終わった本は引き取ってもらい、かわりに必要な本を手に入れる、なんのためらいもないのだろう。多分。

 風子ばあさんたちの世代は、新聞紙でも包装紙でも大事にする。ましてや本は、読み終われば大事に大事に本箱にしまう。
背表紙が増えていくのは嬉しいものなのである。

 だから、ひと山なんぼでなんぞ、売りたくない。

 著名な作家の全集が束になって、半額……、こっちの棚は100円、などというのを見ると、つい、いそいそと買うのだが、そのくせ、どこか物哀しいのである。

 ブックオフは、若い者にこそ似合う場所なのかもしれない。

やれやれ

2011-03-02 21:33:39 | ショッピング
 近くに大変便利なショッピングセンターがある。
何でもそろう。

 今日はデジカメで撮った写真をプリントしたあと、お魚売り場で鯖を買った。
三枚におろしてもらうように頼んでから銀行のATMでお金を引き出した。
本屋で立ち読みもした。

 家に帰り、写真を眺めたとたん、メモリーをプリンターに差し込んだままで帰ってきてしまったことを思いだした。
慌てて、自転車を走らせた。メモリーはカウンターに届けられていた。

 やれやれ……。
 
 夕方、鯖の味噌煮をしようと冷蔵庫をあけたら、ない!
お魚売り場で、親切な店員さんが、三枚におろしますよと言ってくれたところで記憶が途切れる。
 しまった、預けたままである。

 それからまた自転車で走った。
近いとはいえ、今日はショッピングセンターまで何往復したことになるのだろうか。