風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

お節介

2012-05-16 17:27:03 | ほのぼの

         自転車で走っていたら、すぐ横を車が通り過ぎた。
              見るともなく見ると、
      後ろのドアの下から、なにか黄色い尻尾のようなものが長々と飛び出している。

      地面すれすれにその細長い物体をひきずりながら、車は走り去ったが、
         その先の信号停車で風子ばあさんの自転車が追いついた。


         どう見てもあるべきところにある物体とは思えないので、
            信号待ちの車のドアを叩いて知らせた。

           運転席の若い兄ちゃんは、ナンダヨ! という顔で、
                じろりとばあさんを見た。
 
        お節介だったかなあ、知らん顔すればよかったかなと、一瞬、悔いた。

      しぶしぶというふうに下りてきた兄ちゃんは、黄色の尻尾を見たとたん、
          アハハハ、大事なタクワン! とドアを開けて、救出。

     アリガト スミマセン と笑顔でタクワンを抱えて、運転席に戻っていった。

           しかし、なんだろうねえ、あの兄ちゃん。
            居酒屋かなんかの仕入れだったかなあ。
            よほど急いで買い物をしたのかしら。

             まずはタクワンが無事でよかった。
             兄ちゃんが笑ってくれてよかった。
             やっぱりお節介をしてよかった。

ささやかなコンサート

2012-05-12 14:00:34 | ギター、映画など他
      いつものギター仲間三人で、ささやかなコンサートを思いたった。
        十数年前に一度だけ開催して以来、二度目である。

        十年たったからそれだけうまくなったか?
            ならないのである。

            哀しいかな、齢をとった。
    見落としがあったり、物忘れしたり、指が動かなかったり、さんざんである。

       よくもまあ、これでコンサートなど思いたったもんだわねえ、
            先週、三人でため息をついた。

         「やめる? 今ならまだやめられるよ」
            クミちゃんである。

         「そうよねえ、まだ公表してないもんね」
     もともと言い出しっぺのくせに、気が弱いのは風子ばあさんである。

         「ここまで来たら、やるしかないのと違うかしら」
      一番おっとり物静かなカナちゃんが、最後はきっぱりと決めてくれる。

          三人を指導して下さっている先生いわく。
      あなた達がうまく弾くとは誰も思ってないから大丈夫。

連休

2012-05-06 17:02:35 | 友情
            連休は若者のためにあるのだから、
     この時季は、ジイサンバアサンは黙って引っ込んでいた方が身のためである。
 
        で、風子ばあさんにしては珍しく、ずっと家で過ごした。

   しかし、二日三日目くらいまでは、まだいいが、四日五日とつづくと、休日にも飽きる。

           カナちゃんやクミちゃんどうしてるかなあ、
   一緒に遊ぼって誘いたいけど、お客さんかもしれないしなあ、孫が来てるかもなあ……。
           連休だもんなあ、誘ったら悪いよなあ。

         でも、今朝、起きぬけに二人にメールした。


        連休も今日までですが、いかがお過ごしですか。 長いねえ。
            いささか休みにも飽きました。
          今日は映画でも行こうかと思っています。
      ベイビーズ、世界の赤ちゃんのオンパレード、カッワイイ映画です。

             すぐにカナちゃんから返信があった。
              「ご一緒していいかしら」

             クミちゃんからの返信も入った。
   「夫も早う行っておいでって、すすめてくれます。夫も二人でいるに飽きたようです」

           ウフフフ、映画のあと三人でランチをして帰ってきた。
              

客観性

2012-05-05 13:58:37 | 家族
             物を大事にする、と言えばカッコいいが、
              うちのじいさんは、つまりケチである。

               なんでも捨てるのが嫌いである。
           古い洗面器など、ふちが黒ずんで洗っても落ちないから、
              ばあさんが捨てると拾ってきたりする。

                 まだ使える、が口癖である。

             家具はいうに及ばず、靴でも、シャツでもパンツでも、
               着なれた物、使い慣れたものに執着して捨てない。

   自分が使い慣れているからと言って、客観的に見たらもう捨てる時期なんです! 
         あなたには客観性がないんです、と風子が金切り声をあげたら、
                じいさん、にやりと笑った。

         「そこが俺のいいところ……だから、あんたと40年もいた」

                    くそ!

                もうたいがいで捨てられたい。

おトイレ

2012-05-04 11:03:45 | バス
        バスで、風子ばあさんの後ろに若い男女が座った。
           高速道路を通過するとき海が見えた。
               
                「あらあ、海!」
                「ほんまやあ」

              二人には関西なまりがある。
          ははん、ゴールデンウイークで九州旅行かあ。
 
             ドームも博物館もはじめてらしく、
       あ、ドーム、写真で見たことあるね、などと言っている。

        この先は、もう、若者向きのアウトレットのショッピングセンターか、
             能古島くらいしかないけど、どこへ行くのかなあ。

          「外寒そうやわなあ。着いたらおトイレあるやろか」
                女性の声である。
 
     今日はそんなに寒くないけど、気の毒に、トイレかなり我慢してるのかなあ。
       着いたら……とは、アウトレットのことかしら、それとも渡船場かなあ。

    思う間もなく、風子ばあさんちのある××一丁目バス停に着き、ばあさんは下りた。
      ふと後ろを見ると、なんと二人連れもこともなげに下りてくるではないか。

            ここいらは住宅以外まったく何もない。
        下りるの間違ってないのかなあ。どこへ行くのかなあ。
      
       おトイレ貸してあげてもいいけどなあ、うちはすぐそこだけど。

       気になって立ち止ったが、二人連れはかくべつ切羽詰まった様子もなく、
           風子と反対の住宅の方へ歩いて行った。         
  気になるけど、追って行って訊くわけにもいかない。

スニーカー

2012-05-03 10:06:34 | ショッピング
          水色か紫がちょっと入っててもいいけど、
          白がたくさんの「瞬足」ってスニーカー。

             これが孫娘からの注文である。
 
       はいはい、お安いご用とばかりに近所のショッパーズへ行った。
             このショッパーズ内に、
          三店も靴屋さんがあるのをはじめて知った。

        三店まわったが、サイズ23.5と19の二足、
          水色か紫がちょっとの「瞬足」なるものが揃わない。
     昔人間のばあさんは、デパートなら何でもあるだろうからとバスに乗った。

           三越で訊いたら、キッズ売り場を紹介された。
          キッズに23.5があるはずもなく、岩田屋へ回った。
         サービスカウンターであちこち電話をして調べてくれたが、
            「お取り扱いがございません」そうである。
            「ダイエーさんへ行かれたらあるかもしれません」
 
     敵に塩をおくるような案内はお見事で、教えられて、ダイエーにまわった。

            ここでも親切な店員さんに助けてもらい、
            紫がちょっとで白がいっぱいの「瞬足」を、
         サイズもばっちりにようやく手に入れることができた。

             たかがスニーカー、されどスニーカー。

わが母の記

2012-05-02 12:08:40 | ギター、映画など他
         樹木希林と役所広司の「わが母の記」を観に行った。
             なかなかの前評判で、
          まだ前の上映が終わる前から行列が出来ていた。

            行列は階段の下で二列に並んだ。
                待つことしばし。
                前の上映がすんだ。
     上の扉が開き、まだ明るさになれぬ人たちがおりて来るのを下から見ていた。

     あとから、あとから、出て来る人出て来る人、老女老女、たまにジイサン。

         階段だから、よけい老人ぶりが際立つ。
          杖のいるひと、手すりを頼るひと、
   そうでなくても、そろりそろり、一段づつ用心深く必ず足もとを見る。

   我が身も同じであることを都合よく忘れて、すごいなあ、圧巻だなあと眺めた。

    樹木希林の惚け具合が気になるのか、役所広司の大作家ぶりに関心があるのか、
  いずれにしても、これは間違いなく成人向け映画ならぬ、老人向けの羨ましい映画でした。



お相伴

2012-05-01 22:13:11 | 家族
           離れて住む孫の誕生日がもうすぐだ。
          プレゼント、なにがいい? と訊いたら
              スニーカーが欲しいという。
 
          小学4年生で、サイズは23.5とのこと。
           大きいことはいいことだ、と褒めてやる。
     

          なにより、値の張るものでなくほっとしたので、
           四歳違いの下の子のサイズもついでに訊いた。

           「え? 私だけじゃないの?」
             余り機嫌がよくない。
           その気持ちはわからぬでもない。

      靴くらい親でも買ってくれるが、誕生祝というので喜んでいるのだ。
           妹は誕生日でもないのに……と思うのは、
             子供心というものかもしれない。

           「あのね、それをね、お相伴って言うのよ」

           ばあさんは電話のこっちで言って聞かせたが、
           ふうんという返事は納得のいかない声だった。

             「お相伴」はちょっと古かったかなあ。