風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

メイド・イン・パリ

2012-09-23 17:26:51 | ショッピング

              肌寒くなってきたので、ちょっと重ねる薄物を買った。
             

         店頭でマネキンが着ていたのは、色がイマイチなので、そう言うと、
            「グレーの素敵な色をお取り寄せできます」という。

              予算よりちょっとオーバーするので、思案していると、
            「パリ製です、パリからのお取り寄せになります」 とのこと。

                  ならば、少々お高くつくのもやむをえんねえ、
                    ということで後日受け取りにいった。

                        家に帰って広げたら、
               ミシン目は雑だし、ピンク色のチャコあとは消えていないし、
                         ひどいもんだった。

                      これで2万円とは、ぼったくりに近い。

                     なにが、パリ製ね、と腹立ちまぎれに
               タグを見たら、やっぱりメイド・イン・パリとは書いてある。

                 そうだねえ、パリも広いもんねえ、裏街の小部屋で、
           どこかの国の移民か難民かが、安い手間賃で縫いあげたものかもしれない。

                縫い目の印のチャコは、洗っても消えないけど、
               お針子さん、いまごろ少しは上手になったかしら……。

                          メイド・イン・パリ。

                   パリの空の下にもいろいろ事情がある。
                    あまり不満を言ったらバチがあたる。

                海の向こうに思いをはせて、大事に着ることにしよう。


衣替え

2012-09-22 11:58:16 | 思い出

                     朝晩めっきり涼しくなった。

                風子は寒がりだから、涼しいのを通り越して、

                           もう寒い!

 

                押し入れからあわてて長袖を引っ張り出す。

 

                 夏物と冬ものを入れかえるこの時季は慌ただしい。

 

                            昔の人は大変だった。

 

                            布団の打ち直し、縫い直し、

                      着物だってほどいて洗い張りしてまた縫いあげる。

 

                       シーツもシャツもタライと洗濯板で、ごしごし洗う。

                        お釜で炊くご飯がふきこぼれないように、

                  はじめチョロチョロナカパッパなんて、見張らないといけない。

 

                              昔の女は偉かった!

 

                        押し入れから自分の衣類を出すくらい、大変なんては言えないなあ。


長生き

2012-09-21 13:51:00 | 健康

                  友だちのお母さんは、もうすぐ100歳になる。

                     有料老人ホームに入居したころから、

                    友だちがお母さんのお金の管理をしている。 

                 「年金だけでは足りないけど、多少の貯えを崩していけば、

                         十年くらいはもつと思うのよ」

 

                あれから十数年、いや、そろそろ二十年近くが経とうとしている。

                  「そろそろ預金が底をつくけど、まだまだ元気なのよ」

                    親の長生きを喜ばぬ娘はいないが、複雑である。

                            こちらも返事に困る。

 

                   信じがたいことに、お母さんの歯は至極丈夫そうだが、

                        奥歯が一本、ぐらぐらしてきたそうである。

                    ホームの主任は、家族が歯科へ連れていけというらしい。

                           

                        「ほっとけば抜けるのと違う?」

                        「風子さんは呑気でいいねえ」

                   人質同然だから、ホーム側に言われれば、

                    家族はハイハイと連れていかねばならないのだという。

 

                 近くの歯科へ連れていったら、高齢だから何があるかわからない、

            うちでは抜歯できないので、大学病院へ連れていけと言われたそうである。

                   「もう入れ歯はいらないでしょう、紹介状を書きます」

              卒倒でもして訴えられたりするのを恐れ、年寄りを診たくないのだろう。

                

                         入れ歯の儲けもないもんねえ。

                        子供のお口の方が可愛いしねえ。

 

                    大学病院となると一時間も二時間も待たされる。

              100歳の老人が、抜歯一本でばかばかしい話だがこれが現実のようである。

 

                    超高齢化社会で、「死ぬまで生きる」のはなかなか難しい。


イミシン

2012-09-19 22:20:08 | 日記

                   風子は、仲間と冊子を作っている。

              このため、印刷会社の担当営業マンとお付き合いがある。

                 先日も打ち合わせのために喫茶店にいた。

 

                 もう三年の付き合いになるが、お互いに年齢は知らない。

                     知らないが、顔を見ればだいたいわかる。

                  風子が40に見えたり50に見えたりするわけもなし、

                      彼が、10代20代に見えるはずもない。

                       彼は中年だし、風子は老人である。

 

                         この日、たまたま年齢の話になった。

                              彼は、54歳という。

                         「ほう、まだ40代かと思ってました」

                        実際、彼は年齢よりずっと若々しかった。

                 訊きにくかろうから、訊かれる前に、風子は74歳ですと、言った。

 

                       え? と彼は一瞬、風子を見つめ、それから、

                          「ほう、そこまでとは思わなかった」

                                    と言った。

 

                      追及しても悪いので、あははは、と笑ったが、

                     そこまでとは、というのは、どういう意味だろうか。

                もっと若いと思っていたともとれるし、もっとバアサンと思っていたともとれる。

 

                     しかし、風子は彼のこういうイミシンなところが好きなので、

                          「いやいや」とこちらもイミシンに応えた。

 

                        世の中、なにもかもはっきりせないかんということはないのである。


龍国寺

2012-09-17 11:32:58 | 旅行

 

               大河ドラマ「平清盛」を楽しみにしているという友だちに誘われ、

                    雨の降る昨日、「龍国寺」へ行った。

              清盛の長男、重盛の娘婿が創建したという糸島半島の禅寺である。

 

                雨に濡れた寺の風情も、庭の緑もなかなかのものだった。

                 お住職は、丁度ご法事の最中で、奥さまが案内してくれた。

 

             話の途中で、この奥さんが、チェルノブイリ事故いらい、20何年も前から、

                原発いらない……活動を続けてきたことを聞いた。          

                 「まだ、まにあうのなら」という冊子も著している。

              ずっとずっと、心配してきたことが、福島でおこったと憂いていた。

 

             寺の周囲の田圃を工業団地化されるのも直前で知り、

                  これも孤軍奮闘して未然に防いだそうである。

 

            堂内の廊下、障子の桟、塵ひとつなく拭きあげ、住職を助け、かつ、こうした活動に取り組む、

               偉いひとがいるもんだと感心しながら辞去しようとしたら、

           いつの間にか、お嫁さんらしい若い女性と、孫娘らしい小学生が三人並んで正座して

                       三つ指ついてお辞儀をしてくれた。

 

                                      石段を下りて、山門を仰ぐと、

                         上の式台のところでまだ三人が正座のままでこちらを見送ってくれていた。

                              なにやら、ひどく恐縮。


タマやあ、タマやあ。

2012-09-16 22:45:55 | 猫および動物
           妹のところの猫は、21年も生きた。

              家が大好きな猫だった。
          外に出しても中に入れろとミャアミャア鳴き、
              どこへも行かなかった。

            人も色々なら、猫もいろいろである。

               うちのタマは違った。

               お隣が猫嫌いなので、
           外には出しませんからと断りを入れて飼っていた。

           ところがタマは大の外出好きで、脱走名人。
               隙あらば飛びだした。
           網戸はひっかいて破っても外へ出て行きたがった。

           居なくなると、タマやあ、タマやあと叫びながら、
              風子は町内を探しまわった。

           一時近所で、あの人バカみたいと評判になった。

              長い紐をつけて庭に出してやると、
           つまんなそうに物干し竿の下に寝そべっていた。

               思い出すと涙が出る。
       
          あんなに出たがり出べそだったのに、閉じ込められた一生で、
                 可哀想なことをした。

           可愛がったというが、あれは人間のエゴだった。
                   ごめんね、タマ。


猫好き

2012-09-16 00:19:18 | 猫および動物
                 タマの母親は野良だった。
            野良猫ではあるが、これに餌を与えて可愛がってくれる人がいた。

           彼女は、猫好きだが、たった一間きりの間借り暮らしだから猫は飼えなかった。
                餌を与えていた野良猫が五匹の仔を生むと、
                彼女は仔猫たちを抱えて獣医に連れていった。

                 五匹ぜんぶの避妊手術の費用を持つので、
             そのかわり、この仔たちを貰ってくれる人を探してほしいと。

         獣医さんは、仔猫たちの写真を撮り、ペットクリニックの入口に張りだした。

                  その中の一匹がタマである。
         「どこで引き取られたか知りたいと言ってますので、ひとこと連絡してあげてください」
           と獣医さんは言った。

                 むろん、風子はすぐに電話をかけた。

             その後、折りにふれてタマ子姫の成長ぶりを知らせた。

       「五匹の中で一番器量が悪くて心配したのに、タマちゃんが一番幸せそうね」と彼女は言った。
              器量が悪いと言われて、気を悪くしたわけでもないが、
                いつからか、彼女との連絡も途絶えた。

               決して豊かとは言いかねる暮らし向きに見えたが、
                 彼女は五匹もの猫の避妊手術代を払った。
              そんなことをしているからお金持ちになれなかったのか、
                 お金持ちでないから野良に優しかったのか。

                      お元気でいるだろうか。
             タマとの楽しい18年間は、もとは言えば彼女から貰ったものである。

タマ

2012-09-14 22:17:05 | 猫および動物
                      見るだけのつもりだから、
                      なんの支度もなかった。

                    じゃれ合っている数匹の中で、
                 白黒のリボンをつけたようなカオの仔猫と目があった。

                     これ、もらって帰る、と言うと、
            同行していた友人が、仔猫をつまみあげて自分のブラジャーの間にポトンと入れた。

                      猫は、それほど、小さかった。
                      家に帰って、記念撮影をしたが、
                 横においた急須と同じくらいの大きさしかなかった。

                その頃はまだジイサンでなかったうちの連れ合いは、
                      衛生清潔にうるさいひとである。
                 猫なんぞとてもウンとは言わないのはわかっていた。

                           一計を案じた。

                  テキが仕事から帰ったとき、風子は先手を打って、
                       玄関にひざまづき三つ指をついた。

                        はじめての妻の三つ指に
                     「なんだ、どうした」と度肝を抜かれている相手に、
                     「猫もらってきちゃった」と言った。

                     「なんだ、もう決めてんのか」
                    つれあいは不承不承、これを認めた。

            「ねえ、メスなの、名前はリエちゃんにしようかユカリちゃんにしようか迷ってるの」
            「猫ならタマにきまってる!」
 
                    で、タマは18年間、我が家のアイドルになった。

いまどき

2012-09-13 22:30:53 | バス
          バスに乗ったら、空席があるのに高齢の男性がこちらに背を向けて立っていた。
            立ってはいるが、後ろ姿からして、どこか不自由そうな気配が漂っていた。
            
             次の停留所で、彼は降車するのに、あちこちつかまりながら移動した。
                片手はどこかにつかまっていないとよろけるらしい。

             胸のポケットからバスカードを出そうとするが、片手なのでうまくいかない。
               ずいぶんと時間がかかる。
              お手伝いしましょうか、と言おうかどうしようかと迷う。

              多少の障害があっても自立したい人もいるだろう。
            急かされずにゆっくり気長に待ってくれと思うかもしれない。

                   それにしても時間がかかった。
                 運転手さんも待ち長かったのだろう。
              
             ようやく、彼がバスカードをタッチして下りると、すぐにドアを閉めた。
                   
                   閉めたが、またすぐに開いた。
                  風子のところから降車場所は見えない。

                前方に座っていた若い女性が、すっと立ち、慌てた様子で下りていった。
                  続いて運転手さんも下りて様子を見ている気配だった。

                「うるさい! かまうな」
               呶鳴り声がして、運転手さんと若い女性が戻ってきた。

           バスが動きだした。老人が道路に倒れ横たわっているのが見えた。
               先ほどの女性がまた立ちあがった。
               もう一人の女学生も立ち上がった。
               もう一人ものびあがって振り向いた。

             「あなた、一緒に介抱してくれます? わたしも下ります」
          バスは次の停留所まで走ったが、三人の若い女性が声を掛け合いながら下りると、
                小走りになってあと戻っていった。

      いまどきの若いもんは……というが、いまどきもまんざら捨てたものではない、と風子は安堵のため息をついた。

お猫さま

2012-09-12 22:45:13 | 猫および動物
             秋田県知事に、プーチン大統領からお猫さまが贈られるそうである。
               写真で見れば、さすがに見事な毛並みの猫である。

                  しかしなあ、相手は生き物。
                育てるのはさぞや気骨が折れることだろう。

                知事さんの奥さまがお育てになるのだろうか。
                  あるいは秘書官だろうか。
                 はたまたお抱えの獣医だろうか。

             風子ばあさんは、取りこし苦労のたちだから、気が気ではない。

               晩年、病気がちだったタマのことなど思いだす。
          大統領からのお猫さまとは比ぶべくもない、雑種の野良あがりだったが、賢くて、愛らしかった。
 
                 
                「見るだけのつもりの仔猫抱き帰る」
                素直に詠めていると、句会で特選にえらばれた。

                 「姫と名づけた愛する猫がサンマ獲る」
                  こちらは誰からも相手にされなかった。

               あとから注釈をつけるのは愚の骨頂だが、恥をしのんで注釈をつければ、
            あまりの愛らしさに、タマに「子」をつけ、「姫」をつけ、タマ子姫と命名したのだ。
        しかし野良猫あがりの姫はこちらの目を盗んで食卓の上のサンマをかっさらって逃げるのであった。

               氏より育ちというわけにはいかなかった。

           うちの息子が、今のヨメサンとその母親を初めて我が家に呼んだとき、
                風子は前もって念を押された。
            
           「お母さん、今日は、タマの自慢をしないでね」
           「息子の自慢が出来ないんだから、猫の自慢くらいするさ」
             と言ってやった。

              プーチンさんのお猫様のニュースから、
            久しぶりに我が愛猫、タマ子姫のことを思い出した。
              
                 あれは、いい猫だった。