街路樹の月桂樹に花が咲いていた。長年通いなれた場所にあるが、花が咲いたことに気づいたのはじめてである。
月桂樹の葉は料理の香辛料としてもつかうが、わたしはこの道をとおりかかるとよく葉っぱを一枚失敬して指先で揉む。
鼻先にかざして匂いを嗅ぐのだ。好きな匂いである。
恐れ多いが、むかし、檀一雄が佐藤春夫からもらってきたという月桂樹が能古島に植わっていた。
それを郷土史家の高田茂広先生がまたもらいうけたそうである。
高田邸を訪れた際に、挿し木するので一枝くださいと所望した。
高田先生は、「だんだん小物になるなあ」とちょっと渋い顔をされたが切ってくださった。
残念ながら挿し木には失敗した。先生が亡くなって久しいが、能古のあの場所には今も月桂樹が枝をのばしているはずである。