風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

女性のバス運転手さん

2010-07-07 10:30:50 | バス
 近くの停留所から、バスに乗った。
 昼の午後で、風子ばあさんのほかには、たった一人の乗客がいた。

 そのたった一人の、ごつい身体つきの男からアルコールの臭いが漂ってきた。
 足元に、袋のようなものを置き、ときおり、そこに屈みこんで手を突っ込む。
 ばあさんの脳裏に、バスジャック……などという恐ろしい事件のことが思い浮かんだ。

 次は~××停留所で~す……、という運転手さんの声は、可憐な若い女性の声だった。
 今どき、バスの運転手さんが女性であって悪かろうはずはない。
 宇宙にだって女性が行く時代だ。

 しかし、この酔っ払いが突如、暴れ出さないとは限らないのである。 
 いやだなあ、下りようかなあと考えた。

 バスは角を曲がって、大通りへ出る橋を渡った。
 オオゥ! 突然、男が奇声を発して、座席から伸びあがった。
 風子ばあさんの手はじっとりと汗ばみ、足が震えた。

 伸びあがった男は、窓の外に見える河口をのぞき、おお、貝堀りをしてらァ、と大声で叫んだ。

 バスの運転手さんを雇うときは、体格がよくて、柔道かレスリングなどの心得のある男性を、高給を払って正社員とすべし、と、ばあさんは思った。