風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

おとうさぁ~ん

2010-07-06 14:26:29 | 家族
 道は海岸へ向かって一本道である。
 両脇には住宅の塀があるだけで、ほかには何もない。
 風子ばあさんの散歩道である。

 向こうから、父子と思われる二人連れがやってきた。
 男の子は小学校の低学年くらいに見えて、父より半歩おくれて後ろを歩いてきた。

 ねえ、おとうさあ~ん、おなかすいたぁ!

 ばあさんは、おかしくて、たまらない。
 おいおい、こんなところでそう言われても、何もあるわけないだろうと、ひとりでくすくす笑いながら通り過ぎた。

 子供だって、ここにいきなり、団子屋が出現したり、握り飯が落ちていたりするはずがないことくらいわかっているのである。
 ただ、父にそう言ってみたいのである。
 父は万能だから、団子屋はなくても、ひょっとしたら、この空腹を癒してくれるかもしれないと信頼しているのである。

 子供っていいなあ。
 父親は、うっ、と短く頷いただけで立ち止まらずに歩き続けた。
 あと何年か過ぎたらこの父が万能でないことを子供は悟り、もう言っても解決しないことは父に言わなくなるのである。

 そうなったら、今度は、父が子供に語りかけても、子供の方が、生意気に、うむ! と頷くだけの存在になるのである。