風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

路線バス

2010-07-02 11:26:59 | バス
 風子ばあさんは、バスに乗り、そこが空いていれば一番前の席に座る。
 運転手さんの背中に貼ってある広告を見ていると、退屈しないからである。

 このごろ、そのポスターは、六十五歳以上が対象のグランドパスの広告である。
フットボールの仲間らしいおじいさんたちが、破顔し全員がこちらを向いている写真だ。

 こんなに元気でスポーツを楽しんでいますよ、路線バス乗り放題のこのパスのご利用をどうぞ……、ということだろう。

 おじいさんたちの顔は、一見、どの顔も同じように見える。
若い人の集団のように、個性が際立つという顔はない。
 穏やかに笑いながら、年齢相応の落ち着いた雰囲気である。
 
 この方たちのこれまでどんな人生ってどんなだったのだろうかと想像する。
 薄くなった髪をふさふさに伸ばし、禿げた頭にリーゼントを被せて、時を青春に巻き戻す。
 あの顔は誰にでも恋を囁いた色男、その隣は、ひたすら会社に忠誠を尽くした仕事人間、あっちは妻に逃げられた男……、ふふふ。 

でも、今は幸せだなあ、というみなさんのお顔である。

 勝手な想像を楽しんでいるうちにバスはすぐに目的につくから、バスは一番前に乗るべしである。
コメント
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