ひまわり博士のウンチク

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倉橋由美子『パルタイ/紅葉狩り』

2011年01月04日 | 本と雑誌
Partai
 
 正月、結局この小さな文庫本1冊しか読めなかった。普段の日よりも読書の時間が取れなかった。
 この本も、暮れのうちに何度も手を出しかけたものの、雑用に追われて読めなかった。
 
 そんなことはともかく、面白かった。
 表題の『パルタイ』は以前単行本で読んでいて、実は僕が倉橋離れをした原因にもなった作品である。
 作品の発表順ではなく、僕が最初に倉橋作品を読んだのは『蠍たち』で、それが面白くて『聖少女』や『反悲劇』など、立て続けに読んだ。続けて読んだなかに『スミヤキストQの冒険』があって、アレッと思った。そして、初期の作品『パルタイ』を読んでから、もう倉橋はやめようと思ったのだ。それで、倉橋由美子の本はすべて処分してしまっていた。
 その理由は、当時の左翼運動に対して、まるで重箱の隅を楊枝でほじくるような批判の仕方をしているのに嫌気がさしたからだ。まるで、「子供じみた運動だ」といわれているような気がした。
 何十年も前の話である。
 それをなぜこの時期に読もうと思ったのかと言えば、新聞のコラムで倉橋由美子のことが書かれていて、そのなかで『パルタイ』に触れた一文があって、もしかすると、今改めて読むと別の感じ方があるのではないかと思ったからだ。
 
 しかし、新本で買うのはイヤだったので、ブックオフで探したのだが、文庫本なのにあまりに高いのでびっくりした。定価で1200円(税別)、ブックオフ価格で650円だった。ふざけるな! と言いたくなる値段である。
 『パルタイ』だけなら新潮文庫の方が安いのだが、これでしか読めない他の作品に引かれてこれを買った。
 
 「パルタイ」とは「党」の意味で、ここでいう「パルタイ」は日本共産党である。おそらく民青だ。
 しかし、話の内容が、新左翼のセクトと混同している。倉橋は恐らく、共産党も新左翼のセクトも。同じ左翼で一括りにしていたのだろう……と思えるフシがある。内部のでたらめさはブントか赤軍だが、組織や行動は日本共産党なのだ。
 改めて読んでも、あまりいい気持ちはしなかった。
 
 しかし、『パルタイ』とはまったく傾向の違う他の短編が、別の意味で面白い。
 「囚人」は、死刑以上の刑を受ける囚人の話だ。「囚人」は生きたままはらわたを鳥に食われ、それでも死ねない。食われたはらわたは翌朝には再生して、また食われる。それが永遠に続くという話で、倉橋の異常な想像力を感じる。死刑以上の刑ということで、古代の残虐な刑罰に通じる感じがして、その考え方自体は賛成しかねるが、肉体を攻められながら肉体的な苦痛は感じることなく、永遠に食われ続ける「地獄」の発想だ。確かに死刑より恐い。
 「合成美女」は理想的なアンドロイド美女のメイドの話である。22世紀以降、科学が発達して、人間と見分けがつかないほど精巧なアンドロイドが、まるで車か家電製品のように販売されている。ある夫婦はメイドに最も美しい「合成美女」を購入する。ところがその合成美女は、夫と関係してしまうのだが……。そのオチはやっぱりというオチなのだが、面白いのだ。
 男の作家が書いたら女性蔑視といわれそうだが、作者が女性であることと、最後のどんでん返しで反論を回避している。
 
 もう一つの表題作品「紅葉狩り」は能の「紅葉狩」同様、鬼女の話である。倉橋の「紅葉狩り」はメディアや則天武后や六条御息所など、古今東西の鬼女たちが集って丁々発止とやり合う。歴代の鬼女について、なかなか詳しい。
 
 いささか怪しげな作品の多い後年の倉橋由美子は、初期の頃に比べると社会性に乏しくなって、かえってよかったのではないか。彼女の想像力は、少なくとも世情からかけ離れたところにある。
 一時期、大江健三郎や安部公房、三島由紀夫などと同一線上に語られていたこともあったが、徐々に一流から遠ざかっていった。その理由を無駄な性的描写が多いことにあると言われたりしたが、それよりも社会に疎いのに作品に社会性を入れ込もうとしたところにあるのではないか。
 過小評価されているという意見もあるが、しかし、彼女は一流の作家かと問われれば首を傾げざるを得ない。
 
 この文庫本、どんな編集者が編集したのか、一貫性のない作品群が羅列されている。しかし、無批判な読み方をすれば楽しめる作品が多い。他に、「夢のなかの街」「霊魂」「腐敗」「盧生の夢」、そしてよくもまあこん不気味な作品をと思いつつ引き込まれた「首の飛ぶ女」。
 
 倉橋 由美子(1935年10月10日 - 2005年6月10日)。シェル・シルヴァスタインの童話の翻訳もなす。
 
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