ひまわり博士のウンチク

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山田太一『終りに見た街』

2011年01月06日 | 本と雑誌
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 2005年の12月に放送されたテレビドラマを見て、原作も読みたいと買っておいたまま、書棚の肥やしになっていた本を思い立って読んだ。
 正月中に読むつもりの大部の本に手を出す気力がなく、手軽に読めそうなので読み始めたのが理由の一つ。もう一つは、何がきっかけだったかテレビドラマのシーンを思い出して、もう一度見ることはできないものかと思ったのである。
 
 この小説は1981年に雑誌『中央公論』別冊に掲載され、直後に新書判の単行本で出版された。文庫化されたのは1984年で、その後しばらく品切れ状態になり、2005年にテレビ朝日でドラマ化されたのを機に増刷され、現在はまた品切れになっている。
 手元になぜだか、1981年発行の新書判の初版と2005年発行の文庫版6刷がある。新書判の方には長新太による挿絵が施され、文庫本にはそれがない。代わりに今江祥智の解説があって、それがなかなかいい。であるから、両方あってよいのだ。
 
 テレビドラマは1982年にもドラマ化されているが、こちらは見ていない。2005年放送のドラマも、非常に印象に残ったことは記憶しているが、内容についてはほとんど記憶が失せているので、ぜひもう一度見たいと思っている。しかしDVD化されておらず、ネットで調べたら【ここ】にアップされていたが、どうにも画質が悪い。
 DVDにならないものだろうか。
 
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 〈あらすじ〉*ネタバレあり。
 テレビ作家の太一は、家族と共にマイホームごと終戦間近の昭和19年にタイムスリップしてしまう。一億総玉砕の風潮の中、歴史として太平洋戦争の結末を知る彼らは終戦までを必死にしのごうと努力する。
 誰とも連絡が取れないなか、幼なじみの敏夫から電話がある。やはりタイムスリップしたという。彼には反社会的で常に父の悩みの種の不良息子がいた。しかし、その息子はある日突然失踪する。
 3月10日の東京大空襲を知る彼らは、少しでも犠牲者を減らそうと手を尽くしてその事実を知らせようとするが、誰もまともに取り合ってくれない。
 終戦まであとわずかとなったある日、突然帰ってきた不良息子はバリバリの軍国青年になっていた。言動はまさにこの時代の人間そのものだった。
 「この戦争は結局負ける」と諭す父を「非国民」と断じて、殴り合いの喧嘩になる。太一の家族も含めて周囲がパニック状態になったその時、空襲警報が鳴り、史実では安全のはずだった彼らが住む荻窪に焼夷弾の雨が降る。逃げまどうそのとき、「地面が持ち上がった」。
 気がつくと、周囲は一変していた。家族は黒こげになり、自分は左腕を失っていて、そこから大量の血が流れ出していた。朦朧とする意識の中、まだ意識のある人間を見つける。
 「今年は何年ですか?」太一の問いに、死にかけた男の口から出た言葉は……。

 
 改めて読んで、ドラマと小説は、人物の設定にやや違いはあるものの、基本的なストーリーは変わっていないと見た。
 戦争をまったく知らない若者たちにとって、戦時中の情況をリアルに理解することは不可能に近い。赤紙が来たら絶対に軍に招集されなければならないことや、学徒動員を求められたら断れないことなど実感として理解できないのだ。民主主義というものは古今東西厳然とあってあたりまえ、それのない情況などまったく想像できないのだ。
 いくら金を持っていても物が手に入らないこと、一粒の米が携帯電話よりも貴重なことなどまったく理解の外だ。
 いつも同じ食事では飽きる、材料が同じなら工夫してカレー味にすればいい、などと平気でいう。カレー粉はおろか、砂糖も塩も手に入りにくい情況を認めるわけにはいかないのである。
 
 この小説は、そしてテレビドラマは、自由も食べ物も十分にある現代とは、およそかけ離れた異常な事態を、「教える」のでなく、「伝えている」。
 なぜ、このような理不尽なことが起きるのか、その理由はわからなくても、権力がひとたび暴走すれば、ちっぽけな庶民は虫けら同然に踏みつぶされることが実感できる作品である。
 東京大空襲よりも前の3月7日、東京は原子爆弾ですべてが破壊された。太一がかすんでいくその目で終わりに見たものは、都庁の建物が、東京タワーが廃墟となっている大都会東京であった。2×××年(小説では「千九百八十……」)。
 これは、絶対にあり得ないことではなく、十分にあり得る未来図なのかもしれない。

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