戦前戦中「治安維持法」という法律があった。本書のテーマ「共謀罪法」とは「盗聴法」や「安全保障法」などと組み合わせることで、日本が戦争をしやすくするための、いわば、かつての「治安維持法」の一部に含まれる内容の法律である。
戦後70年も経つと、治安維持法を「治安を維持するための良い法律」だと思っている人もいるくらいだから、政府自民党が成立を目指そうとしている「共謀罪法案」を説明するときに、「治安維持法」を引き合いに出してもピンと来ないかもしれないので、簡単に説明する。
まず、明治維新以降、日本は日清戦争から始まって、1945年の敗戦を迎えるまで、ほぼ休むことなく戦争を続けて来た。
戦争をするのに何が最も必要かというと、国民すべてを政府の意向に従わせることだ。デモが起きたり、戦争に反対するグループや個人が自由に活動することなどがあってはならない。
そのために、何人かが集まって話し合いをしたり、政府の考えとは異なる主張を書いて雑誌に掲載したり、あるいは読んだりすることを厳しく禁じた。
特に、政府の戦争政策に反対する考え方をもっている、共産主義や無政府主義などついて書かれた書物が自宅に蔵書されていたりすると、それだけで逮捕された。
その取り締まりを行っていたのが、特別高等警察(特高)や憲兵だった。さらに、地域どうしのグループ「隣組」を組織して、おたがいに監視させ密告させるような政策もとられた。
そうした非民主的な政策に強制力をもたらしていたのが、「治安維持法」である。
有名な話だが、作家の小林多喜二は、書いた小説が「治安維持法」に抵触するという疑いをかけられ、築地警察署の拷問で虐殺された。
現代においては、当時のように露骨な取り締まりはないかもしれないが、いっそう陰湿な方法が用いられるはずである。マスメディアを利用して失脚させたり自殺に追い込んだり(自殺に見せかけて殺害したり)といった、まるでサスペンスドラマのようなことが行なわれる可能性がある。(実際に行われている)
本書『「共謀罪」なんていらない?!』で取り上げられている「共謀罪法案」とは、かつての「治安維持法」で取り締まりの対象になっていた、結社の自由や集会の自由に制限を加えるものである。
表向きは「テロ対策」ということになっているが、テロを防止するためなら現行の法律を活用すれば十分である。にもかかわらず、「複数の人が集まって謀議する」つまり、実行せずとも話し合っただけで逮捕の対象になるなどとんでもないことなのだ。辺野古基地反対運動や脱原発で活動している人が、喫茶店で「明日の予定」について話し合っただけで、そこに警察が飛び込んで来て拘束するという事態にもなりかねない。
自分は大丈夫、などと安心はできない。高い税金に腹を立てて、仲間と居酒屋で「安倍晋三の奴、殺したろか!」なんて言ったのを居酒屋の店員が聞いて「すわ、共謀罪だ!」などと近所の交番にたれ込んだら、警官がすっ飛んで来て逮捕されかねない。実際にそんなことがあるかどうかではなく、「そんなこと」があってもおかしくない法律ということだ。
「共謀罪」とはどんな法律で、私たちの暮らしにどんな影響をもたらすのか、誰にでもわかりやすく、読みやすく作ったつもりなので、中学生以上の多くの人に読んでもらいたい。
執筆者:齋藤貴男、保坂展人、足立昌勝、海渡雄一、山下幸夫。
発行:合同出版
定価:1400円+税
発売予定日:12月15日