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ひまわり博士のウンチク

読書・映画・沖縄・脱原発・その他世の中のこと

地上波版「アバター」はひどい!

2012年02月19日 | テレビ番組
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 大失敗である。初めて観る映画は地上波ではだめだ……とわかっているのに。やっぱりひどいもので、こんなことなら途中で観るのをやめてレンタルビデオにするかDVDを購入して見た方がましだった。
 先日金曜日、日本テレビで放送された「アバター」は、ノーカットということで放送枠は3時間19分あり、期待していた。ところが、とてもノーカットとはいえない編集で、せっかくすごい映画なのにがっかりさせられた。
 
 民放にとって番組とは、コマーシャルを包む包装紙である。コマーシャルを見せることを目的に番組を作るのだ。すなわち、視聴者は豪華にパッケージされたコマーシャルを見せられている、と思っていい。だから、番組を無料で見られる我々が文句を付ける筋合いではないかもしれない。
 
 それにしても、である。まず、ノーカットの意味はテレビ局側と映画ファンとでは大きく異なるようだ。局にすれば、冒頭のクレジットやエンドロールなどは本編ではないからカットしても「ノーカット」といってさしつかえないと思っている。ところが、映画ファンにすればそんなものを「ノーカット」といってほしくない。特にエンドロールは重要だ。本編が終ってバッツンと切られるほど悲しいことはないだけでなく、エンドロールには映画の重要な情報が含まれていることが少なくないからだ。しかも、「アバター」ではエンドロールの背景に映像がある。普通に考えてもカットはできない部分である。それをカットするのに気が引けたのかどうか知らないが、本編が終ったとたんにタレントの無用なおしゃべりがはじまって、画面の右下の小さな枠にエンドロールを流すという姑息なことをやった。
 タレントのくだらないおしゃべりとどちらが大事だというのか。
 
 コマーシャルの入れ方にいたっては、ど素人以下だ。一気に見せるべきシーンの途中で突然フェードアウトしてコマーシャルになる。そのくせシーンの切れ目でここならコマーシャルを入れやすいだろう、という個所は通過している。配置もでたらめである。つまり、映画の進行内容にかかわらず、コマーシャルの放送時間をあらかじめ先に決めているからなのだ。
 
 営業がスポンサーと交渉するとき、「◯◯時◯◯分頃に放送します」とあらかじめ伝える。一つの番組のなかでも、前後真ん中と、放送時間帯によって注目度が異なるからだ。しかし、営業がスポンサーに売り込みにいった時点では編集が終っていないことが、普通によくある。かといって、莫大な広告料を払ってくれるスポンサーとの約束を勝手に変更はできない。だから、多少変でも強引にコマーシャルを挿入してしまうということが起きる。それでもベテランの技術者なら違和感なくできるのだが、最近は専門学校を出ただけで一人前面をしている、理屈ばかり達者で未熟な技術者が多い。
 
 さらに、コマーシャルの前後は本編がフェードアウト、フェードインになっていて、その部分は当然本編に食い込み黒身が入る。白身は本編外だが黒身は本編ということになっているから、当然フェードアウト、フェードインでつぶされた部分は本編扱いだ。これではせっかくの大作がもう、ぼろぼろである。
 
 たぶんテレビ局のなかに映画を愛する人間がほとんどいないか、上層部の人間がほんとうに包装紙としか考えておらず、数字さえ上がれば視聴者がどう思おうと知ったこっちゃない、ということなのだ。こんなことでは、地上波の映画番組はいずれ視聴者から見放される。最近はCSやBSでほんとうのノーカッットやっているので、どうしてもそれと比較される。もう少し意識を高める必要があるのではないか。
 これは映画ではない、映画を素材にしたバラエティーだ、と思った。
 
            ◇

 文句が長くなった。少しだけ映画について話そう。
 この映画、ひとりで観に行くのに気が引けて、カミさんとスケジュールをあわせているうちに見損なってしまったのだ。評判を聞いて、見逃したことを後悔していた。WOWOWでやったらしいが、ウチは契約していない。
 
 ストーリーは、資源を枯渇させた人類が、他の星に資源を求めて侵略していく話である。
 その星の先住民そっくりのアバターという人造人間を送り込み、情報を得たうえで武力で侵略する計画だ。
 アバターとは特定の人間の意識を遠隔操作でリンクさせて、その人間が人造人間のなかに入り込んだように活動する。
 しかしアバターは、先住民と馴染むにしたがって、この侵略がきわめて非人道的な行為であることに気づき、反旗を翻す。
 当初、「印象が悪くなるから」と先住民の殺戮を躊躇していた人類の軍隊も、抵抗されることがわかったとき、「ゴキブリを退治する」と、重火器を使って森を焼き払い、先住民の殺戮を開始する。
 
 この物語の先住民の隠喩はあきらかにネイティブアメリカンである。そしてこれは、日本の中国大陸侵略にも通じる。
 アメリカという国は、資源と新天地を求めてやってきたイギリス人の手によって、先住民が大量に虐殺され、その暴力行為によって奪い取られた土地の上に作られたことはだれでも知っている。資源に乏しく不況に喘ぐ日本も、広い大地と豊かな資源を求めて満州国を作った。日本の場合はアジア太平洋戦争の敗戦と中国の「抗日運動」によって排除されることになるのだが、アメリカは白人の国として建国されてしまった。
 
 しかし、「アバター」が日本映画だったらどうだろう。大ヒットどころか右翼に脅されて上映すらままならないかもしれない。
 
 映像は見事である。実写は司令部のシーンと地球人だけで、それ以外はほとんどすべてCGというのにもおどろかされた。登場人物は当初、特殊メイクとボディペインティングかと思っていたら、実写をトレースしたCGだという。「ロード・オブ・ザ・リング」のCGは違和感を覚える個所が多々あって、あまりいい気分ではなかったが、「アバター」は「やられた!」と脱帽した。
 
 ところで、「アバター」のDVDとBlu-rayには3種類の編集版があるそうだ。劇場公開版に未公開シーンが加えられた「エクステンデッド・エディション」と、どういうものかわからないけれど、「特別版」というのもある。近々「エクステンデッド・エディション」を購入して、あらためて観なおそうと思う。
 これはやっぱり、DVDではなくBlu-rayだろう。DVDではあの映像の美しさは表現しきれない。ただ、Blu-rayはメーカーにより、ときどき再生できないことがあるらしい。今のところ我が家ではそういった不具合は生じていないが、購入の際は注意が必要だ。
 
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松本清張「一年半待て」

2012年02月15日 | テレビ番組
 このところ、松本清張原作のテレビドラマをBSやCSで立て続けにやっていて、ありがたい(?)ことにアシのY(ミステリー好きなのだ)が番組表をチェックしては知らせてくれる。
 清張作品は中学生のときに読んだ『点と線』に始まって、主立った作品は大方読んでいるはずなのだが、なんせ稀代の多産作家である、すべてを読破することは不可能に近いし毛頭そんな気はない。
 全集が出たときに一瞬買い揃えようと思ったが、置き場所を考えてやめた。

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 膨大な作品群の短編にまではなかなか手が回らない。しかし、短編のなかには長編に勝るとも劣らない傑作がある。「一年半待て」も、そうした傑作の一つなのだが読んでいなかった。そのために先日BS-TBSで放送された古谷一行×夏川結衣のが初体験ということになった。
 
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 正しい人間が一人も出てこない『一年半待て』。
 
 この短編では正義の味方が一人も出てこない。全員がしたたかなのだ。殺人犯(夏川結衣)を無罪にしてしまう女弁護士(市原悦子)がしたたかだと思っていたら、まったくどいつもこいつもで、結局全員が何かを失いその代わりに何かを手にしている。そして、最後に手にしたものが、それぞれが本当に欲しかったものなのかというと、それも疑問だ。
 松本清張という作家は、全作品を通して女に辛い。野望をいだく女が最後に破滅する作品が多い。『黒川の手帳』しかり、『けものみち』しかりである。『一年半待て』もやはり同様である。
 また、最近のミステリードラマのように、犯人が捕まってめでたしめでたしという作品はほとんどない。何ともやりきれない気持ちを読者に残して終る作品ばかりなのに、それでも次が読みたくなるのが清張作品だ。
 
 松本清張ほど作品が映画やドラマの原作になった作家もいないだろう。以前にも書いたが、「砂の器」は日本映画を代表する名作だ。先頃二日連続でBS朝日で再放送されたビートたけしの「点と線」もよくできている。
 しかし、残念なことに多くは粗製乱造、原作の面白さに乗っかって工夫がない。「一年半待て」もドラマとしてのできは決してよくない。しかも短編なのに約90分のなかにおさまりきれず、説明不足が否めない。肝心な「一年半」の意味が、ドラマではわかりにくいのだ。原作を読んで初めて、その意味が分かり、主役の女性のしたたかさがいっそう際立つ。
 ドラマを見たあと、どうにも腑に落ちないことだらけで、まるでのどの奥に何かがつまっているようで気分が悪い。そこですっきりしたくて原作を読んだ、というわけである。
 読んだのは『松本清張短編全集8 遠くからの声』(カッパノベルス)に収録されているものだが、文春文庫や新潮文庫のいずれかにも収録されているはずである。
 やはり面白い。わずか30ページほどの短編に、秀逸な仕掛けがぎっしりとつまっていた。
 
Tentosen
 中学のときに初めて読んだ松本清張の『点と線』初版。今では貴重品だ。
 
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TBSドラマ「運命の人」第一回

2012年01月15日 | テレビ番組
Unmei
 
 山崎豊子原作「運命の人」が今日から始まった。今年は沖縄返還40年、グッドタイミングではあるが、本土の人間はほとんど知らないだろう。
 「運命の人」は西山事件として有名な毎日新聞記者西山太吉氏と外務省の蓮見喜久子事務官による沖縄返還協定にまつわる密約の、機密文書漏洩事件をもとにした小説である。
 登場人物も団体名も微妙に変えてあるが、多少の知識があればどこの誰それかわかる程度にはなっている。
 
 横溝  宏 → 横路 孝弘
 愛川 輝一 → 愛知 揆一
 曽根川靖弘 → 中曽根康弘
 田淵 角造 → 田中 角栄
 福出 赳雄 → 福田 赳夫
 小平 正良 → 大平 正芳
 佐橋 慶作 → 佐藤 栄作
 
 という具合である。
 失礼ながら、西山さんがモッくんとは、いくら何でもかっこ良すぎる。北大路欣也の佐藤栄作もスゴイ。
 初回としてはおおかた人物紹介的な感が強く、本格的な物語はこれからという雰囲気だが、事務官が記者に機密文書を渡すまでのいきさつが、原作を読んでいない人にとってはいささか唐突に感じられはしないか。
 西山記者(弓成亮太=本木雅弘)は安川壮外務審議官(安西 傑=石橋 凌)とはギブ・アンド・テイクのかなり親密な間柄であり、アポもとらず頻繁に執務室に出入りしていた。その関係で事務官とも親しくなり、蓮見喜久子(三木昭子=真木よう子)とも遠慮のない間柄になっていったのだが、そのあたりの人間関係をしっかり描いておかないと、女性事務官が心を許すようすがわからなくなる。
 この事件は結局、二人の下半身問題にすり替えられてしまうのだが、原作そのものがメロドラマ的傾向にあり、それがテレビドラマではいっそう強調されている気がする。三木昭子が弓成亮太にたいし、相当に積極的なのだ。いくら好きな男のためとは言いながら、頼まれもしないのにそう簡単にホイホイと機密文書を持ち出すものなのか疑問を感じる。
 もしそうなら、三木昭子はそうとうなアホで、蓮見喜久子さんに失礼だ。澤地久枝さんの『密約』(岩波現代文庫)では、真実はわからないとしながら、少なくとも西山氏から機密文書持ち出しの要求があったと思われる表現がある。結局、下半身問題をスケープゴートに密約はうやむやにされてしまった。
 しかし、男女の間に何があろうと、それと密約の事実とは別の問題である。「それとこれとは別」というところをドラマでどこまで描けるか、それがなければこの作品の意味がないわけだから今後を楽しみにしたい。
 
 視聴率を上げるためにメロドラマ仕立てになっているのは、昨今のTBSの現状からしかたがないとしても、モデルがあるだけにこれが真実と誤解されやすい。あくまでフィクションであると認識したうえで見るのがよいだろう。そして、真実に近い澤地久枝さんの『密約』(岩波現代文庫)をおすすめしたい。

 リンク→西山事件~『運命の人』読了
     澤地久枝『密約 外務省機密漏洩事件』
 
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テレビ朝日系ドラマ『砂の器』

2011年09月12日 | テレビ番組
Sunanoutsuwa3
 
 10日、11日と2夜連続で放送されたのを観た。
 このドラマは3月の放送予定で楽しみにしていたのだが、東日本大震災の影響で半年延期されてしまい、今回の放送になった。
 『砂の器』は松本清張の代表作の一つとされる推理小説で、過去に映画とTBS系列のドラマがあって、それ以前にも3度映像化されているが観ていない。
 (追記:過去に5回もドラマ化されていることをあとで知った。1962年版はまだ観られる状況になかった。77、91年版は完全に見逃している。どのようにつくられているのか観たい気持ちはあるが、評判になったという話は聞いていないのでそれほどでもなかったのだろうか。)
 
 実は、初めて『砂の器』を知ったのは映画であって、ものすごい衝撃と感動を覚え、原作もそのあとですぐに読んだ。今でも自分の中では日本映画ベストファイブの上位に位置している。
 経験上の話だが、小説などを映画化した場合、おおかた原作よりは劣るものであるが、『砂の器』に関しては逆だった。原作をはるかに超えた、日本映画の代表作に数えられる名作なのだ。
 しかし、松本清張大先生には失礼だが、小説としての出来は、『点と線』『ゼロの焦点』などと比較していささか見劣りする。トリックに無理があるし、設定も今ひとつに思える。
 野村芳太郎監督の映画の評判は、「ラストの20分間」といわれるあの、日本の四季を縦断するすばらしい映像と、菅野光亮の音楽に代表されるが、それだけでなく、作品のテーマであるハンセン病患者に対する偏見や差別、そして運命に翻弄される父と子の数奇な人生をくっきりと描いていた。
 
 TBSのドラマはまったく話にならない。ただのエンターテイメントに貶めてしまっていて、松本清張が生きていたら怒りまくったであろうと思えるほど最低の出来だ。松本清張の作品に欠かせない社会性がまったく無視されていた。
 
Sunanoutsuwa1
 
 前置きが長くなってしまった。
 さて今回のドラマだが、原作も含めて過去の作品とは視点を変え、脇役だった若い刑事(玉木宏)を中心に描いている。そのために、作品に若々しさが現れている。
 見終わった直後の印象は、これまで『砂の器』を観たことのない人にとっては、とてもよくできたドラマに見えただろう。番組切り替えの狭間でやる、時間ばかりが長い粗製乱造のスペシャルドラマとは一線を画していると言っていい。ドラマの時代背景を的確に表現しているし、構成も丁寧である。これが松本清張の原作であることを考えなければ文句なしだ。
 ただ、原作の重要テーマである、差別と偏見については今回もTBSと同様無視された。つい先頃、ハンセン病患者の団体がホテルの宿泊を拒否された問題があったばかりで現在進行形の問題なのだから、わざわざ殺人の冤罪に置き換えることはなかったのではないか。
 極限状況に置かれた親子の絆と、当時の社会的な背景を無視できない運命に翻弄される姿が描ききれていない。つまり、原作にある重要な二つのテーマがともに消失してしまっていて、ただ漠然とした「愛」みたいなものをテーマに置き換えている気がする。「初めて観る人にとってはよくできたドラマ」という所以はここにある。
 
 これはあくまでも『砂の器』である。だから『砂の器』でなければならないのだ。なくてもいいと言われればそれまでだが、砂でつくった器に水を注ぐシーンがない。
 大切に作り上げたものが、最後に崩れてしまう非業の人生を象徴していることが分からなくなってしまい、だから何故『砂の器』なのかも、最後までわからない。いや、わかり難い。
 
 また、親子が村を追われて差別と偏見に満ちた苛酷な旅のシーンが短すぎて、父と子が辛い旅を強いられてきた理由がわかり難い。映画のように20分とは言わないが、もう少し描いてほしかった。これでは、殺人を犯してまで築き上げたものを守ろうとする動機としてはあまりにも弱く感じられる。
 差別と偏見の中で生きてきたこと、そして差別は今でも存在することを描かなければ、和賀英良はただの殺人鬼だ。
 和賀英良にとって、ハンセン病患者の息子であるということは、人生をまったく失うことと同じだったのだ。
 映画のラストシーンで丹波哲郎演じる今西刑事が怒ったような口調で「(和賀は父親に)会いたいに決まってる」と言う。それはとてもよく分かる。しかし、今回のドラマで、最後に和賀に同情する吉村刑事の気持ちは理解できない。それは上記のような理由による。
 
 前日に放送された前半部分に比べ、翌日放送の後半が、尺が足りなくなったのか、はしょり過ぎの感があり、妊娠した愛人が殺害される重要なシーンがぼけてしまっている。原作にないその他の殺人事件を挿入しているために、話が複雑になり過ぎ重要な部分が埋没してしまっているのだ。
 原作にない部分を入れた狙いは、過去の作品と差別化したかったのだろうが、そのほとんどがじゃまである。とくに、中谷美紀演じる女性の新聞記者はまったく不要だ。若い刑事との中途半端な関係の設定で、婚約者と愛人という二人の主要な女性を押さえ込んでまでクローズアップさせる必要があったのか疑問に感じる。
 
 映画の印象があまりにも良かったので、つい比較してしまうのは自分だけではないだろう。そういった意味では、この作品の映像化は難しいといえる。しかしそれは避けられないことだと、脚本家も演出家もわかっているはずである。結局は、映画を超えられないどころか、届いてさえもいない。
 総合評価としては、松本清張の『砂の器』というタイトルを考慮しなければ「まあまあ」というところか。
 
 最後に一つだけ、背景や小道具などには昭和30年代が大変よく現れているのだが、登場人物の髪型やメイクは全然違う。玉木宏のような長髪の刑事など、当時はいなかった。中谷美紀のように、眉毛を細くとんがらせる女性もいない。どうせならそこまで気を使ってほしかったものだ。
 
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「私は貝になりたい」(昭和33年版)

2011年09月09日 | テレビ番組
Kai1
 
 最近、中居正広の主演でリメーク版の映画があったが、これはそのオリジナルともいうべきものである。中居正広版のように、若者ウケを狙ったフニャけた作品ではない。
 実は、DVDを持っているのだが、TBSチャンネルで放送されたので、改めて観たのだ。時代が時代だけに画像はかなり荒れているが、やっぱりすごい。
 
 このドラマが放送されたとき、自分は小学6年生で、父親が事前に放送があることを聞いてきて「重要なドラマだから観ておいた方がいい」と家族で観た。まだテレビがモノクロの、14インチで角が丸い時代だった。
 ご存知の方も多かろうが、原作はBC級戦犯として軍事裁判にかけられた加藤哲太郎さんの「遺書」で、そこでは「貝」ではなく「カキ」なのだが、脚本家の橋本忍が「貝」になおした。さらに、加藤さん本人は死刑になることはなく、再審で無罪になり釈放されている。
 
〈あらすじ〉
 昭和19年、第二次世界大戦中。清水豊松は高知県で理髪店を営み平凡な暮らしを送っていた。しかし、戦争が激化する中、とうとう赤紙が届く。
 豊松は軍隊で、厳しい訓練の日々を送っていた。ある日、アメリカ軍のB-29が撃墜された。山中を探索の結果、虫の息の乗員を発見。そこで豊松は、小隊長からその米兵を銃剣で刺すよう命じられた。
 終戦後、豊松は無事に帰還し、理髪店を経営しながらの平凡な暮らしを取り戻す。ところがそこに、戦犯として逮捕するとMPがやってくる。
 軍事裁判では、きわめて一方的な裁判が行われ、豊松の陳述はまったく聞き入れられない。結局、実松には絞首刑が言い渡されることになる。
 
Kai2
 
 このドラマは、小学生の目を通してみても衝撃的だった。父親の解説もあったのだが、このとき初めてA級戦犯にたいするBC級戦犯ということばを知り、むちゃくちゃな裁判のやり方だけでなく、日本軍の人を人とも見ない非情なあり方に腹が立った。
 そして、幼心に「戦争とは普通の人の普通の暮らしをめちゃくちゃにするものだ」と思ったものだ。
 
 なお、このドラマが放送された翌年、劇場映画が公開されている。しかし、このドラマを越えることはできなかった。
 実はこのドラマ、VTRと生放送の併用で、前半がVTRで後半が生放送だった。このころはビデオテープの幅が2インチもあって、大変高価で、はさみを入れて編集すると一カ所数千円かかるといわれていた。だから1本のテープをへたるまで使い回しして、編集はまったくされず、全編VTRなどという贅沢はできなかったのだ。結局生放送とほとんど同じだった。
 市販されている全編通してのVTRは、テレビ局で記録用としてテレビ画面の前にカメラを据え付け、撮影したもので、当時のテレビ画面の角が丸かったために、各所で四隅が切れている。
 このVTRは、TBSが所蔵するもっとも古いテープとされている。

演出   岡本愛彦
原作   加藤哲太郎(題名・遺書)
脚本   橋本忍(物語・構成)
出演者  フランキー堺
     桜むつ子
     佐分利信
     南原伸二
     河野秋武
 
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ドラマ「テンペスト」

2011年07月17日 | テレビ番組
Temp3
 
 NHK-BSプレミアムで池上永一原作の『テンペス』が始まった。人により評価はいろいろかもしれないが、原作が実に面白くて、また舞台も好評だったこともあり、去年放送が決まってからずっと楽しみにしていた。
 
 時は幕末、中国との貿易で栄える琉球王国は、薩摩との二重支配を受けていた。
 
Temp1
 龍が交尾するといわれる嵐の夜に生まれた真鶴は、秀才の男子しか登用されない王宮の役人に、宦官を装い孫寧温として難関の試験に合格する。
 しかし、類い稀な才能が国王の信頼を受ける反面、他の役人から疎まれ、また女であることに起因した葛藤にもたびたび悩まされる。
 
 原作は四六判二段組み上下巻で800ページを越える超大作である。放送予定10回でどうまとめるのかいささか心配ではあった。
 
Temp2
 
 さすがNHKというか、画面作りが実に豪華だ。ほとんどが沖縄ロケだと思われるが、首里城を(たぶん)借りきっての式典場面は迫力がある。
 CGも使い放題なのだが、寧温が正体をあばかれるシーンで黄金の龍が登場するのはいささかやり過ぎでは。
 
Temp4
 
 なんというか、野球のピッチャーにたとえると、カウントをかせぐのに決め玉を使ってしまい、三振を取りにいく玉がなくなるのではないかと心配になる。
 
 なんと、初回だけで原作上巻の半分以上をやってしまった。
 原作にある、冒頭の学業に励むシーンがばっさりカットされているのが物足りない。その部分は、登場人物の生い立ちにかかわる重要な個所なので、ドラマをいきなり見た人には、何がどうなしてこうなったのか、さっぱりわからないのではないだろうか。
 
 でも、仲間由紀恵は好きなので、最後までゆっくり楽しみたいと思う。
 谷原章介を始め、登場人物のキャストは豪華だ。
 映像がきれいなのでブルーレイで録画して保存しておきたいくらいだが、期待してよいのだろうか。
 
 7月23日(土曜日)午後7時30分から、NHK総合テレビジョンで再放送される。
 
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『JIN?仁?』最終回を見る

2011年06月27日 | テレビ番組
Jin
 
 TBSとしては久々の大ヒットドラマ『JIN?仁?』が、今度こそ本当に完結した、と思う……。
 このドラマはご存知の通り、現代の外科医が幕末の江戸にタイムスリップして、医学の発展に貢献するというドラマである。近頃低調な連続ドラマとしては空前の最高視聴率29.8%(第一期最終回)を達成した。

 2009年10月11日から12月20日まで放送された、今思えばこれは第一期といえるものなのだが、視聴者はその最終回の時点で、第二期の放送があることは知らされていなかった。だものだから、その終わり方に不満を感じた視聴者が少なくなく、「これは完結編を映画にするつもりだろう」とか「完結編の前振りだ」などと噂されたものだ。そして、もったいぶらせて第二期の放送が正式にアナウンスされたのは、翌年2010年6月のことだった。
 今年、2011年4月から始まった第二期は、一時フジテレビの「まるもの掟」の宣伝攻勢に視聴率を食われかけたが、それでもずっと上位をキープし続けた。
 高視聴率を得たのは、医者のタイムスリップという奇抜な発想もさることながら、南方仁(大沢たかお)と橘咲(綾瀬はるか)の主役二人の人柄のよさだろう。(実際の彼らたちの人柄は知る由もないが)

 南方仁は、三船敏郎の「赤ひげ」のように貧しいものからは治療費をとらず、治る可能性にある患者には献身的に治療を施す。(赤ひげほど偉そうではない)
 
 そして彼には、常に苛立がついてまわった。現代のような治療器具も薬もないということだ。
 やがて仁は、「自分の腕が優れていたのでなく、医療器具や薬で助けられていたのだ」ということに気づく。
 なければ作ればいいと思いついた仁は、点滴の道具や聴診器、人工呼吸器までこしらえてしまう。
 そして、江戸を襲ったコレラを撲滅し、ペニシリンを作って感染症を治療する。
 
 「助かる人は助けたい」、ただひたすらそれだけを目標に、十分な設備のない江戸で奮闘し、次第に評判を上げていく仁の前に立ちはだかるのは、権力とカネの亡者たちだ。
 権力や権威が欲しいわけではない、金を儲けたいわけではない、ただ治したいという思いは、3・11の惨禍にみまわれた日本で、それでもカネと権力にしがみつこうとする政財界の人でなしたちと真逆の位置にあり、それが、人々の共感を呼び、いっそう視聴率を押し上げたと見られる。
 
 そうした彼を、歴史を変えてしまうのではないか、というジレンマが襲う。事実、最終回では彼によって変えられてしまった歴史のため、「現代」に戻った彼は別のパラレルワールドで生きることになるのだが。
 
 橘家の娘、咲は、兄の命を助けられたことから、医学に興味をもち、南方仁のもとで助手を務めるうちに、仁に強く引かれていく。
 しかし、南方仁が未来から来た医者であることを知り、仁の告白を涙ながらに断る。
 
 第二期の最終回は、橘咲の感染症を治す特効薬を探しに、未来から来たときに落としたと思われる場所、最初自分がタイムスリップしてきたあたりを探し歩いているうちに、暗殺された坂本龍馬の声に誘導されて、現代に戻ってくる。
 戻った世界で目にした歴史書に、自分が作った治療所「仁友堂」の名前を見つけるが、どこにも南方仁の名はなかった。
 戻った現代で、橘医院を経営する、かつての恋人友永未来(みき)そっくりの、橘咲の子孫橘未来と出会う。
 
 彼女は「あなたが来るのを待っていた気がする」と、一通の古い巻き紙を渡す。そこには、橘医院の祖先である橘咲の、南方仁への思いがしたためられていた。
 だが、150年前から届いたラブレターに、南方仁の名は書かれていなかった。
 「……確かにいらした方なのに、どうしても名前を思い出さないのです」
 
    ◇
 
 最終回の印象は、相当苦労して練り込んだのであろう、実に丁寧で印象深い。感動的で見事な最終回である。
 南方仁が、江戸にわたって医学の本当のあり方を心に刻んだように、ちらりとだが、65歳の高齢者(後期高齢者ではない)の治療費が無料になっているシーンがある。この、国民会保険制度は坂本龍馬が発案したことになっている。劇中では、龍馬に南方仁が提案するのだが。
 やんわりとではあるが、「医は仁術」ならぬ「医は算術」と言われる現代を、ちくりと風刺しているところが心憎い。
 
 冒頭に「完結した、と思う……」と意味ありげに書いたのは、橘未来の脳腫瘍を執刀するシーンで終わるところだ。そもそもこの物語は、南方仁が手術に失敗して恋人の友永未来を植物人間にしてしまうところから始まっている。
 したがって、第三期の可能性を残したという、スケベ根性があるのではないかともとれるのだ。
 まあ、同じ柳の下に、どじょうが三匹もいるはずはないので、せっかくよい終わり方をしたのだから、これでやめておいた方がいいだろう。
 
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なぜ、誰も突っ込まないんだろう

2010年07月06日 | テレビ番組
 不治の病で死を迎えようとしている恋人を、海岸に連れ出し、波打ち際のビチョビチョに濡れる場所で彼女を抱えて座り込む。
 ヘンである。
 何でわざわざそんな場所を選んだのか、物語の流れから見ても納得できない。
 
 次のシーン。
 
 突然砂浜に白いピアノが現れ、波打ち際の海水が来る場所で、死んだ彼女を思い浮かべながらピアノを弾く。
 しかもそのピアノは、元は黒いピアノだったのだろう、塗装にムラがあって黒い部分が見えている。さらに、各所にシミが見られ、汚れている。
 
 学生の映画研究会が作った作品ではない、メジャーな韓流ドラマだ。
 
 
 毎朝、カミさんが時計代わりにつけているテレビで、その時間放映されていた韓流ドラマの再放送を、見るともなく見ていた。
 韓国の人気女優チェ・ジウ主演の『天国の階段』というドラマである。以前にも放送されていた記憶があるので、きっと日本でも人気のドラマなのであろう。それにしても、笑ってしまうくらいおおざっぱな作りなのだ。
 
 他にもおかしなシーンがいくつかあったので、その「代表的」なのを紹介する。
 丘の上に建つ家にいるチェ・ジウのもとを車で訪れる男性が丘の下に車を止めるのだが、その車から見た家の位置に比べ、建物の中からチェ・ジウが見下ろすときの車の位置が、極端に近いし角度も違う。
 外環と内部で、オープンセットが別であることがばればれなのだ。
 
 こうしたおかしなシーンに対して、だれかが突っ込んだという話を聞かない。どこかでだれかが言っているのかもしれないが、耳に入ってこない。
 
 少なくとも、現在の日本のドラマでこんなお粗末なことがあったら、たちまちクレームの嵐だろう。
 
 そうは言うものの、日本のテレビドラマでも黎明期は如何にもひどかった。
 50歳以上の人ならご存知かもしれない。『少年ジェット』という子供向け冒険ドラマがあった。
 シェーンという名のシェパードが相棒で、その犬が実に良く活躍する。
 活躍し過ぎておかしなことをやった。
 ものをくわえて湖を泳いでくるのだが、少年ジェットにそれを知らせるために、ワンワンと二度ほど吠える。
 しかし、水中に落とすことなく、ちゃんとくわえて届けるのだ。
 
 ヘンである。
 
 悪役の親玉が少年ジェットに目をピストルで撃たれ、失明したはずなのに、次の回にはしっかり見えている。
 その理由は「とびきり上等のコンタクトレンズを使用している」から、ピストルの弾を跳ね返したそうだ。
 
 どんなコンタクトレンズだ!
 
 『まぼろし探偵』というのもあって、「親に心配かけまいと、あっという間の早変わり」なのだが、それはそれでいい。
 変身するとき、サッと草むらに、シュッと建物の蔭に、パッと塀の向こうに一瞬隠れると、次の瞬間まぼろし探偵になって現れる。
 
 何カ所に衣装を隠してる! 言っておくが、衣装を納めるバッグのようなものを持っていることはない。
 
 これらの「突っ込みどころ」は、お約束通り後に好事家に突っ込まれた。
 
 西部劇だってかつてはおおざっぱだった。ワンシーンなのに、くわえていたはずのタバコがカットが変わったとたんになくなったりする。
 日本語吹き替えのとき、声優さんはタバコ代わりのボールペンをくわえたり離したり、忙しかった。
 
 韓流ドラマも、突っ込み個所を探しながら見ると、別な面白さがそうとうあるかもしれない。
 しかし、熱心な韓流ドラマファンには叱られるだろうなあ。
 
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新選組血風録

2010年05月04日 | テレビ番組
Keppuroku
 
 3日から、「時代劇専門チャンネル」で『新選組血風録』が放送されている。
 第一回『虎徹という名の剣』を昨日見た。
 
 懐かしかった。
 
 このドラマは、TV白黒時代の傑作で、テレビ朝日の前身NET(日本教育テレビジョン)の制作で、脚本も映像も素晴しい作品である。
 このドラマが放送されていたのは1965年~1966年で、40年以上も前のことだが、毎回欠かさず家族で見ていたのを記憶している。とくに父親が大ファンだった。
 
 原作は司馬遼太郎の同名の短編集であるが、ドラマ化するにあたってかなり改編が行われ、また原作にはないエピソードを挿入するなど、大胆な脚色が行われている。
 司馬はテレビドラマ以前に製作された東映映画を気に入らなかったために、ドラマ化するのあたって難色を示したという。
 その説得のために、プロデューサーが主役の栗塚旭(くりづか・あさひ)に土方歳三の扮装をさせて司馬を訪ねたと言うエピソードが残っている。それが、司馬の描く土方像とぴったりだったために、ドラマ化に応じたという。
 
Hijikata_toshizo
 
 第一話で近藤勇に偽の長曽祢虎徹(刀剣の銘=ながそね・こてつ)を売りつけにくる貧乏浪人の娘を、居合わせた土方歳三(栗塚旭)が一目で見抜き、睨みつける目力がすごい。
 貧弱なイケメン俳優が幅をきかす現代では、このタイプの迫力ある役者はいない。
 わが家では、土方が一番人気だった。
 
Okita_soshi
 
 沖田総司の島田順司(しまだ・じゅんし)は当時では二枚目だった。剣の達人でありながら病弱で労咳を患い、自分の命が短いことを知りながら必死に活躍する姿は痛々しくもあった。そうした難しい役を見事に演じていて、土方役の栗塚と人気を二分していた。
 島田はごく最近、『はぐれ刑事純情派』で風采の上がらない課長役でいい味を出していたのを見かけた。知らなければ同一人物とは思えないだろう。40年の月日は恐ろしい。
 
Saito_hajime
 
 主役は以上の二人に近藤勇(船橋元 ふなばし・げん)だが、準主役である斉藤一(左右田一平 そうだ・いっぺい)は忘れられない。演技者としては最高峰だと思う。けっして出過ぎることなく、それでいて存在感があり、斉藤一という役柄を実に的確に表現していた。そこここで、さすがと思わせる演技があり、登場シーンは特に注目していたものだ。
 
 
 モノクロ時代の傑作と書いたが、今見ても技術的に大変優れている。第一回の池田やのシーンでは、セットではなく実際の古い家屋を使用したと言う。通常の撮影では殺陣に支障のないよう、ある程度広さのあるセットを組むのだが、このシーンでは実際の建物なので狭い。それが実にリアルなのだ。
 また、鬘と地肌の境目が目立たない。時代劇ではほとんど鬘との境目を隠すことが出来ない場合が多いが、これは見事だ。床山さんの技術が優れているのだろう。
 使われている刀も、本物に近い。クローズアップした時に、波形や樋が本物らしいのは、レプリカだろうけれど、小道具を超えている。
 まだ黎明期のテレビ局が、持てる力をすべて出し切って製作されたことがうかがわれる。
 

 
 さて、原作の司馬遼太郎は今、『坂の上の雲』問題で渦中にある。この頃は司馬が反動であるなどという批判はされていなかったし、反革命的な新選組(「新撰組」が正しい)を肯定的に描いていることについても批判はなかった、と記憶している。
 いま思えば、たしかに新撰組を肯定的に描くなど、普通は思いつかない。当時からどちらかというと、反転した思考回路を持っていたか、あるいは歴史を描きながらも、現代への影響をあまり考えないタイプだったのかもしれない。
 悪く言えば、面白ければいい、という考えなのではなかろうか。
 
 しかし、なんといわれようと『新選組血風録』は面白い。
 
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ふざけるな!!! TBS「JIN-仁-」

2009年12月20日 | テレビ番組
 こういう裏切りは許せない。

 TBSドラマ「JIN-仁-」は、連続ドラマではぶっちぎりの視聴率を誇る人気ドラマで、実際おもしろかった。
 しかし、それに水をさすような最終回! 
 何なんだ!これは!!!
 
 予告では「これですべてが終わる」だった。
 ところが、何も終わっていない。
 
 病院から逃げ出したのは誰なんだ?!
 胎児様腫瘍とは何なんだ?!
 ミキさんは結局どうなった?!
 仁と咲はこれからいったいどうするんだ?!
 坂本龍馬はどうなる?!
 消えた写真はどこに行った?!
 平成22年の十円硬貨の意味は?!
   etc.etc.
 何にも解決してないし、何一つ終わっていない。
 「これですべてが終わる」なんて大ウソだ!
 
 しかも、しかも、しかも!

 3月に劇場版クランクインだと!
 ?ここに注目!
 テレビ朝日系『仮面ライダーディケイド』がこの夏同じことをやって猛烈批難を浴びたばかりだというのに、何をやっているのか。
 せっかくの人気ドラマが台無しだ。
 そんなことをやるくらいなら、20回でも30回でも続ければいい。
 
 最近の医学は「医は仁術」ならぬ、「医は算術」と言われるけれど、『JIN-仁-』も結局は算術だった。
 ただでさえ、TBSは評判を落としているのに、これでさらに地に落ちた、どころか地獄落ちだ。
 
 ぼくが学生時代、シナリオの研究をしているとき、柳沢類寿というセンセイに、観客を裏切るようなシナリオは絶対に書いてはいけない、と言われた。
 山本薩夫さんもそんなことをいっていた。
 近頃のシナリオライターやテレビ局は、モラルも何もあったものではない。
 
 最低である!
 そうか、「誰も知らない未来へ」という、最終回の予告キャッチはこういうことか。
 たしかに誰も知らない未来にしやがった。
 
 それにしても、映画が完成したら見に行かなきゃならないだろうが、バーロー!
 
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テレビ東京『白旗の少女』

2009年10月01日 | テレビ番組
Shirohata1
 
 テレビ東京で放送されたドラマ『白旗の少女』を観た。
 普段、めったなことでは自社制作のドラマなど作らないテレビ東京が、開局45周年記念と銘打って、そうとう力を込めた作品だろうと期待して観た。
 天沼小学校では、高学年の児童に番組を観るように指導していたようで、だいぶ前からそれに関連する授業内容についてのプリントが回って来ていた。
 
 『白旗の少女』は沖縄戦の激しい戦闘のさなか、逃げ回るうちに家族がばらばらになり、当時6歳(数え年の7歳)の比嘉富子さんが、一人で米軍の爆撃の下を生き延びる物語だ。
 隠れようと思って入り込もうとしたガマは、すでに先客がいて、食べ物を持たない富子さんは追い払われる。
 お前がいては他の住民の安全が脅かされる、と日本刀を持った日本兵に追い回され命からがら逃げる。
 日本軍の敗北で戦闘が終わり、最後に入り込んだガマの中で出会った老夫婦から、白いふんどしを木の枝に括りつけた白旗を渡される。
 
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Shirohata3
 この旗を掲げて米軍の駐屯地に向かう途中の富子さんを、若いアメリカ兵が写真に撮った。
 戦後出版された沖縄戦の写真集にこの写真が掲載されているのを見つけた比嘉富子さんが、この写真は私であると名乗り出たのがきっかけで、様々なメディアでクローズアップされることになる。
 
 『白旗の少女』はその後、さまざまな出版物や記録映画で紹介され、比嘉さんは一躍時の人となった。
 
Shirohata4
 
 『白旗の少女』は1989年、子ども向けの本として出版された。
 私自身は、当初からこの本については批判的であった。戦火の下を逃げ回っていれば、投降しようとする住民を虐殺する日本兵の姿にも出会っているだろう。また、集団自決する家族との出会いの中で、彼らが何故自決するのか、どんな情報を刷り込まれていたのか、その時にはわからなくとも、成人して後、本を出版する時点ではその意味するところを知っていたはずである。
 本人の意志か出版社の意図かは不明だが、戦争のもとでのかわいそうな少女の物語という、お涙ちょうだいのメロドラマにつくりあげられていることに、とても違和感を感じたのだ。
 
 テレ東のドラマでは、それらをフォローしかけながら、やはり語りきれていない。投降しようとする住民がいて、その直後のシーンで日本兵が「日本人なら大和魂で自決しろ」などと喚いているが、その結果どうなったのかは描かれていない。
 実際には、投降しようとする住民は米軍のスパイとして射殺された。
 亀甲墓(かめこうばか)に逃げ込んだ家族が、手榴弾で自決するシーンはあるものの、何故自決するのか、手榴弾はどこで手に入れたのか、まったく説明がない。
 手榴弾は、日本軍が住民の投降を阻むために、「アメリカ軍に捕虜になれば、女は犯され男は八つ裂きにされる」と脅して自決用にと配ったものだ。
 兵器である手榴弾が、何故一般住民の手にあるのか、重要なことなのにまったく説明がない。
 
 結局、悲惨な逃避行の末、米軍の駐屯地で姉たちに出会ってめでたしめでたしという、中味のないドラマになってしまっていた。
 こんなドラマなら、なにも敗戦から60年以上も経った2009年の今、見せるべきものではないだろう。
 『白旗の少女』の背景も含めて、沖縄戦の真実を伝えるべきだ。
 したがって、沖縄戦のことを知らない子供たちへ向けての入門にはなるかもしれないが、それにしてもいささかお粗末である。
 
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「爆問学問」の反響が…

2009年09月09日 | テレビ番組
 アクセス解析を開いたら、去年アップした、山上たつひこ『光る風』のページにアクセスが殺到していた。
 午後11時11分から15分ほどの間に77アクセス。
 だいぶ落ち着いて来たが、日付変わって午前1時40分現在まだ続いている。
 
 ななな、なんだこりゃ。
 
 以前ザードの坂井泉水が死んだ時に短時間で1千アクセス近くが集中したことがあったが、まあ、そこまではいかないまでも、1年前にアップした同じページに短時間でアクセスが集中するなんてことはめったにない。
 
 山上たつひこに何かあったのか、「光る風」が発禁にでもなったか。
 
 ネット上には特に問題があった形跡はない。
 
 で、長女に調べさせた。
 ネット上で情報を得るのは天才的にうまい。
 
 「あったよ。NHKの『爆問学問』でゲストの浦沢直樹が『光る風』が好きだったって、言ったらしいよ」
 
 その番組が始まった時間は午後11時、冒頭で語ったのだろう。それにしてもテレビの影響はすごい。
 グーグルで「山上たつひこ 光る風」で検索するとトップに出てくるので、短時間でアクセスが集中したのだろう。
 
 で、あらためて「爆問学問 浦沢」で検索すると、あった。
 「50代オヤジの独言」というブログにさっそく今日の番組内容がアップされていた。
 なかなか素早い。
 そこで、その一部を無断で拝借。
 
 浦沢「山上たつひこの「光る風」とか永島慎二の作品とかが好きだった。」
 
 これだ!
 
 「光る風」を紹介したサイトは何千もあるわけで、その一つにこれだけ集中するのだから、amazonでの売れ行きもすごいだろうなあ、と思っていたら品切れていた。
 
 当然だ。
 
 あらためてお薦めする。
 
Hikaru_kaze
 
 あのまま自民党が政権を握っていたら、きっとこうなっていたに違いないことが描かれている。
 
 リンク→山上たつひこ『光る風』
 
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NHK BS hi「風が吹くとき」

2009年07月26日 | テレビ番組
 NHK BS hiで放送された「風が吹くとき」のアニメを見た。
 原作はレイモンド・ブリッグスによるコミックで、篠崎書林から1982年に出版され反響を呼んだ。
 その時点で、本国イギリスでは50万部を売っていたベストセラーである。
 
 実はこのアニメ、20年ほど前に日本語版が大島渚監督、森繁久彌・加藤治子の吹き替えによる自主上映版が制作された。(デジタル・リマスター版が7月27日発売 amazon
 しかし、今回のNHKでの放送は字幕だった。

Kaze1
 
Kaze2

 リタイヤした老夫婦は野中の一軒家で悠々自適の生活を送っていた。
 仕事のない夫の興味はテレビや新聞のニュースで送られてくる国際状勢、妻の興味は料理と整理整頓。
 
 折しも第三次世界大戦が勃発する。
 しかし、正しい情報はニュースでも伝えられることはなく、政府が発行する、戦争に備えるためのパンフレットはいい加減きわまりない。
 田舎に住む老夫婦には、核爆弾とはどういうものなのか、それを知るための情報が伝えられていないのだ。
 とくに家事が最優先で世情にまったく疎い妻に、危機感はまったく感じられない。
 
Kaze3
 
 夫が図書館でもらって来たパンフレットは、家のドアを外してシェルターをつくれという。
 日本なら子どもでも信じない欺瞞だが、それを100%信じてしまう。
 「政府が発行したものだから間違いない」
 いい加減な情報が書かれたパンフレットに従って、夫は準備を始めた。
 
 突然、ニュースが流れ、3分後に敵国からのミサイルが着弾するという。
 
 核ミサイルについての知識などほとんどない老夫婦には、それが着弾することの意味をが理解できず、危機に対する実感がない。
 夫は“シェルター”にマットレスやクッションを積み上げ、妻はカーテンの汚れやケーキの焼き具合を心配する。
 
 
 
 一瞬、世界が真っ白になる。 
 
 

 核ミサイルが一瞬にして周囲の町や村を消し去った中で、かろうじて老夫婦は生き残るのだが。

 「放射能がその辺にあるんじゃないか?」
 「何も見えないわよ」
 
 「脚にへんな青いはんてんが出てるわ」
 「静脈りゅうというやつだ。年を取るとみんなそれで悩まされるのさ。別に心配いらんよ」
 
 政府の秘密主義による、正しい情報の欠如。
 知らされないための無知がいっそう悲劇を呼ぶ。
 
 
 
 
 日本でも一部に「必要以上の残酷さをあおる」と、広島や長崎の活動に反発する輩がいる。
 核武装を推進したいグループにとって、核爆弾が残酷であってはならないのだ。
 
 今年、8月6日の広島での祈年式典に会わせ、「ヒロシマの平和を疑う」などという田母神を担ぎ上げた講演会が開かれる。広島では開催の中止を求める行動が起こされているが、「言論の自由」を盾に、強行する気配だ。
 言論には自由と同時に責任もあることを知る必要がある。
 
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落日燃ゆ

2009年03月15日 | テレビ番組
Rakujitsumoyu

 テレビ朝日の『落日燃ゆ』を見ました。
 このドラマは、極東国際軍事裁判(通称:東京裁判)で、唯一の文官として絞首刑判決を受けた広田弘毅の生涯を描いた、城山三郎の同名の小説をドラマ化したものです。(写真は1974年発行の原作本)
 だいぶ前から番宣があって楽しみにしていました。

 で、率直な感想は「いまいち」。
 フィクションであることを断ってのドラマ化なので、多少事実と異なるところがあるのは致し方ないとして、しかし、史実を元にしているのだからおさえるべきところはきちんとおさえて欲しかった。

 いきなり不自然に感じたのは、吉田茂が最初に登場する昭和8年(1933年)当時、1878年生まれの吉田は55歳でした。広田より7カ月下の同い年です。
 津川雅彦演じる吉田茂は、眉毛まで白髪でどう見ても80歳前後の年寄りです。これは時代考証以前にキャスティングミスではないでしょうか。

 また、家族の絆を描くことに固執するあまり、歴史的な背景がおろそかになっていて、原作で丁寧に描かれている外交や政策のについての内容が流す程度にしか表現されていませんでした。

 広田が首相に任命されたとき、天皇から通常の注意に加え、広田に対して特別に「名門をくずすことのないように」と言ったことがドラマにありました。
 当時の首相は華族・士族が慣例であって、民間(福岡の石屋)の出身である広田が首相になることへの当てつけではなく、これまで天皇を支えて来た華族・士族をないがしろにしないように、という天皇自身の保身から来るものであったことが伝えられています。
 このあたりも説明が不十分で、真意を伝えられないのなら、あえて劇中に入れる必要はなかったでしょう。

 広田がMPに連行されるシーンが冗長で、家族が泣き叫んだり、延々と妻と別れを惜しんだりするシーンはまったく無駄。実際、当時の家族の姿からはあり得ません。
 原作では、ドラマの台詞にもあった「大きな気持で行ってくる。ただ、あまり簡単には考えない方がいい」と言い遺してあっさりと車に乗り込みます。

 東京裁判のシーンは、原作本が発行された当時からさらに35年も経っていることを考慮して、ドラマではもう少し詳しく説明する必要があったと思います。これでは、どういう罪で広田が死刑になったのかよくわかりません。

 A級戦犯というのは、BC級戦犯が裁かれた捕虜虐待や住民虐殺、強姦など「通例の戦争犯罪」に加え、「平和に対する罪」「人道に対する罪」などで裁かれています。
 つまり、本人が直接手を下さずとも、戦争を引き起こしたり(例えば、平和に対する罪、東条英機)、大虐殺の指揮をとる(例えば、人道に対する罪、南京事件の松井石根)などの罪で裁かれたのです。

 広田弘毅の場合、文官であるわけで「平和に対する罪」「人道に対する罪」に直接の関与はなくても、これらを未然に防げる立場にあったにもかかわらず、それを行なわなかった、「不作為の罪」で有罪とされたのです。
 史実での広田は軍部からの圧力に負けて妥協に妥協を重ね、結果的に戦争への道を開いてしまっています。

 東京裁判では人間関係のしがらみとか、おかれた立場など、感情的な説明は一切通用しませんでした。
 これは、裁判の終結を急いだ裁判官が、いちいち感情論を考慮することで裁判を長引かせることはできないと考え、事実認定だけで判決を下したためのようです。(戸谷由麻『東京裁判』など)

 かなり荒っぽい裁判であったことは事実で、それが後に否定論が持ち上がる原因にもなった訳ですが、そのことについては、多くの書物が出ていますのでここでは書きません。

 絞首刑にいたるまでの説明が雑なために、また、広田を平和主義の善人として描き過ぎているために、ホームドラマに毛の生えた、ベタベタしたドラマになってしまっていました。
 テレビ朝日が50周年と銘打って力をそそいだ作品だけに、いささかもったいなかった。

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「カンブリア宮殿」村上龍VS志位和夫

2009年01月19日 | テレビ番組
 19日放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)を見ました。
 村上龍の司会で小池栄子がアシスタントを務める番組で、この日のゲストはに本共産党委員長、志位和夫氏。
 格差社会と派遣切りから注目されて、急速に党員の数を伸ばしている共産党について取材したものです。
 (以下は、あくまで記憶に頼っての記述ですので、性格ではありません。心で把握してください)

●共産主義への抵抗がなくなりつつある若年層
 街頭インタビューでは、若者から年配者まで取材されています。
 党員になった青年は、「今まで政治とか興味なかったし、共産党もよくわかりませんでした。でも、最近の状況を見ると、共産党しかないかな、って思って」。
 街を行く学生らしい若者は、「共産党に対しては肯定的に思ってます。でも絶対かというとそれはちょっと」


 若年層の特徴は、共産党、あるいは共産主義に対して、高年齢層のように偏見を持たず、抵抗がないようです。
 しかしその反面、年配の人の中には、いまだに根強く反発を感じる人が多いようです。
 「自由にものが言えなくなったらいやよねえ。何でも言いたいもん」
 「能力がある人が多くの報酬を得るのは当然だと思うから、それはなくしたくない」

 スタジオで志位和夫氏は、現在の派遣切りについて、派遣の自由化が原因であることを説いていました。
 「派遣は本来専門職が対象でした。それが規制緩和で製造業にまで広がって、正社員との置き換えが行なわれた。つまり派遣は企業のバルブ調整になっているわけなんです」

 仕事を求めに職安を訪れた男性はこう言います。
 「求人と言っても派遣ばかりです。正社員はありません。派遣なら結局元の木阿弥ですから」
 派遣社員であれば、解雇と同時に職も住まいも失います。
 「このままだと、ホームレスになるか、派遣村のようなところのお世話になるしかありませんよ」
 4月になれば、解雇は正社員にもおよぶ可能性があると言われています。

●労働者は搾取されているか
 このような社会状勢の中、今までにない大きな変化が現れています。プロレタリア文学の代表作、小林多喜二の『蟹工船』は昨年だけで60万部を売り上げました。
 この作品は労働者が団結して、資本家の搾取に立ち向かう物語です。

 村上龍さんの質問に、「社内投資を行なうなど、労働者の中にも資本家的な立場の人がいるし、搾取されているとは言えないのではないか」というのがありました。
 それに対し志位委員長は、「搾取されています。給料に対し、会社には莫大な内部留保があります、それが証拠です」
 そして、「トヨタグループだけで内部留保は17・4兆円、0.2%を取り崩せば雇用を守れるのです」
 つまり、志位委員長は内部留保こそが搾取の証拠だと言います。これはマルクス経済学で言う「余剰価値」によって蓄積されたものだからです。

●すべての会社が派遣切りをはじめたら、自分の首を絞めることになる
 派遣労働を全面的に禁止して、企業が国際競争力を失って倒産したら、元も子もないのではないか、と質問されました。
 「一社が首を切るのであれば、その企業は財務状況がよくなるかもしれません。しかし、それがドミノ倒しのように社会に広がって、全部の会社が首切りを始めたら、もう景気の底が抜けてしまって、結局自分の首を絞めることになります」

●そして、ぼくから……もっとも共産主義に近い国はアメリカ
 急速に党員数を伸ばしたからと言って、多数の人が共産党に理解を示しているのかと言えば、そうではありません。ほとんどの人は、痛い目にあっても資本主義の甘い蜜が忘れられず、競争社会が正しいと信じています。
 それは番組中でシール投票を行なった結果に現れています。
 共産主義か資本主義かという質問に、9割以上の人が資本主義に投票しています。

 これには理由があります。研究者でもない限り、共産主義がどういうものかを知るには、かつてのソ連邦や中国や北朝鮮を見るしかないのです。
 しかし、これらの国々が、真の意味で共産主義であったのかというと、そうとう大きな疑問符がつきます。
 マルクスは、資本主義が最高位に達したあと、崩壊して共産主義に移行する、と言っています。
 だとすると、過去にこうした経過を踏んで共産主義になった国は、一国もありません。
 そこで世界を見渡すと、資本主義が崩壊して共産主義に移行するのにもっとも近いところにいる国は、アメリカということになります。
 しかもそのアメリカ経済は今、崩壊寸前の状態です。

 自由が失われるというのは、共産主義だからではなく、その国の特質です。
 共産主義というのは究極の民主主義ですから、自由も平等も最優先されます。

 で、先にアメリカの資本主義が崩壊し、共産主義に移行したら、日本の政治家や資本家たちはどうするでしょう。もっともこの変化には、あと何十年もかかるでしょうけれど。

●日本共産党の名前を変える?
 アシスタントの小池栄子は、もちろん政治のことなど分かろうはずはありませんが、精一杯背伸びをしてこんな質問をしました。
 「日本共産党じゃなくて、もっと若者受けする名前に変えたらどうですか?」
 これには志位委員長も苦笑い。
 「共産党は共産主義を理想とする政党ですから名前を変えることはしません」
 以前にもこのような話が共産党内部からも出たと言われていますが、ぼくも変えてはいけないと、どこかで意見を言った覚えがあります。


 「カンブリア宮殿」という番組は初めて見ましたが、村上龍という人はその時々の出来事を作品する作家です。子捨てをテーマにしたデビュー作『コインロッカー・ベイビーズ』にはじまって、北朝鮮問題をテーマした『半島を出よ』などが、特徴的です。
 ぼくは人間的には村上龍という人を評価していませんが、時代の変化には敏感に反応する、身の軽い人だと思います。
 番組を通じて、体よく取材代行をしてもらっているのかもしれません。
 派遣をテーマにした作品を発表したら、笑ってしまうかも。

【リンク】『しんぶん赤旗』記事

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