TBSとしては久々の大ヒットドラマ『JIN?仁?』が、今度こそ本当に完結した、と思う……。
このドラマはご存知の通り、現代の外科医が幕末の江戸にタイムスリップして、医学の発展に貢献するというドラマである。近頃低調な連続ドラマとしては空前の最高視聴率29.8%(第一期最終回)を達成した。
2009年10月11日から12月20日まで放送された、今思えばこれは第一期といえるものなのだが、視聴者はその最終回の時点で、第二期の放送があることは知らされていなかった。だものだから、その終わり方に不満を感じた視聴者が少なくなく、「これは完結編を映画にするつもりだろう」とか「完結編の前振りだ」などと噂されたものだ。そして、もったいぶらせて第二期の放送が正式にアナウンスされたのは、翌年2010年6月のことだった。
今年、2011年4月から始まった第二期は、一時フジテレビの「まるもの掟」の宣伝攻勢に視聴率を食われかけたが、それでもずっと上位をキープし続けた。
高視聴率を得たのは、医者のタイムスリップという奇抜な発想もさることながら、南方仁(大沢たかお)と橘咲(綾瀬はるか)の主役二人の人柄のよさだろう。(実際の彼らたちの人柄は知る由もないが)
南方仁は、三船敏郎の「赤ひげ」のように貧しいものからは治療費をとらず、治る可能性にある患者には献身的に治療を施す。(赤ひげほど偉そうではない)
そして彼には、常に苛立がついてまわった。現代のような治療器具も薬もないということだ。
やがて仁は、「自分の腕が優れていたのでなく、医療器具や薬で助けられていたのだ」ということに気づく。
なければ作ればいいと思いついた仁は、点滴の道具や聴診器、人工呼吸器までこしらえてしまう。
そして、江戸を襲ったコレラを撲滅し、ペニシリンを作って感染症を治療する。
「助かる人は助けたい」、ただひたすらそれだけを目標に、十分な設備のない江戸で奮闘し、次第に評判を上げていく仁の前に立ちはだかるのは、権力とカネの亡者たちだ。
権力や権威が欲しいわけではない、金を儲けたいわけではない、ただ治したいという思いは、3・11の惨禍にみまわれた日本で、それでもカネと権力にしがみつこうとする政財界の人でなしたちと真逆の位置にあり、それが、人々の共感を呼び、いっそう視聴率を押し上げたと見られる。
そうした彼を、歴史を変えてしまうのではないか、というジレンマが襲う。事実、最終回では彼によって変えられてしまった歴史のため、「現代」に戻った彼は別のパラレルワールドで生きることになるのだが。
橘家の娘、咲は、兄の命を助けられたことから、医学に興味をもち、南方仁のもとで助手を務めるうちに、仁に強く引かれていく。
しかし、南方仁が未来から来た医者であることを知り、仁の告白を涙ながらに断る。
第二期の最終回は、橘咲の感染症を治す特効薬を探しに、未来から来たときに落としたと思われる場所、最初自分がタイムスリップしてきたあたりを探し歩いているうちに、暗殺された坂本龍馬の声に誘導されて、現代に戻ってくる。
戻った世界で目にした歴史書に、自分が作った治療所「仁友堂」の名前を見つけるが、どこにも南方仁の名はなかった。
戻った現代で、橘医院を経営する、かつての恋人友永未来(みき)そっくりの、橘咲の子孫橘未来と出会う。
彼女は「あなたが来るのを待っていた気がする」と、一通の古い巻き紙を渡す。そこには、橘医院の祖先である橘咲の、南方仁への思いがしたためられていた。
だが、150年前から届いたラブレターに、南方仁の名は書かれていなかった。
「……確かにいらした方なのに、どうしても名前を思い出さないのです」
◇
最終回の印象は、相当苦労して練り込んだのであろう、実に丁寧で印象深い。感動的で見事な最終回である。
南方仁が、江戸にわたって医学の本当のあり方を心に刻んだように、ちらりとだが、65歳の高齢者(後期高齢者ではない)の治療費が無料になっているシーンがある。この、国民会保険制度は坂本龍馬が発案したことになっている。劇中では、龍馬に南方仁が提案するのだが。
やんわりとではあるが、「医は仁術」ならぬ「医は算術」と言われる現代を、ちくりと風刺しているところが心憎い。
冒頭に「完結した、と思う……」と意味ありげに書いたのは、橘未来の脳腫瘍を執刀するシーンで終わるところだ。そもそもこの物語は、南方仁が手術に失敗して恋人の友永未来を植物人間にしてしまうところから始まっている。
したがって、第三期の可能性を残したという、スケベ根性があるのではないかともとれるのだ。
まあ、同じ柳の下に、どじょうが三匹もいるはずはないので、せっかくよい終わり方をしたのだから、これでやめておいた方がいいだろう。
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歴史のつながりって不思議ですね。過去の様々な人々から影響を受け、私は今を生きているんだなぁと実感した最終回。
数多くのバトンが、有名無名を問わない過去の人々から。「ありがとう」と伝えたい気分です。
厳しい時代のなかを仁や咲たちは、自分に問われることを模索しながら格闘。歴史や社会の中の個人の役割…を感じ、希望が見える結末でした。
個人的には、思い出深い街、御茶ノ水の景色も魅力でした。
感動的でしたね。
各所にTBS本来の姿勢が現れていて、よいドラマでした。
実は僕にとってもお茶の水は思い出深く、順天堂の屋上や聖橋際の公園などが出てくるたびに嬉しかったです。
最高視聴率は関東地区でなんと31.7%ダッタそうです。