monologue
夜明けに向けて
 



 その頃はまだアイドルということばはなく流行歌手は三人娘や御三家といって三の数で括られていた。その三人娘の始まりは「美空ひばり、雪村いずみ、江利チエミ」であった。わたしはそのうち、江利チエミが一番好きだった。映画でサザエさんを演じたり私生活では東映新人俳優高倉健と結婚して話題になった。本職の歌はカントリーの名曲「テネシー・ワルツ」 をカバーした「テネシー・ワルツ」 がヒットしてかの女の代名詞のようになった。かの女は原語で歌うことにこだわったというがチエミは英語で歌っていてもどこかそこはかとなく日本の響きを感じさせた。本人はジャズ的な欧米系の洋楽歌手を目指したのだろうがわたしはかの女の民謡 さのさ のような日本調の歌のうまさに感心したものであった。かの女は洋楽指向のわたしに日本古来の名曲の良さを教え眼を開かせてくれたのである。

 その江利チエミが1982年2月13日に酒による吐瀉物が喉に詰まって45歳で突然死亡したという報が流れた。あまりにもあっけない死に呆然とした。もう十分やることはやり終えたのだろう。かの女に与えられた役割は果たし終えたのだろう。そんな風に思う。ありがとう。多くの素敵な歌を聴かせてくれて…。合掌。
fumio

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