北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない
「翻訳の授業~東京大学最終講義(山本史郎著・朝日新書2020刊)」を読んだ。山本史郎(やまもとしろう1954生れ)氏は、東大(教養学科)卒、東大名誉教授、英文学者/翻訳家。現在は昭和女子大学教授である。翻訳/著書にアーサー王と円卓の騎士/赤毛のアンなど多数。-------
この本の目次は次の通り。“雪国の謎”、“同化翻訳と異化翻訳”、“視点と語り/文化圧とは何か”、“実用と文学のはざま/AIはなぜ通訳を殺すのか”、“岩野泡鳴と直訳擁護論”、“翻訳家の仕事場”、“翻訳と文体”、“翻訳革命”------
表扉の抜き刷り文は次の通り。文法的に正しく解釈し、辞書の訳語に正しく置き換えるのが翻訳と思っている人の常識を破壊し、英語とは/翻訳とはという疑問を、論理的な形で深く掘り下げた。30年掛かって知り得たことを皆さんに知っていただき、皆さんはそこから出発し、言葉/翻訳についてもっと理解を深めていかれるようにと願っているのです。-------
東大の最終講義の内容を新書とされているので、英語学に進まれる後進/後輩に向けてエール(yell)を送る形をした本であるようです。------
東大の英文学者だから、日本の英語教育にも識見をお持ちだったと思われるが、そちらへの発言は皆無であり、翻訳に限った議論に終始している。また、AIの発展で英語翻訳の分野は侵されない。犯されるのは英語通訳の仕事であり、文学/文芸の翻訳は将来ともAIには人間の思考に太刀打ちできないとお考えのようだ。------
あとがきには、理系/工学分野には、応用のための基礎研究があるのだが、翻訳の仕事にもそのような基礎的な研究が大切であると考えてきたので、後を継ぐものはその点をよく理解してほしいと言っておられる。文系の学問に進まれた山本史郎氏であるが、本当は理系の学問に憧れておられたのであるようだ。-----
日本の国語教育と同じで英語教育も外国の文学作品を教科書で取り上げてきたこれまでの、英語教育の方法をこそ改めるべきと考えるが、兎も角、山本史郎氏は夏目漱石と同じで幸せな時代の英語教授であったのだと思った。