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20220804 夏の歌・岡しのぶ/歌集より3

2022-08-04 17:49:42 | 本の要約や感想
20220804


いっぱいに広げた腕に抱えたるひまわり揺れて夏の風吹く




──岡しのぶ / もし君と結ばれなければ──より

    (ネスコ発行 / 1996文芸春秋発売)

なんてことない歌だが、私は好きだ。いかにも夏という心地よさがある。
そして書かずとも北海道の夏の情景がありありとしている。

この歌集は、10代にとっては殊更に重大な恋愛と失恋の記憶を何度も反芻し、否定と肯定を歌に問いながら自分の立ち直す場所を見つけるための、他の誰のためではなく著者自身のために歌った記録であるように私は思う。

発刊当時に注目され「10代の官能」などと取材者側から形容されたらしい歌もこの歌集にはあるが、それを「官能」と理解したことは私には間違いに思え、確かに「官能らしき」が表面に読めるわけだが、その奥にある「戸惑い」をこそ耳を澄ませ聴くべき音だと言いたい。しかし形容する側にしてみれば「官能」こそ大衆に必要であると考えたに違いなく、それはそれで擦れた大人の私は許容する。

「官能」が悪いと言いたいわけではない。しかし私には官能よりも著者の観察する理性を感じてしまい、許容はしても賛成はできないのだ。どちらかといえば上のひまわりの歌の方が官能的ではないか。異論はあるだろう。

上に紹介した歌に戻るが、この歌には、自分の傷を癒す道程での葛藤をほんの少しの間、手放して、塞いでいた心を開け放してみたような清々しさを感じる。観察や技巧を忘れた深呼吸が見える。そんな時、私の中の澱んだ思想にも優しい風が吹き、僅かばかりは善人になったような気がするのである。

E V O L U C I O

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