俺が隣に坐るなり「実は今日、俺、入籍したんですけど」とウチの元店長Mが照れ臭そうに云う。一瞬びっくりしたけど、彼も32歳、別に不思議なことじゃない。「で、誰と?」とさりげなく聞くと、Mは黙ってカウンターの中を顎で示す。「うん?」と俺はカウンターの中に視線を向ける。カウンターの中にはTちゃんしかいない。え?ひょっとして?……まさか?Tちゃんと?……Mは頷く。Tちゃんはいつもの笑みを浮かべている。俺は「へぇー」と声を上げたか「あ、そう」と答えたか、今となっては覚えてない。多分、予想もしなかった現実を突きつけられて頭の中はパニックになってしまったに違いない。そりゃ二年位前からMがウチの店に客として来る様になっていたから、Tちゃんと会話を交わす機会があったことはあっただろうけど、そこにはいつも俺がいたし、二人きりになったのは一週間前に一緒に帰ったのが最初だと云うから、『ダーマ&グレッグ』に次ぐマッハ結婚だ。そうか、MがTちゃんと結婚したのか、そうか、TちゃんがMと結婚したのか……俺の頭の中は同じ言葉がグルグル回り続ける。ちゃんとお祝いの言葉が言いたいのに、うまく言えない。誰か俺の代わりにTちゃんにお祝いの言葉を掛けに来て下さい。