十時に今日老老ランチで食べるつもりで夕べの内に煮込んでおいたビーフ野菜カレーとサラダの具材を持って部屋を出る。母には十二時過ぎに行くと電話しておいたのだから少し早い。でも、朝風呂に浸かりながら「銃」に併録されていた「火」と云う小説を読み終わってしまって、これで中村文則の小説の手持ちがなくなってしまったと思ったら、何処か禁断症状みたいになってしまって、五反田駅前のブックファーストが開店する時間が待ちきれなかったのだ。さすがお気に入りのブックファーストだ。集英社文庫で「何もかも憂鬱な夜に」が、文春文庫で「世界の果て」がすぐ見つかる。ついでに単行本のコーナーにチラッと目をやったら今年の九月に刊行された「去年の冬、きみと別れ」まで置いてある。またいつ禁断症状に襲われるか怖かった俺は、その三冊共をレジに持って行ってしまう。そして勿論、五反田駅からたった一駅なのに山手線に乗り込んだ途端に「去年の冬、きみと別れ」を手にとってしまう。目黒駅からバスに乗ってもたった十分程度なのに読み続ける。母の部屋でカレーを食べている間は読むことができない。でも、その後予約してあった広尾の美容室「P」に行き、美容師のMさんが何人ものお客さんを一人で掛け持ちしているので、頭があくと?目が「去年の冬、きみと別れ」に行く。その帰りバスで品川に出てプリンスシネマで映画を見ようと思ったけど、時間的も内容的にも気分が向くものがなく、買い物して部屋に帰る。そしてまた‥‥もうやめておこう。俺が今日したことと云ったら、中村文則の小説を読むことと、夜になってカキフライを作ったこと。一人でカキフライを作って一人で食べることの切なさはやったことのある人じゃないと分からないだろうけど、後片付けも含めてそりゃちょっと考え込んでしまうものさ。でも、今日はホントでかくて満足いくカキフライが出来て、これだったらお客さんに出しても金がとれるぞと元飲酒店店主らしからぬ独り言をいう。
今日が最後、今日が最後とこれまでにも何度となく言い続けてきたけど、今日鍵を不動産屋に引き渡し、撤収作業についての確認を管理会社にして貰って、ガスや電気を止める手続きをしてしまえば、俺はもう二度とあの店の中に足を踏み入れることができなくなった。世話になったビルの所有者である学術団体の事務局長と管理会社の社長に見送られてビルを後にすると、やはり涙が自然と出て来る。この後、銀座で芝居を見に行く予定になっているのだけど、時間的にまだ早い。でも、とりあえず地下鉄に乗ってしまう。こんな気分の時に乃木坂六本木を彷徨っていてもロクなことはない。だからといって地下鉄で綾瀬まで出てみても気分を落ち着かせるものはないので、銀座まで戻ったら五時を過ぎていたので、乃木坂で行きつけの焼鳥屋の支店が去年オープンしたことを思い出し、行ってみる。本当は芝居を見る前に酒を飲むと眠ってしまう恐れがあったのだけど、今日はこの情緒不安を抑える方が大事だと言い訳して薄いウーロン杯を二杯。それでも軽く酔ってしまう。でも、それが幸い。酔いを覚まそうと劇場に行く前にコーヒー店に入ったら眠気に襲われ、十分ほど仮眠。更に劇場に着いて席に座ったら始まる前に五分ほど仮眠。そのおかげで常連のお客さんだったOさんの作演出作品「残花の響き」は一睡もすることなく最後まて見ることができた。そのまま有楽町から大崎経由で帰宅。急にカレーが食べたくなって帰宅してから録画してあった「ドクターX」を見つつ、時間をかけてタマネギを炒めカレーを作る。カレーは最高の出来。明日の老老ランチだ。
店をやっている時は、お客さんは勿論スタッフや業者の人たちも含めて毎日最低二十人位の人たちと会って話していた気がするけと、こうして店を閉店して三週間余、あまり人と会わなくなった。例えばこの四五日のことを思い返してみても、誰かと会って話したのは母親を除くと、土曜日にLさんを誘って七十年代の前衛イベントを見に行って帰りに常連だったUさんと三人で飲んだ時と、火曜日に突然文学座の公演を見に行って旧知の女性演出家のMさんと話して、帰りに一人下北沢のバーに行ってマスターの奥さんと話しただけというんだから、店をやっている時の人づきあい交友関係が嘘の様に思える。だったら桃井章は一人で何をやっているのかというと「一人でいる」のだ。今日も母の処へ老老ランチ(牛コマを叩いて作った自家製ハンバーグとキュウリ一杯の自家製マッシュポテトとクレソンのサラダにコーンスープ)をした後、二度と行きたくないと思っていた店へ忘れ物があったので取りに行った以外はへやに閉じこもって中村文則の「銃」を舐める様に読み耽っては、WOWOWで「ミスティック・リバー」(クリントイーストウッド監督)、「小説家を見つけたら」(ガス・ヴァン・サント監督)を見ていたかと思えば地上波で「リーガルハイ」(古沢良太脚本)を見ると云うテレビ三昧。でも、それが特別苦痛ではない。というか勝手に「作家モード」になっている。新しい店は開店資金の目処が立たなくて何時オープンできるか分からないし、このまま「作家モード」で年を越してしまうのか?
この数日、目が覚めると即座にバスタブにお湯を入れる。それまでは義務的で新聞を読んだりトイレに行った後で蛇口をひねったのが、朝風呂に入るのが楽しみになっているのだ。それはバスタブにゆったり浸かって中村文則の小説を読むこと。昨日の朝風呂までで「掏摸」を読み終わったので、寝る時ベッドの中でデビュー作の「銃」を読み出して、グイグイと引きつけられたものの、酔っていたこともあってさすがに一時間位で眠ってしまったので、その続きが楽しみでたまらないのだ。と云うと、いかにもミステリーっぽいストーリー重視の小説に思われてしまうかも知れないけど、「掏摸」も「銃」もストーリーらしいストーリーはない。「掏摸」もそうだったが、「銃」も偶然拳銃を手に入れた普通の大学生がたゆたっているだけの小説だ。でも、とまらない。今日もバスタブにつかりながら五十頁も読んでしまった。読み終わるのが淋しいからもっとゆっくり読まないといけないとと自戒したものの、風呂を出てからも後を引いてしまって、そりゃ今日は老老ランチがなかったので、冷蔵庫と冷凍庫の中の残り物を引っ張りだして、鰯の干物、納豆、市販の小ナスの漬け物、目玉焼きのプチトマトソティ添え、白菜としめじとインゲンと春菊の鍋物風味噌汁を作って一人食べたりしたり、この日記を書いたり、たまりにたまったこの二カ月分の請求書など郵便物を開封したりする時間を取ったりはしたけど、五時近くまでゆっくりゆっくり「銃」を読み進めていたら、もう半分を過ぎてしまった。やばい。このまま行ったら今日中に読み終わってしまうと怯えて、急遽思い立って紀伊国屋サザンシアターに向い、文学座公演「大空の虹を見ると私の心は踊る」(松本祐子演出)を当日券で見る為に並ぶ、と書くと折角の芝居に失礼だけど「銃」の誘惑はその位すごいのだ。終わった後、新宿で飲もうと思ったけど、下北沢に向う。開店の時に世話になったジャズバー「L」の店主Oさんに挨拶しようと思ったからだけど、Oさんはおらず、奥さんに言づけをしてラムを三杯飲んで店を出る。その時、ふとこの店には七月の中旬に※※さんと来て以来だったことに気づく。そういえばあの日は青山の映画館を出たら俄か雨に振られて近くの居酒屋の表にあったパラソルに飛び込んだものの、しばらくして彼女の服がびしょ濡れになってしまったもんだから下北沢で古着を買おうなんて、今考えると馬鹿みたいな誘い文句でこの街に来て、その後「L」で夜中までジャズを聞きながら口説く機会を失って悶々としながら過ごした思い出があるけど、そのおかげで「パラソル」と云う芝居ができたと思うと、ちょっと感慨深い。でも、そのロマンチックな感慨深さも空腹には耐えられず、下北沢駅前でラーメン、いやチャーシューメンを食べて五反田へ。そしてまたその駅前の深夜スーパーで明日の老老ランチのメニューを考えながら買い物。ついでに日本酒の肴としてするめを買ったりする。もうこうなると中村文則と※※さんとの思い出は何処かに行ってしまって、炙ったイカで日本酒飲みながらテレビのバラエティ。桃井章、文学的やロマンチックだけじゃ終わらない。。
お昼に母の処へ行こうとバスに乗っていた時にいつものズボンのポケットに携帯がないのに気がついた。ズボンを履き替えた時に入れ忘れたのに違いない。でも、取りに戻ろうにも母の家近所のバス停はもう二つ三つ先だ。だったら今日は携帯なしで過ごそうと思ったけど、老老ランチを終わったら店に行って色々連絡しなくちゃいけないのに、もう店の電話は取り外してしまったので携帯がなければどうしようもない。そこで仕方なく広尾から五反田に戻ることにしたのだけど、自宅マンションの近くまで来て聞き覚えのある携帯の呼び出し音が何処かから聞こえて来るのに気づく。あれ?ひょっとして?と耳を澄ますと、どうやらその音は鞄の中から聞こえて来る。あ、そう言えば起きて風呂に入る時に忘れない様に携帯を鞄にしまったことを思い出した。クソッ、そういうことだったのかよと鞄の中から携帯を取り出して、便利屋さんからの業務連絡を受けた時の虚しさよ。もう今日はこれから店に行く意欲を失ってしまって、部屋の中で「相棒」の再放送、録画してあった「平成中村座『法界坊 串田戯場」(演出・串田和美)、それが終わると休憩にラーメンを作って食べてから「ノンフィクションW鴻上尚史と第三舞台」「恋のためらい フランキーとジョニー」(ゲーリーマーシャル監督)を見るなんて、WOWOW三昧。去年の暮れ、ある女性と住んでいた時に彼女の要望でWOWOWに加入したものの、今年の春に彼女がここを出て行ってからWOWOWなんて殆ど見る機会も時間もなかったのだけど、コレドを閉店したものの新しい店の計画がうまく進行しておらずイライラとした日々を過ごす今となっては加入していてよかったと思う年の暮れ。
パソコンが不調なもんだから詳しい人に聞いて何とかしようとしたのだけど、どうにも回復の兆しは見えず、便利屋に頼もうか、それとも買った店に持っていこうか迷って三日。ふとパソコンの隅を見たら「故障診断・修理受付」の電話番号が書いてあるのに気づき、電話してみる。すると待つこと十数分、係の人にパソコンの状態を説明したら「まず電源を抜いて下さい」に始まっていくつかの作業手順を説明されて、その通りやってみたらたった五分程度でめでたく原状回復と相成った。万歳!と両手を上げてから、こんなことで直るのかよ!と腹立たしさに両手を壁に叩きつけた。今日の老老ランチは母が墓参りにいくので中止。天使のSちゃんとの月に一度の焼き肉会も母親のIの手違いで中止。仕方なく一人、豚肉のしょうが焼き、豆腐となめこのチーズ蒸し、市販の小ナスの漬け物、韓国海苔、春菊の味噌汁で食事してから録画してあった映画「百万円と苦虫女」(タナダユキ監督)と舞台「趣味の部屋」(作・古沢良太)を続けてみる。古沢さんは映画舞台と活躍されているけど、テレビの連続ものの方が断然凄い。タナダユキ監督は先日「俺たちに明日はないッス」を見て面白いと思ったけど、今日見た「百万円と苦虫女」も不思議な映画で、蒼井優演じる主人公のダラダラとした日常が描かれているだけなのに最後まで飽きることなく見ることができた。こうなると先日絶対みようと思っていた「四十九日のレシピ」を見逃してしまったのが悔やまれる。夕食は餃子を焼いて、白菜の千切り塩昆布和え、それにイカのゲソの塩焼きでプレミアムモルツを一本。WOWOWでやっていた「桑田佳祐 昭和八十八年度!第二回ひとり紅白歌合戦」を流しながら「掏摸」(中村文則)を読み続けて気づいたら12時半。一歩も外へ出なかったけど、タナダユキさんから始まって何人かの人々が俺を訪ねてくれた。
昨日の日記の最後にも書いたけど「掏摸」(中村文則)は凄い。正直云うと、この小説が大江健三郎賞を受けたことも米の「ウォールストリートジャーナル」で2012年のベスト10小説に選ばれた事も知らなかったし、著者の中村文則が1977年生れで俺より30才も若い作家だと云うことも知らなかった。何となく何かに惹かれる様に本屋の棚にあった文庫本を買い求めただけなのに、出だしの「まだ僕が小さかった頃、行為の途中、よく失敗をした」と云うフレーズが俺を鷲掴みにした。それは「幽霊たち」(ポールオースター)の「まずはじめにブルーがいる。次にホワイトがいて、それからブラックがいて、そもそものはじまりの前にはブラウンがいる」という冒頭のフレーズを読んだ時の感触に似ている。そう言えば「幽霊たち」も探偵が主人公だと知って、だったら気軽に読めるだろうと買い求めたものだったのけど、同じ様にこの小説も天才スリ師が主人公だと書いてあったから軽い読み物のつもりで買い求めたのだ。でも、二つの小説とも「軽かった」り「気軽」だったりはしなかった。「重くて」「深刻な」作品だったが、買い求めた時の気軽さが幸いしてか身構えることなくその世界に耽溺することができたのかもしれない。お昼に知人と広尾でランチした後、店に出向き、便利屋に頼んで最後の荷物運び出し。棚が壊れ、カウンターの中の冷蔵庫がなくなり、電気コードが垂れ下がる。十年間苦楽を共にしたあのコレドの空間が廃墟になってしまった。もうあの場には足を踏み入れたくない。淋し過ぎる。哀し過ぎる。3時過ぎに母の処に稲荷寿司と松坂牛のコロッケを持って行っておやつ。7時にまだ25才なのに70年代の雰囲気を漂わすLさんを誘って彼女が好きそうな70年代前衛演劇の旗手だった芥正彦が台本演出する「ホモフィクサス舞踏オペラHEL- GABAL」を草月ホールに見に行く。アルトーの詩、結城一糸のあやつり人形、室伏鴻の舞踏、近藤等則のトランペット…‥は充分すぎる位70年っぽくてLさんは満足したみたいで、誘った俺も満足。終わった後、会場で偶然あったS新聞のUさんと三人で乃木坂近くのレストランバーで飲む。何だかこうしてコレドのお客さんだった二人とコレドの近くで飲むなんて何とも複雑な気持になる。一時間少しで終電に間に合うように乃木坂駅に急ぐ途中チラッとみえたコレドのあった乃木坂ビルの外景は俺の気持をすさんだものにする。明治神宮前で二人と別れて五反田に向うが、このまま一人部屋に帰るのが辛くて、五反田有楽街で居酒屋から危ないスナックをはしごしたりして水割り二杯で(+ママにも奢ったか)一万円ぼられる。かなり精神状態がよくない。でもパソコンは修復した。
パソコンはまだ回復しないので携帯メールでこの日記を書いていると、慣れないもんだから余計なキィを押してしまって、まだ終わってないのに送信されてしまったりする。パソコンだと訂正出来るけど、携帯メールでは不可能。昨日がそうだった。最後「悪の法則」がよかったのかつまらなかったのかあの終わり方じゃよく分からない。でも、あの映画はよく分からないからちょうどよかったか?今日の老老ランチはひじきの混ぜご飯に豆腐を半分と春菊を一杯使った湯豆腐風味噌汁にメインは母の大好物のマグロとアボカドのわさび醤油和え。一度店に出て便利屋の手配をしてからバスで部屋に戻り、途中で買った「掏摸」(中村文則)を読み耽る。これ、間違いなく傑作!
午前中店へ。便利屋に頼んでワインセラーや店の入口にあった荷物棚などを五反田の自宅に運ぶ。本当は新しい店に運びたかったが、ピアノをおいてしまったので場所がないので仕方ない。部屋でペペロンチーノとミネストローネ、オレンジときゅうりのシーザースサラダの材料を持って母の所へ。デザートはバニラアイス。銀行で振り込みなどしてから今日は品川ブリンスシネマで「悪の法則」(リドリースコット)パソコンが直らない。
朝から体調がいまいち。こんな時は精をつけなければと、近所の鰻屋で一人前二千円の鰻弁当を母の分も作って貰い老老ランチ。でもダメ。そのまま店に後片付けにいこうとしたが、六本木についた辺りで目眩と眠気に襲われたのでちょうど通りかかったバスに乗って五反田にUターン。バスの中でも眠っていたけど、部屋に入るなり、ソファーじゃなくてベッドに倒れ込んで3時から7時まで眠り続けた。こんなことは珍しい。体調に異変。そういえばパソコンにも異変。起動したらメーカーのマークと一緒にでるアイコン?がでない。確か前にもこんなことはあったけど、あの時はどうしたら直ったんだっけ?今の俺には体の異変よりこっちの異変の方が問題。