プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

ねつぞう納豆ダイエット  だます心だまされる心(安斎育郎)

2007-01-21 18:58:47 | 社会問題
「ダイエット効果がある」として納豆ダイエットを取り上げ、全国の小売店での品薄騒動を引き起こしたフジテレビ系のテレビ番組「発掘!あるある大事典2」を制作した関西テレビは20日、記者会見を開き、実験が「捏造(ねつぞう)」だったことなどを明らかにし、千草宗一郎社長が陳謝した。アメリカのダイエット最新情報を基に、男女8人を対象に様々な形で納豆を食べてもらい、ダイエットの効果を検証する内容だった。1日2パックの納豆を朝晩に分けて食べ続け、2週間後に数キロやせたとする事例を紹介した。しかし実際は〈1〉アメリカのダイエット研究で、やせたとする3枚の比較写真は被験者と無関係〈2〉アメリカの研究者がダイエット効果を話したとする発言はなかった〈3〉実験した8人のコレステロール値、中性脂肪値、血糖値の測定はしていない〈4〉納豆の食べ方を変えて測定したとする実験結果は架空――など、取材や実験結果の大半は捏造だった(「読売新聞」2007年1月20日23時49分)。

今回の実験捏造事件の背景には、どうも視聴率第一、番組制作過程の下請、孫請、再下請などの倫理よりも利益優先の現代社会の病理が関係しているようだ。ある制作プロダクションのプロデューサーによれば、情報系の番組では、ネタに困ったらグルメか健康かというのが定番だという「やり尽くしたネタだからこそ『納豆』という食材との組み合わせの意外性に飛びついたのではないか。孫請けの会社に『効果はありませんでした』は許されない」(「朝日新聞」2007年1月21日)。
視聴率が高い「あるある大事典」の制作担当者にとって経費をかけて取材をして思うような期待がえられなかったでは、済まされない。前科がある制作請負会社の「日本テレワーク」とその下請けに罪をかぶせるような動きもあるようだが利潤第一の後は野となれ山となれ式の資本主義の病理があらゆる分野のあらゆる人々のこころを蝕んでいるようで問題の根は深い。

世の中に専門の詐欺師も含めて「だましの論理」が満ち満ちている限り、私たちは「だまされ」ないように気をつけるほかない。
「だまし」がもっとも大規模に行われるのは、国家権力による政策誘導の「だまし」である。安斎さんは『だます心 だまされる心』の中で柴山哲也『戦争報道とアメリカ』から「ナイラの証言」を紹介している。1991年の湾岸戦争のとき、クウェートの少女ナイラが、侵攻してきたイラク軍兵士が、病院で幼い乳飲み子を殺害するなど残虐行為の限りをはたらいたと証言した。この「ナイラ証言」はイラク攻撃をする米軍・多国籍軍を後押しし、アメリカの正義をアピールするのに使われたことはいうまでもない。ところが、この証言は、広告会社ヒル&ノールトンが600万ドルで引き受けたまったくのウソ、捏造証言であった。少女ナイラは実はアメリカ駐在のクウェート大使の娘でイラク兵士が侵攻したクウェートではなく、アメリカにいたのだ。真相は「ホワイトハウス」が最大の広告代理店だったのである。これを知っておれば、私たちは2003年イラク戦争での女性兵士ジェシカリンチの「決死の救出劇」のウソを見抜けたかもしれない。リンチ兵士はイラクの銃弾に当たって重傷を負ったのではなく、実は、イラク側の攻撃を受けて混乱した味方の車どうしが衝突して負傷したというのが真相で、なぜ彼らが救出場面を撮影しているのか理解できなかったという。

私たちには、何がほんとうで何がウソかを見きわめる姿勢と力量が要求される。人気のある文化人や有識者が国家権力に使われているときにはとくに要注意である。簡単に「だまし」に乗せられないためには、つねに権力や権威を疑い、批判する目をもつことが必要だ。「客観的な命題」に対しては「好き嫌い」でなく徹底的な合理的思考を貫く努力が大切である。価値判断に依存する「主観的命題」でも「自分勝手でいい」というものではない。とりわけ階級社会にあっては、支配階級のイデオロギー操作を見抜く力量が要求される。その場合、「共通の価値観」の基準となるのは、人類が歴史のなかで培ってきた、小数の強い者ではなく、多数の弱い者が「そうだ」と思う共通の価値観である。
安斎さんは、だましの道への二つの落とし穴は①「思い込み」の危険―「自分はだまされない」はすでに「思い込み」と②欲得―人々に欲望がある限り、詐欺師は安泰?だと締めくくっている。

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