最近、改めてこのことについて考える機会があった。
勉強のため、これを読むことにした。
Shah FA, Meyer NJ, Angus DC,
A Research Agenda for Precision Medicine in Sepsis and Acute Respiratory Distress Syndrome: An Official American Thoracic Society Research Statement.
Am J Respir Crit Care Med. 2021 Oct 15;204(8):891-901. PMID: 34652268.
以下、勉強したことと思ったこと。
「」は上記の文献に書いてあること(の意訳)。
・「Precision medicineとpersonalized medicineは時々同じ意味で使われるが、実際は異なる。最終的には個人個人に合わせた治療が望ましいが、実際はそのレベルに到達するのは困難で、現状ではprecision(高精度)止まり。」
Wikiにはこう書いてあるが、これはちょっと違う気がする。がん治療のようなprecision medicineの花形ですら、personalizedと言えるレベルには達していないはず。
・「非集中治療領域でのprecision medicineの発展を見ていると希望を持ちたくなるが、敗血症やARDSは病態がもっと複雑だし、治療方針を数時間で決定しないといけないので遺伝子検査の結果を待つ余裕もない。なので、通常診療で測定される項目を用いたprecision medicineが最初の一歩になるだろう。」
これだけ読んでも、本当の意味でのprecision medicineが集中治療に入ってくるのは当分先だろうということが分かる。
・「重要なことは、もしそういう治療があるとしても、厳格に行われる前向き研究によって確認される必要がある点だ。」
ここも大事。RCTのサブ解析の結果とか、観察研究でのリスク因子などを使って、ICU患者の治療方針を個別に行っていくことがprecision medicineだと思っている人がいたら、それは大間違い。
・「phenotypes、subphenotypes、endotypes といった言葉が一般的に使われるが、ここではまとめてサブグループと呼ぶ。」
とくにphenotypeっていう単語はよく見かけるようになった。かっこいいけど、結局はサブグループのことだからね。ちょっと流行り過ぎなんじゃないかなー。
・「無作為化なしに、ある予測因子を持った患者がある治療に対してより反応しやすいかどうかの因果関係を判断するのには限界がある。」
RCTで治療が有効なサブグループが見つかる。観察研究で治療に反応しやすいサブグループが見つかる。それイコール、そのグループに対してその治療法が選択可能、ということにはならず、サブグループを対象としたRCTが必要だ。EBMの基本ですね。
・「Adaptive trialのような研究デザインが重要だ。」
例えば研究途中でこの群で有効そうだとなればその群のみを対象とするように変更したり、予定されたサンプル数が少なそうなら増やしたり、そういう研究手法が今後はどんどん行われていくのでしょう。有効性が示唆されたがサンプル数が足りず証明には至らない、みたいなのは悲しいものね。
・「データサイエンスの進歩によってprecision medicineを促進しよう。」
機械学習の方が普通の多変量解析よりも予測精度が高いことは、集中治療領域でも多くの研究が示しているので、治療が有効かもしれないサブグループの特定などにも今後は利用されていくのでしょう。ただ、この機械学習の手法を使ったら予測精度が上がったよ、という研究止まりで、実際にそれを利用してRCTをしたとかはまだ見たことがない気がする。
・「precision medicineが進歩しても、資源の豊かな国だけでしか利用できません、とかじゃダメでしょ。」
ほんとにそうだ。話はずれるが、金持ちの国によるコロナワクチンの買い占めは悲しい出来事だった。
・「適切で持続的な資金が必要だ。」
世の中、結局は金なのよね。
まとめ。
現状ではprecision medicineをICUで行うことはできないし、がん治療レベルのものが入ってくるのも当分先。
「患者さんの病態に即した治療をしよう」というのは、カッコよく聞こえるけど、現状では「なんちゃって」です。
追伸。
AJRCCMという雑誌は特に人工呼吸関連についてEBMから少しズレている、という印象を僕は持っているので、precision medicineについて検索してこの文献を見つけた時にはちょっと心配したのだけど、読んでみたらちゃんとした内容だった。
勉強のため、これを読むことにした。
Shah FA, Meyer NJ, Angus DC,
A Research Agenda for Precision Medicine in Sepsis and Acute Respiratory Distress Syndrome: An Official American Thoracic Society Research Statement.
Am J Respir Crit Care Med. 2021 Oct 15;204(8):891-901. PMID: 34652268.
以下、勉強したことと思ったこと。
「」は上記の文献に書いてあること(の意訳)。
・「Precision medicineとpersonalized medicineは時々同じ意味で使われるが、実際は異なる。最終的には個人個人に合わせた治療が望ましいが、実際はそのレベルに到達するのは困難で、現状ではprecision(高精度)止まり。」
Wikiにはこう書いてあるが、これはちょっと違う気がする。がん治療のようなprecision medicineの花形ですら、personalizedと言えるレベルには達していないはず。
・「非集中治療領域でのprecision medicineの発展を見ていると希望を持ちたくなるが、敗血症やARDSは病態がもっと複雑だし、治療方針を数時間で決定しないといけないので遺伝子検査の結果を待つ余裕もない。なので、通常診療で測定される項目を用いたprecision medicineが最初の一歩になるだろう。」
これだけ読んでも、本当の意味でのprecision medicineが集中治療に入ってくるのは当分先だろうということが分かる。
・「重要なことは、もしそういう治療があるとしても、厳格に行われる前向き研究によって確認される必要がある点だ。」
ここも大事。RCTのサブ解析の結果とか、観察研究でのリスク因子などを使って、ICU患者の治療方針を個別に行っていくことがprecision medicineだと思っている人がいたら、それは大間違い。
・「phenotypes、subphenotypes、endotypes といった言葉が一般的に使われるが、ここではまとめてサブグループと呼ぶ。」
とくにphenotypeっていう単語はよく見かけるようになった。かっこいいけど、結局はサブグループのことだからね。ちょっと流行り過ぎなんじゃないかなー。
・「無作為化なしに、ある予測因子を持った患者がある治療に対してより反応しやすいかどうかの因果関係を判断するのには限界がある。」
RCTで治療が有効なサブグループが見つかる。観察研究で治療に反応しやすいサブグループが見つかる。それイコール、そのグループに対してその治療法が選択可能、ということにはならず、サブグループを対象としたRCTが必要だ。EBMの基本ですね。
・「Adaptive trialのような研究デザインが重要だ。」
例えば研究途中でこの群で有効そうだとなればその群のみを対象とするように変更したり、予定されたサンプル数が少なそうなら増やしたり、そういう研究手法が今後はどんどん行われていくのでしょう。有効性が示唆されたがサンプル数が足りず証明には至らない、みたいなのは悲しいものね。
・「データサイエンスの進歩によってprecision medicineを促進しよう。」
機械学習の方が普通の多変量解析よりも予測精度が高いことは、集中治療領域でも多くの研究が示しているので、治療が有効かもしれないサブグループの特定などにも今後は利用されていくのでしょう。ただ、この機械学習の手法を使ったら予測精度が上がったよ、という研究止まりで、実際にそれを利用してRCTをしたとかはまだ見たことがない気がする。
・「precision medicineが進歩しても、資源の豊かな国だけでしか利用できません、とかじゃダメでしょ。」
ほんとにそうだ。話はずれるが、金持ちの国によるコロナワクチンの買い占めは悲しい出来事だった。
・「適切で持続的な資金が必要だ。」
世の中、結局は金なのよね。
まとめ。
現状ではprecision medicineをICUで行うことはできないし、がん治療レベルのものが入ってくるのも当分先。
「患者さんの病態に即した治療をしよう」というのは、カッコよく聞こえるけど、現状では「なんちゃって」です。
追伸。
AJRCCMという雑誌は特に人工呼吸関連についてEBMから少しズレている、という印象を僕は持っているので、precision medicineについて検索してこの文献を見つけた時にはちょっと心配したのだけど、読んでみたらちゃんとした内容だった。