Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
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ハロペリドールによるICU患者のせん妄治療

2022年12月31日 | 神経
2ヶ月前にonline pubされて、結果だけ見て忘れていた文献。
最近、周りで話題になったので、ちゃんと読んでみた。
そしたら、色々変な研究であることが分かり、まとめておくことにした。

Andersen-Ranberg NC, Poulsen LM, Perner A, et al.; AID-ICU Trial Group.
Haloperidol for the Treatment of Delirium in ICU Patients.
N Engl J Med. 2022 Dec 29;387(26):2425-2435. PMID: 36286254.


・Primary outcomeである90日生存日数は35.8日 vs. 32.9日で少し介入群が長い程度(p=0.22)だが、死亡率は36.3% vs. 43.3%と有意に治療群で少ない。
・8%以上の90日生存日数の延長を90%のパワーで検出できるサンプルサイズを算出し(ちょうど1000例、まあ偶然)、実際にちょうど1000例が研究対象となり(まあ偶然)、(35.8-32.9)/32.9=8.8%の差が出たのに、差が検出できなかった(まあ残念)。
・SMS-ICUという聞いたことのないスコアで予測死亡率を算出している(pubmedでは6つしか文献が出てこない)。
・コントロールできない譫妄ではプロポやミダゾラムやDexの使用が許可されているが、使用頻度は57.5% vs. 62.1%で差が小さい。つまりハロペリドールは譫妄のコントロールにほぼ役立っていない。
・18のICUで、46ヶ月間、18歳以上の急性期症例は全例でスクリーニングが行われるよう推奨されたが、譫妄と診断されたのは1738例。平均して1施設に月に2例しか譫妄になっていないことになる。実際は一部の施設でほとんどの症例がenrollされているとはいえ、症例のセレクトが行われていそう(editorialにも指摘あり)。

どんな研究も、探せば問題点は見つけられるわけで、それ自体にはあまり意味はない。
それよりも、この研究結果を世間がどう評価するかが重要で、可能性としては、
・譫妄に薬剤を投与しても予後改善にはつながらないというのが現在の一般的な認識だが、この研究で再度盛り上がり、追試の研究が行われる。
・ほぼ気にされず、闇に消えていく。未来のガイドラインなどでもチラッと触れられるか記載されないか。
のどちらか。

僕の予想は後者。
読んでいて違和感を感じる研究で、かつprimary outcomeではない結果が評価されるとは考えにくいので。
NEJMだから何でも評価されるわけではなく、闇に消えていった研究もある。例えばこれ。出た時から信用されず、今はもう誰も話題にしない。

さて、この研究がどうなるか。2-3年したら分かるでしょう。

大晦日ですね。
今年は自分のやろうとしていることが少しだけ形になってきたので、来年は楽しみ。
では良いお年を。
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