徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

うさぎの居た森

2006-12-17 21:47:00 | 生き物
 毎日天気が悪いので部屋中に洗濯物が干してある…。
もう少し気温が低ければ暖房を入れるけれど…それほどでもないのでよけいに始末が悪い…。
 
 部屋干し用の洗剤を使っても無駄だということが分かった…。
におうものはにおうんだ…。
やっぱりお日さまには敵わないね…。

 そろそろ…こちらでも雪が舞いそうなものなんだが…温暖化のせいか昔ほどは降らなくなった…。
過ごし易いと言えば…その通りなんだけどね…。


 雪が積もるといつも…犬を連れて森へ入った。
寒くなると自分の尻尾をお尻の下に敷くほど寒がりな犬だけれど…遊びに行くのは大好き…。 
雪の中を喜び勇んで走り回る…。

 森の少し開けたところで鎖をはずしてやった。
当時は…犬を放してはいけないなどという決まりがなく…人の居ない広いところでは自由に遊ばせることもしばしばあった。

 狩猟の季節なので森の奥の方には行けないが…森の入り口から近い辺りでも十分遊べた。

 犬が自由に駆け回っている間…雪景色を眺めながら散策する…。
雪国ではないから積もっているとは言ってもそれほど深い雪ではない…。

それでも辺りは白く静寂な世界…時折…鳥の声が聞こえる他は雪を踏みしめる足音が響くだけ…。

 雪の多い地方では生死に関わるものだから…こんな悠長なことを言ってられないんだろうけれど…めったに降らないこの土地では雪も楽しむことができる…。
申しわけないような贅沢な時間だ…。

 しばらく歩いて…いつものように犬が寄ってこないことに気が付いた…。
臆病者だから…放してもすぐに飼い主の傍に戻ってくるのに…足の傍をすり抜けるようにして駆けていくのに…。

 犬の名前を呼んでみる…。
が…寄って来ない…。

 仕方なく…元の場所へ戻ってみる…。
足跡を辿ってみると…藪の中へ続くところで途切れていた…。

どうやら…藪の中へ入り込んだらしい…。

 よく見ると…犬の足跡だけではない…。
小さな足跡が点々としている…。

うさぎだ…。

犬はうさぎを追って藪の中へ入ったのだ…。
どおりで…戻ってこないわけだ…。

 この森へ入った時には…もう…姿は見えなかった…。
うさぎは敏感だから人間に気付いて逃げ出したんだろうけど…犬の鼻には敵わない…。

 跡を追って行った姿を想像する…。
運動神経の悪い犬…だから…到底追いつけやしないな…。
…思わず笑みがこぼれた…。

白い世界に…犬とうさぎ…藪の中を追いつ追われつ…。

 突然…まったく別の方からハアハアと犬の息遣いが聞こえてきた…。
全身の毛に白い粉をふきながら…白い息を吐いて駆けて来る。

森の中をぐるっと回ってきたのかい…?

 犬がすね擦りして逃げようとするのを捕まえた…。
ちょっと不満げ…。 
もっと遊びたいのに…とでも…思っているのかも知れない…。

 帰るよ…あまり奥まで行くと…おまえが銃で撃たれてしまうからね…。
それに…うさぎが気の毒だから…さ…。

 もう一度…藪の方に眼を向ける…。
チラッとでも姿を見せてくれないかな…。

しんと静まり返った森の中…。
細かな雪がちらちらと舞い始める…。

そんな奇跡は…起こらないね…。
…ほんの少し頬が緩む…。

帰ろう…。

 鎖を繋いで森を出る…。
森の外は日常の世界…止まった時間が動き出す…。